キッズ・ソルジャー




 数日後、ブルーはジョミーと会った。シャングリラの船内の通路で、まったくの偶然だった。
「ジョミー……!」
「ブルー……」
 ジョミーの顔色は優れなかった。ブルーにはそう見えた。
 けれどそれを気遣うよりもまず、ジョミーに会えた嬉しさの方が優ってしまった。
「久しぶりだね」
「はい……」
 ブルーはいまだ自分よりも小さなジョミーを見つめた。
 けれどジョミーの瞳は、ブルーを見なかった。
 その態度もどこかぎこちなく、よそよそしい。
「最近、何かあったのかい?」
「何か……って?」
「あまり顔を見せに来てくれないようだから……」
「…………」
 ジョミーは無言だ。
 やはり何かあったのかと、ブルーは思った。そしてその理由として、思いつく事は一つしかなかった。
「この間の事なら僕は気にしてないよ。別に減るものでもないし」
「減るものでもないって、そんな……」
 ジョミーは頬を染めて絶句した。
 ブルーはジョミーを何とか元気づけようとした。だから必死で言葉を紡いだ。
「そういえば君とは一緒にお風呂に入った事はなかったよね。今度一緒に入ろうか?」
「は、は、入るって……!」
「ああ、気兼ねはいらないよ。僕は君の事なら赤ちゃんの時から知っているし」
「気兼ねします!!」
 通路にジョミーの叫び声が響いた。
 そのあまりの剣幕に、驚いてブルーは黙り込んだ。
 ジョミーは逸らしていたいた視線をブルーに向けた。
 真っ直ぐブルーを見つめながら、意を決したように問いかけてきた。
「……貴女にとって、僕は何?」
「え……?」
 それはブルーが想像もしていなかった質問だった。
「ジョミー、急にどうしたんだい? 何故そんな事を……?」
「いいから教えて、ブルー」
 理由を聞いても、ジョミーは何も話さなかった。
 仕方なくブルーは答えた。思っている通りを、思っているままに。
「君は……僕の大事な後継者だよ。血は繋がってないけれど、もしも僕にも子供がいたら君のようであってほしい、そう思うくらい君を愛しているよ」
「そう……。やっぱり、そうなんだ」
 それを聞いたジョミーは、なぜだかひどく暗い顔をした。
 ブルーとしてはきっと、喜んでもらえると思っていた。
 少なくともそんな風に、落ち込まれるとは思ってもいなかった。
「ジョミー……?」
 いったいどうしたのかと、ブルーはジョミーに問いただそうとした。
 その時、ちょうどブルーに声をかけてくる者があった。
「ソルジャー、捜しましたよ」
「ハーレイ」
 二人の元にやって来たのはハーレイだった。
「ステルス・デバイスの件で……ああ、失礼、お話し中でしたか」
 ジョミーとブルーの側にやって来たハーレイは、二人の間の雰囲気が、何とはなしに剣呑である事に気づいた。
「では私はまた改めて───」
「いいよ、僕は話すことなんかない」
 その場を辞そうとしたハーレイを押しのけて、ジョミーは走り去った。
 翠の瞳が一瞬だけハーレイを睨みつけたが、ジョミーは何も言わなかった。
「ジョミー……!」
 ブルーが呼び止めても、振り返りもしないで走って行ってしまった。
「ジョミーと何かあったのですか、ソルジャー」
「いや……」
 ハーレイに聞かれても、説明などできる筈もなく、ブルーは遠ざかるジョミーの後ろ姿をただ見つめた。