DATE with an ANGEL
11



  啓介も史浩も、思いがけなく現れたケンタに驚いた。
 「ケンタ!?」
 「どうしてここに───」
  なぜここがわかったのか史浩は問いただそうとしたが、すぐにその答えに思い当たった。
  前に史浩がそうしたように、ケンタも史浩の後をつけていたのだろう。
  しかし史浩たちが何よりも驚いたのは、ケンタ本人にではなく、ケンタが手にしている物にだった。
  ケンタはその手に、鈍い光沢を誇る一丁の猟銃を持っていた。
 「お前、それ───!?」
 「親父の銃です。だってこうでもしなきゃ───」
  顔色を変えて叫ぶ史浩に、ケンタも負けじと叫び返した。その言葉に、父親が趣味で狩猟をしていると、
ケンタが以前話していたのを史浩は思い出した。
  そしてケンタは啓介の横にいる天使に銃を向けた。
 「啓介さん、その悪魔から離れて下さい!!」
  ケンタの構えた銃の銃口は、まっすぐ天使へと向かっていた。
  ケンタは本気だった。啓介のためには、もうこの悪魔を殺すしかないとまで思い込んでいた。
 「やめろケンタ!!」
  そのケンタと天使の間に、啓介はためらわずに割り込んだ。
 「どいて下さい、啓介さん!」
  驚いたケンタが叫んだが、啓介は従わなかった。
 「啓介さん!!」
 「……!!」
  天使も啓介を自分の前から退かせようとしたが、啓介は一歩も動かなかった。決して天使の前から引かなかった。
 「啓介さんっ!!」
  ケンタの何度目かの叫びに弾かれたように、啓介は銃を取り上げようとケンタに向かって走り出した。
  そして一丁の銃を巡って、啓介とケンタは争った。
 「この……っ!!」
 「け、啓介さんっ!」
  力ずくで、互いに銃を自分のものにしようとしたその時───山中に一発の銃声が響いた。
  そして、鋭いその音が響き渡った後、ガクリと啓介が倒れた。
 「───!!」
  地面に倒れた啓介に天使が駆け寄り、その身体を助け起こした。
 「啓介っ!!」
  史浩も急いで啓介に駆け寄った。
  ケンタは自分で引き起こした事でありながら真っ青になって震え、銃を手にしたままその場に立ち尽くしていた。
  倒れた啓介は頭部から出血しており、赤い血が頬に幾筋も細い流れをつくっていた。
  啓介の怪我を史浩は急いで確認した。
 「……頭をほんの少し掠っただけだ。場所が場所だから安心はできないけど、命に別状はないと思う」
  傷の止血をしながら、史浩は言った。
  啓介を抱きしめていた天使は、史浩の言葉を聞くとわずかに安堵の表情を見せ───しかしすぐに顔を上げてケンタを睨んだ。
  天使の冷たい怒りをはらんだまなざしに、ケンタはたじろいだ。
  啓介を史浩に預けると、天使は立ち上がった。そして音もなくその背中に羽を現した。
  そしてその純白の羽を広げながら、鋭いまなざしで空を見上げた。
  するとにわかに空が黒くかき曇った。今までの晴天が嘘のように、黒い雲が空一面に押し寄せてきた。
  山の天気は変わりやすいというがそんな変化ではなかった。自然現象とは違う、明らかに誰かの意思が働いたもののようだった。
  風も強く吹き荒れ始め、嵐の予感があった。
 「な、何だ……?」
  動転していたケンタも、その異変に気づいた。
  そしてケンタが頭上を見上げると同時に、雨が降ってきた。
  それは降り出してすぐ土砂降りに変わった。まるで矢のように降り注ぐ雨粒と向かい風にケンタは怯んだ。
 「うわぁ……っ!!」
  雨は視界を隔て、ケンタにはもう近くにいるはずの啓介や史浩の姿さえも見えなくなっていた。
 「啓介さん! ……史浩さん! どこにいるんすか!?」
  ケンタは必死になって助けを求めたが、誰からも返事はなかった。この豪雨の中ではたとえ隣にいてもまともに声など届かないだろう。けれどそれでもケンタは声を張り上げた。
 「俺は、啓介さんを撃つつもりじゃあ───」
  しかし嵐は一向に静まる気配を見せない。まるで天使の怒りをそのまま現しているかのような激しさで、ケンタに押し寄せて来る。
 「ゴ……ゴメンッ! 俺が悪かったよっ……!!」
  ついにケンタが泣きながら謝ったその時───閃光が辺りを包んだ。
  大音響とともに、一条の雷がその場に落ちた───。


  史浩は啓介を抱えたまま、気を失ってしまっていた。
  気づいた時、嵐はすでに過ぎ去った後だった。
  頭上には先ほどまでの嵐が夢だったかのような、澄み切った青空が広がっていた。
  けれど周囲の木々も野原もしっとりと雨に濡れて、あの嵐が現実のものであった事を知らしめていた。
  周囲を見渡せば、少し離れた場所にケンタが倒れていた。
 「ケンタ……!」
  史浩は啓介の身体を地面に横たえると、慌ててケンタに走り寄った。ケンタは気絶しているだけで、怪我もしていなかった。
  ただケンタが手にしていた銃が黒く焼け焦げ、少し離れた地面の上に転がっていた。
  未だブスブスと細く煙を上げているその様子に、先ほどの落雷は銃めがけて落ちたのだと知れた。
  気づけばケンタも周囲の木々もびしょ濡れなのに、啓介の体は一滴の雨にも濡れていなかった。驚いた事に史浩もだった。
  史浩はずっと啓介を抱えていたからかもしれないが、あんなに激しい雨だったのに、まさしく奇跡としか考えられなかった。
  しかし啓介は倒れて、意識を失ったままだ。
  そしてどこにも天使の姿はなかった。
  史浩がいくら呼んでも、まるで消えてしまったかのように天使は姿を現さなかった。



よーやくケンタにちょっとだけ復讐〜(^^;)
私としては
まだ甘いとは思いますけどね。まあ「天使」ですからこのくらいで……(^^;)


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