DATE with an ANGEL
7
すぐにケンタたちはS14でアパートを出発した。
真夜中の道路はまったく混んでおらず、車は一時間ほどで目的地へスムーズに到着した。
高い塀がそそり立つその入場口には人の気配もなく、門はしっかりと閉じられていた。これ幸いとケンタは門の前にS14で乗り着けた。
到着したのは群馬サファリパーク。
夜のサファリパークは静かだった。時々遠くから動物の鳴き声が聞こえたが、それはほんの時々だった。
そうして三人は天使を車から降ろした。
ケンタが思いついた妙案とは、天使をここに置き去りにする事だった。そしてこの中に引き取ってもらえれば、天使はもう啓介に会えないだろうという算段だった。
珍しい生き物だからこういった所なら引き取ってくれるだろうと、安易に考えたケンタだった。
しかし天使───いや、ケンタのいう悪魔を置いて行くにあたって、問題が一つ残っていた。
「おいケンタ、どうやって引き取ってもらうんだ?」
「置いてきゃいーだろ。『この悪魔を引き取って下さい』って置手紙付きでさ」
「でもよぉ、このままだと人間にしか見えないぜ」
「うーん……。確かに」
ケンタはその目で確かに見たが、いまサファリパークの入り口に無理やり座らせた天使のその背中には、羽も何も見当たらなかった。現に走り屋仲間の二人は、相手が人間ではないらしい事は感じていたが、かと
いってはっきり断言もしかねる心境だった。
そこでケンタは天使の顔を隠すのに巻いていた毛布を外すと、視線を合わせないようにして声高に命令した。
「オイ、羽を出せよ」
「…………」
しかし天使はケンタの顔を冷たく見据えるだけで、もちろん羽を出そうともしなかった。その頑なな態度にケンタの頭に血が上った。
そしてケンタは天使の背中を足で蹴った。
「この悪魔、出せったら出せ!」
「───!!」
「やめろケンタ!!」
不意に響いた怒声に、その場にいた全員が一斉にその声のした方を見た。
ケンタのS14のその向こう───そこには啓介の姿があった。啓介の後ろには史浩のもおり、さらに離れたその後ろにはFDと史浩の車が見えた。
「啓介さん!?」
いきなり現れた啓介にケンタは驚きの声を上げた。残りの二人は声もなく、ただうろたえるばかりだった。
啓介からは明らかに怒りのオーラが発せられていた。ビリビリと肌に伝わってくるその激しさに、その場にいた誰もが声をかける事ができなかった。
啓介はその感情を露にしたまま───けれどケンタたちには目もくれず、真っ直ぐ天使へと歩み寄った。そして天使を縛っていたロープを解いた。
ようやく自由を取り戻した天使は、ため息を一つつくと驚いた顔で啓介を見上げてきた。
「大丈夫か? どっか痛くないか?」
啓介は天使に手を差し伸べ、ゆっくりと立ち上がらせた。
天使の身を案じる啓介の言葉に、天使は頷きながら微笑みを返してみせた。
「良かった……」
啓介は天使を抱きしめた。天使も啓介の逞しい背中に手を回した。
そんな啓介たちの様子を眺めながら、史浩もようやく安堵した。
偶然、天使を車に乗せたケンタたちの姿を見かけた史浩は、不穏なものを感じて後をつけたのだ。そしてケンタたちがアパートにいる間に啓介に連絡し、ここサファリパーク前で落ち合ったのだ。
ふと史浩がケンタを見ると、ケンタは為す術なく立ち尽くしていた。一緒にいた二人はとうにこの場を逃げ出していた。
そして啓介は天使を連れ帰ろうとした。
ケンタは啓介の前に立ち塞がり、それを止めさせようとした。
「啓介さんっ! ダメですそいつは───」
ケンタが何事かを言いかけたが、啓介はそれを許さずケンタの頬を拳で殴りつけた。
「!!」
「啓介!!」
啓介の突然の行動に、驚いたのは天使と史浩だった。
ケンタは殴られた拍子に後ろに吹っ飛び、サファリパーク前のアスファルトの地面に転がった。
しばらくしてゆっくりと上半身を起こしたが、自分の身に起こった事が信じられないのか、啓介を呆然と見つめた。
「啓介さん……」
「今ので、お前のした事は帳消しにしてやる」
啓介の表情はもちろん、その声までも冷たかった。啓介と一緒にいて邪険にされた事はあったが、今までそれほどまでに冷たい啓介の声をケンタは耳にした事がなかった。
そんなケンタにそれ以上は構わず、啓介は天使を連れて立ち去ろうとした。その後姿に縋るようにケンタは叫んだ。
「お、俺は啓介さんのためを思って───!」
「俺の事は俺が決めんだよ!!」
啓介は振り向きもせず叫び返した。追従を許さないその言葉に、ケンタは目の前が真っ暗になった。
天使を連れた啓介は、そのままFDを急発進させた。
その激しいスキール音に、ケンタはもちろん史浩さえも後を追う事ができなかった。
私が書くケンタったら、まったく浅はかな奴で……(^^;)
啓介もよく一発で許してやったものです。
私だったらもっともっと、ボッコボコのボコにしますよ、きっと。
涼介さまを蹴ったりしたのなら、そのぐらい当然でしょう〜!(^^;)
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