DATE with an ANGEL



  ケンタたちの手から逃れて、啓介は天使を連れて軽井沢の別荘へとやって来ていた。
  啓介の両親が所有するこの別荘は、啓介も年に一度訪れるかどうかくらいで馴染みは薄かった。
  しかし思い詰めたケンタが何をするかわからないとの史浩のアドバイスに従い、何よりも天使の身の安全を考えて行動した啓介だった。
  別荘のある場所は人里離れてはいなかったが、周囲は山に囲まれ高崎市中にある啓介の自宅よりも落ち着いた環境だった。またシーズンオフのせいもあり、他の別荘にもほとんど人のいる気配はなかった。
  そこで啓介は天使と共に過ごしながら、日々読書をしていた。読んでいるのはもちろん図書館で借りてきた天使に関する本だった。
  しかし普段は読書などとは縁のない───むしろ大嫌いな啓介には、それは苦痛以外の何物でもなかった。それでもとにかく根気を振り絞って、啓介はその本を毎日読み進めていった。
  でもそうして少しずつ天使の事を知るにつれて、啓介の心の中には不安がどんどん大きくなっていった。
  天使は天国という場所で神と共に過ごしている。そして時に地上へと降りてくるという。
  神の命じるままに、または死せる人間の魂を天国に連れて行くために───。


  天使の羽の包帯を取り替えるのは啓介の役目だった。
  白地の包帯よりもなお白い、天使の背中の羽。その傷口は既に塞がり、羽根を探らなければどこに傷を
負ったのか、すぐには分からないほどになっていた。
  啓介が指でそっと羽を撫でても、天使は安心しきった様子で羽を預けたままだった。
  それでも指先が傷の上を掠めると、天使はピクリと羽を震わせた。怪我はまだ完治しきってはいないよう
だった。
  この怪我が治ったら、天使は帰ってしまう。天国へと───啓介の元を離れて。
  ケンタに天使を連れ去られた時、それを知らなかった啓介は天使はどこかへ帰ってしまったのだと思い込んだ。
  それは間違いだったけれど、けれど確実にその時は近づきつつある。
  啓介は天使の柔らかい羽根にそっと頬をうずめると、その心地よさに酔いながらポツリとつぶやいた。
 「あんたと話せたらいいのに……」
  天使は振り返りはしなかったが、啓介の言葉に微かに表情を曇らせた。


  ある日の午後、気づけば天使の姿が見えなくなった。
  啓介はその姿を捜し回った。
  この別荘に来てからというもの、天使は高崎の家にいた時よりも伸び伸びと過ごしていた、
  もちろんいつも一緒にいて、別荘の建物から勝手に出て行くような事もなかったが、家の中とはいえ時にその姿見失うと啓介はその度に不安になった。
  だから別荘の二階のゲストルームのテラスで天使の姿を見つけた時、啓介は心の底から安堵した。
  その後ろ姿に声をかけようとして、啓介はふと足を止めた。そこにいたのは天使だけではなかった。
  テラスには───天使の前には十羽ほどの鳥が集まっていた。
  餌を撒いた様子もないのに、鳥達は天使の肩にとまったり小首を傾げたり、一羽一羽が天使を敬うように集まっていた。
  その光景に、啓介は言葉を失った。
  しばらく啓介が声も出せずに立ち尽くしていると、その視線に気づいたのか天使が後ろを振り向いた。そして啓介に気づくと微笑んだ。
  天使がそっと片手を上げると、鳥達はその意思に従うかのように一斉にテラスから飛び立った。
  そうして天使はテラスを後にし、部屋の中の啓介の前まで近づいてきた。その瞳には啓介の持つような不安も焦燥もなく、ただ穏やかだった。しかしそんな天使に不意に啓介は苛立ちを感じた。
 「!?」
  そして───啓介は天使を床に押し倒した。
  この時ばかりは天使の怪我の事も、啓介の脳裏からは消え失せていた。
  強い力で肩を押さえつけ、啓介は天使の身体を床に縛り付けた。
  天使は驚きながらもまったく抗わなかった。啓介の内にある凶暴でさえある情熱など、まったく思いもよらぬようであった。
  戸惑ってはいたがその視線はただ静かに───自分の上に覆い被さる啓介へと向けられていた。
  啓介も視線をあわせた。黒水晶のようなその瞳は、確かに聖なるものに属していた。
  しかし天使と見つめあううちに、なぜか啓介の心には罪悪感が広がってきた。
  独占欲や欲望、その他もろもろの感情とそれがせめぎ合い───啓介をしばし混乱させた。
  そしてついに、罪悪感の方が啓介の心の中を支配した。
 「───ダメだ!!」
  啓介は叫ぶと天使の上から退いた。その傍らに座り込み、ガックリと肩を落として深いため息をついた。
  訳の分かっていない天使は、ゆっくりと身を起こして啓介を見つめた。
 「……?」
 「……ごめんな」
  天使の瞳には魔力がある。だから誰も天使に危害を加える事はできない───本にはそう確かに載っていた。
  本当だろうかと思っていたのだが、身をもってそれを知った啓介だった。



啓介玉砕〜!
ま、相手は人間じゃないですからね(^^;)
しかし天使の身体ってどーなってるんでしょうか。私はとりあえず無性(セクスレス)で、胸もないけど下もない
のかなあ、なんて思ってるんですけど……。うーむ?(・ ・)>

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