DATE with an ANGEL・2
10
そしてついに、バトルの夜がやってきた。
夜の赤城にはどこから聞きつけてきたのか、沢山のギャラリーが集まって来ていた。
約束の時間を前に、啓介は頂上にFDを止めて涼介と一緒に京一を待っていた。すぐ傍
には史浩とケンタの姿もあった。
FDは涼介が考えたとおりのセッティングで仕上げていた。パワーだけを重視したので
はない、ダウンヒルのセッティング。
調整のために何本か走って、文句のつけ様のないその決まり具合に啓介は驚いた。
そして───ランエボの一団がやってきた。
京一の黒い車体を先頭に、数台のランエボがFDの目前に次々と停まった。
まず京一が、そして他のランエボの運転者たちが車から降り立った。先日居酒屋で会っ
た強面の天使たちだった。
「待たせたな」
京一は悪びれた様子もなく、不敵に笑った。そして涼介に向かってぬけぬけと言い放っ
た。
「バトルが終わったらすぐに帰るぞ」
「勝手に決めんな!」
京一の言葉に言い返したのは啓介の方だった。
「俺は、お前にだけは絶対負けねえ!」
「フン」
啓介と京一は、睨み合った。
目の前のやりとりを無言で見つめていた涼介であったが、何か言いたげな瞳をしていた。
そんな涼介の視線に気づいた啓介が振り返った。
「どうかした?」
「……夕べ俺が言った事、覚えてるか?」
「バトルの事だろ。覚えてるよ」
今日のバトルに勝つためのアドバイスは、もう既にしてあった。けれどもっともっと、
少しでも啓介を励ましてやりたかった。
「……勝ってくれ、啓介」
涼介は言いながら啓介に近づいた。その綺麗な瞳は、じっと啓介だけを見つめている。
「お前なら勝てる───」
「え? 涼介さ───……」
状況を認識する前に、柔らかい感触が啓介の唇に触れた。
久しぶりの───そして、涼介からのキスだった。
一瞬の出来事であったが周囲は一斉にどよめいた。
啓介と涼介の仲の良さは周知の事実であったが、人前でのキスは初めてであったからだ。
ケンタは赤くなり、史浩は頭を抱えて俯いた。
思いがけないキスに啓介は呆然と涼介を見たが、涼介はためらいながらも微笑んでいた。
そして無言で見つめ合ううちに、啓介の心に力がわいてくる。啓介はもう涼介が天使の
ままでもよかった。けれど涼介のために、絶対に勝つ───そう思った。
目の前で見せつけられた光景に、京一はというとこめかみに青筋をたてていた。京一の
背後にいる清次たちは、怒りのオーラさえ感じる後ろ姿に一歩退いた。
「……そろそろ始めてもいいか?」
その場で一番先に立ち直ったのは史浩であった。それはこの場に居合わせた者の中で、
啓介たちの仲に一番免疫があったからかもしれない。
「俺はいつでもいいぜ」
「俺もだ」
啓介も京一もそれぞれ頷いた。
「じゃあ───」
その場を離れようとした涼介であったが、いきなり啓介がその腕を掴んだ。
今度は涼介の方が驚く番だった。
「啓介?」
訝しげに涼介が呼んでも、引き止める啓介の腕は解かれないままだ。
立ち去る事の出来ない涼介に、啓介は言った。
「一緒にFD乗ってくれよ」
啓介は真っ直ぐに涼介だけを見て言った。その決心は揺るがない。
「一緒に勝とうぜ」
「啓介……」
啓介の申し出に重ねて驚いた涼介であったが、啓介の決意が伝わったのか、すぐに頷い
た。
「……わかった」
涼介の返事に啓介は笑顔を見せると、FDに乗り込んだ。涼介もだ。
京一も愛車へと乗り込んだ。その強面は、これ以上はないほどしかめられていた。
「俺も舐められたもんだな……」
ランエボの運転席で、小さくつぶやく。
後悔しても後の祭りだと、京一はそれに敢えて異論を唱えなかった。勝つための可能性
は少しでも高い方がいい。
それがどんなに不愉快な事であってもだ。
FDとランエボはスタートラインに車体を並べると、激しくエンジンをふかし始めた。
後はもう、バトルが始まるのを待つだけだった。
「頑張って下さい、啓介さんっ!」
「京一さんっ!」
ケンタや天使たちが、それぞれ声援を送っていた。
「カウントいくぞぉ───!」
二台の間に立ち、史浩が叫んだ。
「───2、1、GO!!」
カウントダウンとともに史浩の腕が振り下ろされる───同時に、二台はスタートした。
峠のチュウ。
思いついたと時、書こうかどうしよっか迷ったのですが、結局書いてしまいました。
ここで書かなきゃもう書く機会はないなーと思いまして(^^;)
この話では涼介さまは天使だしね(^^;)
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