DATE with an ANGEL・2
8
啓介は荒れていた。
土曜日のバトルのために毎夜赤城を攻めていたが、調子は全然上がらなかった。
FDでどれだけ走り込んでも、しっくりこないのだ。けれど今度のバトルは絶対に負け
る訳にはいかなかった。
涼介は一緒には来てはいなかった。
啓介が誘わなかったからだが、涼介自身も来たいとは言わなかったからだ。
赤城ではケンタや史浩と一緒になる事もあった。既に二人とも啓介から事の顛末を聞い
ていたが、啓介のあまりの荒れ様にケンタなどは怯えて一歩退いていた。
史浩は思案顔で、我武者羅に走り込む啓介をただ見つめていた。
夜通しFDで攻め込み、朝日が昇ってから帰宅した啓介は、玄関先で出勤する涼介と出
くわした。
「た……ただいま」
「……おかえり」
交わす言葉もどこかぎこちなかった。
啓介は早々に部屋に引き上げようとしたが、いきなり涼介に一片のメモ用紙を差し出さ
れて面食らった。
「何?」
「俺が考えた……FDのセッティングだ」
「ふーん……」
啓介はそれを受け取りはしたが、有り難うともそのとおりに変えてみるとも言わなかっ
た。
それでも涼介はそんな啓介に対して、何も言わなかった。
「……じゃあ、行ってくる」
「あ……と、送るよ」
「疲れてるんだろ? いいよ、タクシー使うから」
涼介はわずかに微笑むと、もう一度行ってきますと言って出ていった。
一人で家の中に残された啓介は、深いため息をついた。
今までだったら特に用事がない限り、涼介の送り迎えは啓介の役目だった。
今日断られたのは啓介を身を案じた涼介の思いやりなのだろうが、今の啓介はそれを素
直に受け止められなかった。
啓介の胸のうちで、ただ焦りと苛立ちだけが募っていった。
大学にも行かず日中ずっと寝ていた啓介は、夕方になって目を覚ました。
そして早々に出掛ける支度を始めた。もちろん赤城へ走りに行くためだった。
涼介はまだ病院から帰って来てはいない。何となく顔をあわせたくなくて、涼介が帰宅
する前に出掛けるつもりだった。
涼介にもらったメモは、上着のポケットに突っ込んだままだ。
FDのキーを手に家を出た。すると思いがけない人物が啓介を待っていた。
「よう、啓介」
「……史浩?」
そこにいたのは走り屋の友人だった。
確かに今まで史浩は啓介の家に何度も来たことはあったけれど、今日は何の約束もして
はいなかった。
「どうしたんだよ」
「飲みに行くぞ」
「は?」
唐突な史浩の言葉を理解できずに、啓介は間の抜けた声を出してしまった。
「だから飲みに行こう」
「な……何言ってんだよ」
冗談でも何でもなく、どうやら史浩は本気らしかった。しかしそれは逆に啓介を苛立た
せた。
「お前にも土曜のバトルの事は話しただろ。俺は今そんな場合じゃ───」
「それはわかってる。でも昨日のお前を見ていたが、全然乗れてないじゃないか」
「…………」
普段は温和な史浩であったが、その代わり嘘やお世辞やなどは一切口にしなかった。
そんな史浩の言葉は、当たっているだけに今の啓介には痛かった。
「こんな時はじたばたしたって無駄なんだよ」
「でも……」
「いいからほら、行くぞ!」
それでもさすがに飲みに行くには抵抗のある啓介を、らしくなく強引に連れ出す史浩で
あった。
仲直りまでもう少し、です(^^;)
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