DATE with an ANGEL・2
エピローグ
カーテンの隙間から洩れてくる光で、啓介は目覚めた。
いつもと違う天井。いつも目にする自分の部屋とは違う光景に驚いたが、腕にしている
温もりにすぐにここが何処であるのかを思い出した。
つい数時間前の出来事を思い出し、啓介はまた熱くなってしまいそうな自分を慌てて静
めた。
涼介の部屋で夜を過ごしたのは───涼介と夜を過ごしたこと自体、初めてだった。
啓介は首を傾け、できるだけ静かに抱きしめたままの人の様子を確かめる。
涼介は未だに眠りの淵にいる。常から白い顔にはやはり疲れが滲んでいた。
けれどその表情は穏やかで、幸せそうだ。
啓介はそんな涼介の様子に安堵すると、自らの表情も綻ばせた。
昨夜は啓介もどうなる事かと思ったが───どうにかなったから不思議だった。男の生
理は別だとは思うけれど、でもそれだけではない。
涼介は綺麗だった。その美しさも魅力も、人間になったからといって少しも損なわれて
はいなかった。
天使であった頃と何も変わらない。
口づけて、少し触れただけで、啓介は夢中になった。
確かに女性の身体ではなかったけれど、相手が涼介であると思うと啓介は自分でも驚く
ほど熱くなってしまった。
それまで性別を持っていなかった涼介は、啓介との行為はもちろん、自分自身の身体の
変化にさえ戸惑っていた。
啓介の指に、唇に───啓介の想像以上の反応をした。
人間であれば当たり前の行為でも、涼介にはあまりにも刺激が強すぎたようだった。
すべてが初めての涼介を宥めるように───そして最後には多少強引に、啓介は涼介を
抱いた。
無理をさせてしまったかとも思う。
けれど涼介は最後まで啓介を拒みはしなかった。それが何よりも啓介は嬉しかった。
腕の中の温もりをそっと抱きしめ直した。すると涼介の睫毛がわずかに揺れた。
「……啓……介?」
涼介はゆっくりと瞼を開いた。
二、三度瞬きを繰り返し、ようやく意識がはっきりしてきたのか、その黒い瞳は啓介を
映した。
「ごめん、起こした?」
「いや───」
耳元に囁いて謝る啓介に、涼介は小さく顔を横に振った。そして起き上がろうと身じろ
いで、すぐに顔をしかめた。身体が痛んだのだ。
「何で…………あ」
訝しげに眉を寄せた涼介であったが、すぐにその理由に思い当たると、ほんのりと頬を
染めた。その様子に、原因を作った張本人であるのだが啓介は苦笑した。
「いいよ。まだ寝てろよ」
今日は日曜日だから、すぐに起き出す必要は何もない。一日中こうしていたっていい。
啓介は涼介の身体に腕をまわすと、その身体を白いシーツの上に横たえた。
涼介はしばらく啓介のするがままに任せていたが、啓介が一緒にベッドに入ると、黙っ
て啓介を見つめてきた。
その瞳の色はどこか不安げに揺れていた。
それに、啓介はすぐに気がついた。
「なに?」
「……啓介」
涼介はためらっていたが、意を決したのか口を開いた。
「啓介は本当に、俺で───」
言いかけた言葉は途中で途切れた。
啓介に深く熱く口づけられて、涼介はそれ以上何も言う事ができなくなった。
しばらくしてようやく啓介の唇が離れた。けれど息が乱れてしまい、涼介はすぐには言
葉を続けられなかった。
「……っ」
「好きだよ」
涼介に口を開かせる前に啓介は告げた。
資格だとか問題だとか、そんなつまらない事をまた涼介に言わせたくはなかった。
黙り込む涼介に、さらに繰り返す。
「……好きだ」
啓介の一言は、わずかに残っていた涼介の不安を簡単に消し去ってくれた。
嬉しさに涼介の胸は熱くなった。願った通り、このままずっと啓介と一緒にいられるの
だ。
けれど涼介が無言のままなのに、さすがに啓介も焦れた。涼介の額にコツンと額をあわ
せて、催促してきた。
「返事は?」
「……俺も、好きだよ」
涼介がはにかむように微笑んで答えると、啓介は驚き───そして弾けるような笑顔を
見せた。
そのまま涼介の背中に腕をまわして抱き寄せる。
温かい抱擁に、啓介の腕の中で涼介も微笑んで目を閉じた。
その背中にはもう羽はない。
けれど啓介の目には映っていた。
啓介の傍にいるための、啓介のためだけの純白の羽が───。
そして二人は、互いの幸せを抱きしめあった───。
〈END〉
私が書いた中で1、2番目に啓介が幸せな話も、ついに終了となりました。
ちゅんちゅんや○いですみません。
そーいえば初めてなら、天使のをとっておく!とおっしゃった人がいたっけ。
そ、それならまだ飲んでくれた方がいいかな……(^^;)
ともあれその辺りはどうぞ皆さんで、お好きな様に想像してください。
読んで下さってありがとうございました!
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