DATE with an ANGEL・2
プロローグ




   地上から遠く遠く離れた、天上の世界。
   まばゆい光と静寂に包まれ、神と天使が住む───天国と呼ばれる場所。
   神と呼ばれるこの世界の主が、大勢の天使を前にしていた。その表情はどこか強張り、
  怒りともつかぬ苦渋に満ちていた。
   神は普段からほとんど笑顔など見せはしなかったが、ここ最近はよほど苛立ちが深いの
  か、その表情がほころぶ事はまったくなかった。
   天国の主である神は、重々しくつぶやいた。
  『それで、地上はどんな様子だ?』
   その問いは正確には「声」ではなかった。人間とは違うここ天上の者たちは、声など必
  要とせずとも相手に意思を伝えることができた。
   けれど神の意思はまるでため息を帯びたように苦々しく、そして重かった。
   大勢の天使の中からひとりが一歩前に進み出て、その問いに恐る恐る答えた。
  『例の人間と一緒に暮らしているようです。帰ってくる様子は……ありません』
  『……仕方のない奴だ』
   神は半ば呆れ、そして半ば悔やむようにつぶやいた。
   神の言う地上とは人間界すべてを指してはいない。神はいま人間界にいる、たったひと
  りの天使の事を気にかけていた。
   天国からひとりの天使がいなくなって、もうすぐ半年が過ぎようとしていた。
   天使は死すべき人間の魂を天国へ導く役目を持っている。
   それまで神はその天使にだけは、決してその役目につかせはしなかった。けれどその時
  他の天使はみな出払っており、やむなくその任につかせたのだ。
    そして、過保護ともいえた神の心配は皮肉にも的中した。
   初めて降り立ったその地上から、天使は天国へは戻ってこなかったのだ。そして未だに
  帰ってくる様子はまったくない。
   残された大勢の天使たちは術もなく、ただ神の前に佇むばかりだ。
   そんな天使たちにまったく意識を払わずに、神は考え込んでいた。
   長い沈黙の後、天国の主はつぶやいた。
  『……このままにしておく訳にはいかないな』

  


お久しぶりの天使ネタです。
今回は、天使とくればお約束?の、神様のご登場です。


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