ドラテラ


 

「なあ、面白い記事があるぜ」
 バンド練習後のミーティング(息抜きともいう)中、ベース担当の友人がのぞいていたスマホの画面を見ながら弾んだ声を上げた。
「何?」
ジョミーの母親が焼いたクッキーを食べながら話をしていたジョミー達は、何だろうと顔を向けた。
 ベース担当の友人はスマホの画面を指差し、ジョミー達はそれをのぞき込んだ。
 それはあるオーディションについての広告記事だった。
今度放映されるドラマの主題歌を歌うバンドを、一般から広く募集するというものだった。
「新しい才能の発掘を目指して、広く募集します、だって」
 エントリーすると一次審査は課題曲の審査、二次審査で対面オーディションが行われるそうだ。
 ちなみに公開オーディションではないらしい。
「こういうのって予め、決まったバンドが選ばれるんじゃないの?」
 それはよく聞く話で、ジョミーが疑わしそうにつぶやいた。
「これはそうじゃないかも。応募資格に特定のレコードメーカー、プロダクション、音楽出版社に専属契約のない方≠チてあるし。選ばれたバンドはデビューだって」
 ギター担当の友人が記事全部に目を通して、その記述を見つけた。
「面白そうだ。やってみようぜ」
「やるの?」
「本当か?」
 少々驚くジョミーとベースに、バンドリーダーでもあるギター担当は言った。
「目指せ、高校生バンドデビュー!……なんて面白いじゃん」
 そのドラマの事も原作となる作品の事も、ジョミー達は何も知らなかったが、そのリーダーの一言で応募する事が決まった。


 それからはちょっとしたお祭り騒ぎだった。
 課題曲の楽譜を入手し、次の練習日からその曲だけを練習した。締め切りまでの一ヶ月間、飽きるほど練習した。
 その甲斐あってか、ギターもベースもミスなく演奏できるようになってきた。
 慌ただしい事この上なかったが、その半面お祭り騒ぎみたいで楽しくもあった。
そして締め切りギリギリにその曲を録音し、エントリーのために演奏データを送信した。
未成年者の応募には保護者の同意が必要だったが、メンバー全員の親たちは特に反対もせずに同意してくれた。
もしもの時は高校生の身でバンドデビューが待っているのだが、どの親もその点については問題視していなかった。
本人たちの熱意を買ってくれたのか、どうせ受かる訳はないと思っているのか。
後者が理由のような気がしないでもない。
「これで受かっちゃったらどうする?」
「俺たち高校生でデビューかあ、すごいじゃん!」
「今からサイン考えておこうかな」
 ジョミーと仲間たちは、他愛無い話をしながら盛り上がった。
 軽い気持ちとノリで申し込んだそれが、まさかジョミーと周囲の人生を大きく変えるものになろうとは、誰一人これっぽっちも思ってもいなかった。



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