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・キースが大好きな方。
どんな内容の話でも、広い心で許容できる方のみ、↓へどうぞ。
慟哭・5 〜夜の果てで〜
彼の最後が───その死が、少しでも安寧であればいいとずっと願っていた。
けれど知った事実はそんなものとは程遠いものだった。
許さない。
許さない───許せない。
殺してやる。
殺してやる。
キース・アニアン、お前を殺してやる。
まずはその右目を抉り出して、それから四肢を一本ずつ引きちぎってやる。
彼が味わった痛みと同等───いや、それ以上の苦しみを味あわせてやる。
自分にはそれを与えられる力がある。
彼は大切な───誰よりも大切な人だったのに。
例え彼自身が死を覚悟していたのだとしても、それをあんな風に殺して───絶対に許せない。
ダカラ、殺シテヤル───!!
シャングリラを飛び出したソルジャー・シンは、恐ろしいほどの速さで、真っ直ぐ連合艦隊に向かってい
た。
艦隊の位置も、キース・アニアンの居る戦艦ゼウスの位置も、トォニィの記憶から読み取ってすぐに知れ
た。 テ ラ
その時、ソルジャー・シンの頭からは、地球も、ミュウも、自身の命さえ消えていた。
あるのはただ人間に対する怒りと憎しみだけだ。
その身体はまさに爆発寸前の青い光に包まれ、サイオンバーストを起こしかけていた。
ソルジャー・シンが数万宇宙キロ先にゼウスの存在を感じ取ったまさにその時───その手を、何かがつかん
だ。
サイオンを使い高速で飛翔する者を物理的に捕捉するなど、有り得ない事だ。
しかし怒りで熱くなったソルジャー・シンにはそこまで考えも及ばす、ただ自分を引き留めようとするものに
反射的に振り向いた。考えるより先に身体が動いていた。
それが何であっても、邪魔をするなら瞬時に消し去ってやると───。
振り返ったソルジャー・シンは、その瞳に映ったものに言葉を失った。
そこにいたのは、誰よりも会いたかった人だった。
懐かしい、愛おしい───けれど永遠に失ってしまった人。
ソルジャー・シンの手をつかんでいるのは、ブルーだった。
これは夢だろうか。
それとも機械が作り出した幻だろうか。
けれど彼から目が離せなかった。
目を離してしまったら、その間に消えてしまいそうな気がして、瞬きもできずに彼を見つめた。
その姿も形も、記憶のままだ。
銀糸の髪。真紅の瞳。秀麗すぎる顔立ち。細い身体と、そして同じように細い指。
声も発せられず見つめるしかできなかった。
驚きのあまり、それ以上進むのも忘れていた。
「……ジョミー」
それは確かにブルーの声だった。優しく懐かしい、彼の声だった。
「ブルー……?」
それでもジョミーには信じられない気持ちが強く、茫然とブルーの名を呼んだ。
「どうして、貴方が───」
「帰ろう、ジョミー」
ブルーはジョミーの質問には答えず、その手を強く握りしめた。
「これ以上進んだらいけない。このままでは君が壊れてしまう」
ジョミーはサイオンバーストを起こす寸前だ。
その力を人間たちの艦隊を破壊するために解き放とうと、今は必死に抑え込んでいるだけだ。
けれどジョミーはブルーの言葉に頷かなかった。
「構わない」
「ジョミー……!」
ブルーの声が悲痛さを帯びた。
「人間を憎んでも何も生まれない。それは君も分かっているだろう?」
憎しみは憎しみしか生まない。
悲しみは悲しみしか生み出さない。
そんな連鎖はどこかで断ち切らなければいけない。
そう説くブルーに、けれどジョミーはその心を吐露した。
「それでも、僕はキース・アニアンを許せない───!!」
ジョミーの心は、ブルーの言葉にも凍りついたままだった。
繋いだ手からジョミーのそんな心が伝わったのだろうか、ブルーは悲しそうに瞼を伏せた。
その手を振りほどく事もできず、けれど抱きしめる事もできずに、俯いたジョミーは悲しみに沈
むブルーの心を感じていた。
「僕を……軽蔑しますか?」
ジョミーが問うと、ブルーは首を横に振った。
「なぜ?」
ジョミーは今の自分は、ブルーが愛してくれたかつての自分とはあまりに変わってしまったと、
充分すぎるほど自覚していた。
「君をこの戦いに追い立てたのは僕だ……。だから僕には君を責める資格はない」
ブルーはジョミーを責めはしなかった。
「……それに、彼も僕らと同じだ」
瞼を伏せたまま、そっとブルーがつぶやいた。
「彼もきっとこの戦いで、僕らと同じように失ったものがきっとあるだろう」
「そんな事───」
「ミュウも人間も同じなんだ」
大切な者を失えば悲しみ、怒り、殺した相手を憎む。
きっと人間たちの中にも、ミュウを憎んでいる者たちがいる。
だからこそブルーはジョミーに、その憎しみの連鎖を断ち切ってほしかった。
「それを自分で確かめてみたまえ。そのためにも人間との交渉のテーブルにつくべきだ」
「──────」
ブルーの願いならどんな事でもかなえたい。
けれどジョミーは、どうしても頷く事が出来なかった。
そんなジョミーの手を、ブルーは再び強く握りしめた。
その憎しみに凍りついた心が解けるように、祈るように───強く。
「君が僕との約束のために地球を目指してくれているように、君のために戦っている者がいる。
それを忘れないでくれ」
「……どうして貴方はいつも、そうやって……」
いつもいつも、自分の命よりも同胞を大切にする人だった。
それが悲しくて、ジョミーは顔を上げた。
ブルーもジョミーを見つめていた。
その紅い瞳からは涙が零れ、その白い頬を伝っていた。
「だって、貴方は泣いているじゃないか!」
「君が……泣いているから」
「───……!!」
ジョミーの瞳に涙はない。涙はもうとうに枯れ果ててしまった。
けれどブルーの言葉通り、ジョミーの心はずっと泣いていた。
そして、憎んでいた。
ブルーを殺した人間を許せない。
ブルーに頼り切っていた同胞たちを許せない。
そして何より、彼を一人で逝かせてしまった自分が許せなかった。
ブルーが長い眠りから目覚めたあの時、ジョミーが力を分け与えなければ、ブルーは死なず
にすんだのに。
ジョミーはこの世界のすべてを憎んでいた。
人間も、ミュウも、そして何より自分自身を───憎んでいた。許せなかった。
「……僕を見て、ジョミー。僕は何も傷ついていない」
ブルーの言葉に、ジョミーはようやく気づいた。
死の間際、銃弾に潰された右目は、元通りに美しく紅く瞬いていた。
そして彼の身体に雨のように撃ち込まれた銃弾の傷跡も、目の前のブルーは負っていなかった。
「どうして───」
今更ながらに驚くジョミーに、ブルーは微笑んだ。
「銃弾も、どんな言葉も、僕の心までは傷つけられない」
たとえどんな非人道的な行為でも、心までは傷つけられなかった。
「僕を本当に傷つける事が出来るのは、君だけだ」
「───!!」
ブルーの言葉に、ジョミーは雷に打たれたような衝撃を受けた。
誰よりも傷つけたくない人なのに、そんなブルーをいまジョミーが傷つけていた。
「僕の心は君と在るのだから」
「ブルー……」
ブルーは悲しそうに眉を顰め、涙を流しながら───けれど精一杯の微笑みをジョミーに向けた。
「君がどんな道を選ぼうと、僕は君を信じている……ジョミー」
ジョミーが放っていた青い光が収束し───ようやく静まった。
それと同時にブルーの身体が淡い光を帯びた。
ジョミーの手を握りしめていたブルーの手も、光に溶けていくようだった。
「……ブルー!!」
ジョミーはブルーを捉まえようと───抱きしめようとした。
けれどジョミーが抱き締める前に、ブルーの身体は光の粒になり、霧散した───。
気がつけばジョミーは一人、青の間にいた。
鳴り続ける激しい警報音が、その意識を引き戻した。
しかしジョミーはただその場に茫然と立ち竦むばかりだった。
『夢……?』
心許ない気持ちのまま、周囲を見やる。
目に入ってくるのは、ほのかな灯りに浮かび上がる白いベッドと、暗い青の間の床一面に湛えら
れた水。 みなも さざなみ
いつも鏡のようなその水面に、漣が広がっていた。
まるで彼の涙が零れ落ちたように、幾つも、幾つも───……。
その儚い輪が広がり、消えてしまうまで、ジョミーは無言でその水面を見つめていた。
やっと書けました〜!
自己満足ですが、嬉しい。やっぱり私はこの二人が大好きみたいです(^^)
仕事中にこのシーンを思いついた時、でもなーんかどっかで見たことあるようなシーンだと思ったのですが、
しばらくして気がつきました。
アニテラ第2期オープニングでした。
なんというか、意識せずに自分の中でリンクした感じとでもいうか…(^^;)
そんな訳で筆力は足りませんが、イメージとしては第2期オープニングで脳内補完お願いしますm(__)m
この話も8で終わる予定です。
個人的には1、2、5、8を書きたくて始めたので、もう少し頑張ります。
2007.12.01
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