慟哭・6



             テ ラ
   ミュウの艦隊は地球への進軍を再び開始した。
   それを確認した連合艦隊は、通告通りコルディッツを木星へと落下させた。
   驚愕、悲鳴、絶望───死への恐怖。
   木星の重い重力に引きずられ、落下するコルディッツを寸でのところで助けたのは、トォニィ、タキオン、
  ペスタチオ、ツェーレンの四人のタイプ・ブルーだった。 
   ソルジャー・シンは一隻だけステルスデバイスを搭載していた船にトォニィたちを搭乗させ、秘密裏にコ
  ルディッツ救助へと向かわせていた。
   コルディッツ救出の報を受け、ミュウ達は喜びに湧いた。
   それはシャングリラのブリッジのクルーも例外ではなく、皆がそれぞれ歓喜に目を輝かせていた。
  「やりましたね、ソルジャー!」
  「ああ……」
   安堵からか、ひどく嬉しそうにソルジャー・シンに声をかけてくる者もいた。
   寄せられる温かな思念。
   それは以前は当たり前に周囲にあった、ソルジャー・シンが久しく感じていなかったものだった。
  「急いで救出を。コルディッツに収容されていた者は、全て惑星ノアへ移送しろ」
  「分りました、ソルジャー・シン」
   船長のハーレイは、その指示を各セクションへと速やかに通達した。
   その役割を的確に遂行しながら、しかしハーレイのソルジャー・シンへの眼差しは、どこか訝しげ
  だった。
   ソルジャー・シンがそれに気づかないはずもない。
  「……なんだ?」
  「いえ───」                                             テレパシー
   視線を外しかけたハーレイだったが、どうしても気になるのか、ソルジャー・シンにだけに思念波を
  送ってきた。
  『……私は、あなたがコルディッツを見捨てると思っていました』
   ソルジャー・シンは薄く笑った。冷たい笑みだった。
   それに、ハーレイはその想像が当たっていたのを知った。
  『なぜ助けたのですか?』
  『……これ以上───』
   ハーレイに答えかけたソルジャー・シンの思念波は、けれど途中で途絶えた。
   やはりその心はかつてのようには開かれない。
   ただ朧げにではあるが───悲しませたくないと、その思念が続いたようにハーレイは感じた。
   それが誰に向けられたものであるのか、ハーレイに確認する術はなかった。


   先日、シャングリラの船体の一部を破壊するサイオン事故が起きた。
   その原因はソルジャー・シンらしかった。
   らしい、というのは、目撃者が誰もいないからだ。
   一時ではあるが所在不明となっていたソルジャー・シンに、ハーレイたちは説明を求めた。
   けれどどれだけ理由を問いただしても、ソルジャー・シンは固く心を閉ざしたままで、短く「すまない」
  と謝罪の言葉を口にしただけだった。
   怪我人が出なかった事、そして船体の破損も船の航行には支障はなく、応急修理で済んだ事だけ
  が不幸中の幸いだった。
   何があったのかは誰にも分らない。
   事故現場に一番近い場所に倒れていたトォニィも、何も話そうとはしなかった。
   ただ、あの事故からソルジャー・シンに微かな変化があるように感じられた。
   彼が纏った冷酷さに変わりはない。ハーレイには説明しようもない、漠然としたもの。
   けれどコルディッツを救出させたのも、その表れかもしれなかった。
   そんな思いにとらわれていたハーレイに、ソルジャー・シンは再び声をかけた。 
  「ハーレイ。キース・アニアンに通信を送る」
  「!」
   驚きに、咄嗟に返事のできなかったハーレイに、毅然とした声でソルジャー・シンは続けた。
  「───地球へ行くぞ」
  「ソルジャー……!」


   ミュウの長、ソルジャー・シンは人類圏国家主席キース・アニアンに対し、停戦と交渉の意思を伝えた。
   人類側は長考の後にそれを受諾した。
   ミュウと人類の会談の場所は、地球のリボーン総本部、ユグドラシルと決められた。


   そしてミュウたちは、放浪と激しい戦いの末に地球へとたどり着いた。
   たとえそこが、夢見た美しい星ではなかったとしても───。  









アニテラのブルーの死後、ソルジャー・シンは原作のジョミーみたいにブルーを取り込んじゃうのかなと、ちょっ
とドキドキでした。
私としては18話以降のソルジャー・シンを見ていると、「取り込む」というのはちょっと…。
「ブルーを失ったジョミー」なら納得できるけど、「ブルーを取り込んだジョミー」があの冷たさって、どうなのかな
と思ってました。
だからどうやら取り込んだ訳ではないのを見た時には、ちょっと安心したのを覚えています。

「慟哭」の続きを書こうと思ったきっかけの一つは、アニテラ第2期エンディングでした。
あのエンディングを初めて見た時、私はブルーファンなので、「ブルー素敵〜v」ってブルーばかり見てました。
ラストのレインがちょこんと肩に乗るジョミーは「ジョミー可愛すぎ…」ってな感じだけでした。
でもそのうち18話以降のソルジャー・シンがあんまり痛ましくて。
本編とエンディングのギャップがどんどん大きくなって、それを見ているうちに、いつの間にか「ジョミーはエンディ
ングみたいにまた笑顔に戻れる日が来るのかしら」と思うようになりました。
ちなみにエンディングの曲「This night」は、私的にはジョミー⇒ブルーのイメージになりました。
これをジョミーに当てはめて考えると、しみじみとジョミーにはブルーを失ってほしくなかったなあと思ったりしま
す。
でもその反面、ソルジャー・シンもカッコイイと思っちゃうんだから、腐女子心はなかなか複雑です…(^^;)


2007.12.15










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