慟哭・番外編 〜約束〜



   青の間に駆け込んだジョミーを待っていたのは、懐かしい姿だった。
  「ブルー……!!」
   青の間の中央に据えられたベッド。そこに部屋の主であるソルジャー・ブルーが眠っているのが、いつ
  もの───この15年間変わらぬ光景であった。
   けれど今日は違っていた。
   ブルーがベッドに横たわっている姿は変わらないが、その瞼は開かれ、15年ぶりに目にする紅い瞳が
  ジョミーを迎えてくれた。
  「目覚めてくれたんですね、ブルー!」
   胸に湧き上がる喜び。
   ジョミーはベッドに駆け寄り、ブルーのその顔を覗き込む。
   最上級の宝石のような真紅の色。それが確かにジョミーを見つめ、微かに和らいだ。
  「ブルー……!」
   たまらず、ジョミーはブルーを抱き締めた。その細い身体に両腕をまわし、肩口に顔を埋めた。
   15年間、この日を待っていた。
   深い眠りについたこの人がいつ目覚めるのか、それこそ一日千秋の思いだった。
   前触れもなくその日がついに訪れて、ジョミーの瞳にはたまらず涙が滲んだ。
   こみ上げてくる激情のまま、ブルーを抱きしめていると、不意に頭の中に声が響いた。
  『顔を見せてくれ、ジョミー……』
  「ブルー?」
   それは接触テレパスだった。
   懐かしい優しい声に、そういえばブルーが目覚めてから、彼が一人では思念波を送れなかった事に
  ようやくジョミーは思い至った。
   促されるまま僅かに身体を離し、ブルーにもジョミーの顔が見えるようにした。
   しばらくブルーはジョミーを見つめていたが、ゆっくりとその片手を上げ、ジョミーの頬にその細い指で
  触れてきた。
   ブルーの前には、少年の面影を残しながらも、立派な青年に成長したジョミーがいた。
  『大きくなったね、ジョミー』
  「ブルー……」
   ようやく目覚めたとはいえ、思念波を送れないほど弱り切ったブルー。
   ジョミーは今まで、ブルーが目覚めてくれた、ただそれだけを喜んでいた。
   けれどこうして傍らにいてさえ、細い───か細い彼の思念に、怖れを抱いた。
   もしかしたらこの人は、もうすぐいなくなってしまうのではないか。 
   今にも消えてしまうのではないか。
   思い浮かんだそんな受け入れがたい想像を、ジョミーは振り切ろうとした。
   元々間近であった顔を、ブルーのそれに寄せた。
  『ジョミー……?』