昔むかし 〜今日の長老会議〜



   惑星アタラクシアの雲海の中に潜む、ミュウの船シャングリラ。
   ここシャングリラでは、長であるソルジャー・ブルーと5人の長老たちとの間で週に一度、必ず会議が開かれていた。
   ミーティング・ルームに集まり長机を囲み、そこで様々な問題が議題に上り、話し合われる。
   船内での細々とした問題や、人類やS・D体制に対する問題───その議題は日によって様々だった。
   ある日開かれたその会議の途中で、突然ブルーがつぶやいた。
  「……飽きた……」
  「ソルジャー・ブルー?」
   長であるブルーの一言に、毎回なんとなく議長役になってしまっている船長のハーレイは会議の進行を止めた。
   ちなみに話し合っていた議題は合成トマトの味に関するもので、さしたる切迫感はなかった。
   しかし皆、ブルーらしからぬ一言にそろって視線を向けた。
   ヒルマンが穏やかに聞き直した。
  「ソルジャー、今なんとおっしゃったのですか?」
  「飽きた、と言ったんだ」
   やはりブルーらしからぬ言葉に、長老と呼ばれているハーレイ、ゼル、エラ、ヒルマン、そしてブラウの5人は固まった。
   その面々に、ブルーは整った顔立ちに少々苦いものを滲ませながら語り出した。
  「考えてもみたまえ。毎回毎回、同じ顔触れで会議を開いて……君たちはつまらないとは思わないのか?」
  「そうおっしゃられてものう……」
  「この会議はソルジャーと私たち5人が話し合う、というものですから」
   ゼルとエラが顔を見合せてそうつぶやき合った。
   ブラウも肩をすくめて言った。
  「気持ちは分かるけど、仕方ないだろう? 今日みたいにトマトの味を議論するならともかく、おいそれとそこいらの若者
  を参加させる訳にもいかないからね」
  「そうだ。そこで僕は打開策を考えた」
   ブルーは珍しく、テーブルに身を乗り出した。
  「我々6人みんな揃って、30年ほど歳を取ってみないか?」
  「なんですって!?」
   ブルーから出された突拍子もない提案に、長老たち5人はそろって椅子から転げ落ちそうになった。
   けれどブルーはひどく楽しそうだった。
  「そうすれば面白いとは思わないか?」
  「反対です!」
  「女性に歳をとれだなんて、無粋だねえ」
   ブルーに対し、珍しくも声高に反対したのは女性であるエラとブラウだった。
  「30年も歳を取ったら、どんな事になるか分かってるのかい?」
  「そうですわ。私たちがどんなに肌の手入れに苦心しているか……」
   ブラウはあっけらかんと、エラはさめざめと訴えた。
  「そんなつもりはないんだ。ただ毎回同じ顔触れというなら、少しは変化が欲しいと思っただけなんだ」
   女性陣からの意外な反応に、ブルーも少々面くらった。
   ブルーとしては女性の容貌をどうこうしたい訳では決してなかった。
   30年も歳を取ったら、顔つきもかなり変わるだろう。
   同じメンバーだとしても新鮮に感じるだろうし、何か新しいアイデアが出るかもしれない。
  「30年が無理なら20年……もしくは15年でも───」
  「お断りします!!」
  「いくらソルジャーの頼みでも、こればっかりはきけないねえ」
   ブルーの提案は再び、エラとブラウに却下された。
   仕方なくブルーは女性2人への説得は諦めた。
   その代わり、残った男性たちに視線を向けた。
  「ハーレイ、君はどうだ?」
  「私もこのままで……申し訳ありません、ソルジャー」
   ブルーに問われ、ハーレイは逃げ腰ながらしっかりと断った。
   ハーレイ自身、今の肉体年齢で満足しているのだ。
  「ゼルとヒルマンはどうだ?」
  「ソルジャー、わしは30年も歳を取ったら骨と皮になってしまいますぞ」
  「私も今のままで充分ですので……」
   若い姿を好むミュウの中では珍しく、中年から老年期の年齢のゼルとヒルマンも、やんわりと断った。
   結局、ブルーの提案に頷く者は、長老たちの中には一人もいなかった。
  「仕方ないな……」
   ブルーはため息をついた。
  「じゃあ、僕一人でも───」
  
「「「「おやめ下さい!!」」」」
 
  ブルーがつぶやいた途端、ミーティング・ルームに4人の声が重なった。
   それはハーレイ、エラ、ゼル、ヒルマンのものだった。
   たった一人、ブラウだけがオッド・アイの瞳を輝かせた。
   自分は御免だが、他人事なら大歓迎だ。
  「おや、それは面白そうじゃないか」
  「そうだろう?」
  「ブラウは黙っていろ!」
   楽しそうに話すブラウとブルーの会話を、ハーレイの怒声が遮った。
  「なぜ君たちは僕の事までそんなに反対するんだ……?」
   ブルーは少々呆気にとられたように、聞き返した。
   しかし反対したのはハーレイだけではなかった。
  「なぜと言われても、反対なものは反対ですわ!」
  「そうですぞ! 貴方はミュウの長なのですから!」
  「いついかなる時も、強く美しくあっていただかなければ!」
   エラ、ゼル、そしてヒルマンからも訳の分からない反対の声が上がった。
   しかし温和な性格のミュウらしからぬ猛抗議に、ブルーも考え込んでしまった。
  「……分かった。僕もやめる事にしよう」
   結局、長老4人から強硬な大反対を受けて、その件はブルーも諦めたのだった───。


  「……なんなの、これ」
   学習ルームにいたジョミーは、呆れ顔でつぶやいた。
  「こんな事を会議で話していたの……?」
  「まあ、たまにだけれどね」
   少々苦笑しながら、ヒルマンが答えた。
   次代の長であるジョミーには、様々な学問の他にもミュウの歴史が伝えられた。
   長老会議の内容もその一つ。
   週に一度は開かれていたという会議だから、その数だけでも膨大なものだった。
   特に気にもとめずある日の会議の議事録をモニター上に出し、ジョミーが内容に目を通したら───その内容は呆れ
  たものだった。
  「もちろんお歳を召されても、ソルジャーの魅力や能力には変わりはない。しかしやはりあの方はミュウのシンボルだ。い
  かなる時も強く美しくあっていただかなくては」
  「そうかもしれないけど……」
   ジョミーは同意できるようなできないような、複雑な心境だった。
   その代わりに気になる事をヒルマンに確認した。
  「これはいつの会議?」
  「今から150年前。……まだソルジャーがお元気だった頃だ」
  「ふうん……」
   ヒルマンの返事に、ジョミーは考え込んでしまった。


   課題をこなし終えた一日の終わり、ジョミーは青の間を訪れた。
  「ブルー?」
   部屋の中央のベッドの枕元に立ち、ジョミーはブルーの名前を呼んだ。
   ベッドに横たわるブルーは眠っていた。
   深く眠っているのか、ジョミーの呼びかけにも答えず、その瞳は開かれない。
   ジョミーはブルーのベッドの端に腰を下ろし、その顔を覗き込んだ。
   まるで童話の中に出てくる眠り姫のように、美しい容貌。
   整った顔立ちは、目を閉じたままでも充分に際立って美しかった。
  「……長老たちの気持ち、分からないでもないなあ……」
   呆れはしたが、ブルーが30年も歳をとる事に反対した長老たちの気持ちが、ジョミーにも分かるような気がした。



                                                〈END〉




100,000を踏んで下さったのはワセイ様です。
内容は自由にとの事でしたので、思い切ってコメディにしてみました。
ちょっとジョミブル色は薄いんですが、私の書くものはみんな基本はジョミブルなので(^^;)
そしてみ〜んなブルーが大好きですv
ワセイ様、ありがとうございました!


2009.4.6




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