慟哭・番外編 〜長いお別れ〜



  「似合わないなあ、お前」
  「うるさい」
   初めてソルジャー服を身につけ、マントを羽織ったトォニィを見て言ったタキオンの言葉は遠慮がなかっ
  た。
   皮肉屋で毒舌家のタキオンの言葉は辛辣だ。
   ただトォニィのソルジャー服姿を見慣れてないだけだろうに、殊更に妙だ妙だと言い募る。
   もっともトォニィにこんな風に遠慮なく話しかけてくる者も、今はタキオンくらいしかいなかった。
  「お前には補聴器なんか必要ないだろう?」
  「いいんだ」
   トォニィの長く伸ばした髪には、補聴器はうっとおしそうだった。
  「邪魔だろ、取れよ」
   タキオンは長椅子の隣に座るトォニィに手を伸ばしかけたが、その手はトォニィに弾かれた。
  「これは、グラン・パからもらった大切なものなんだ───」
   強い力で叩かれて、タキオンは痛む自らの手をさすった。その唇に、嘲笑めいた笑みが上った。
  「……ジョミーはもういないってのに、相変わらずグラン・パ贔屓だな」
   いい加減にしろよと言いたげなタキオンに、トォニィは静かな声で答えた。
  「───いるよ」
  「は?」
  「グラン・パは居る」
   トォニィの声は熱くなるでもなく、あくまで冷静だった。
   ただ単に事実を告げているという風で、それがタキオンの癇に障った。
  「へえ、どこに居るっていうんだ? お前の心の中か?」
   軽口をたたくタキオンに激するでもなく、トォニィは言った。
        テ ラ
  「───地球だ」
  「地球?」
  「そうだ」
   トォニィはタキオンの方を見ずにつぶやいた。
   その視線は自らの足元を見ていた。まるで何かを確かめるように。
  「本当かねぇ」
  「グラン・パの事は僕が一番よく分かっている」
   彼が背負っていたもの、彼の苦しみ、怒り、痛み、その想い───そして希望。
   その魂が行き着いた先も、トォニィには分かった。
  「グラン・パは地球に辿り着いて、ブルーとの約束を果して───今はミュウと人間の未来を信じて、地球で
  眠っているんだ」
   至極真面目な表情で話すトォニィだったが、タキオンにはそれは夢物語にしか聞こえなかった。
   夢でなければ、トォニィのそうあってほしいというただの願望だ。
  「ジョミーは一人か。可哀相だなあ」
  「いや……、ブルーも一緒だ」
   からかい半分で聞くと、トォニィの話には続きがあった。
  「ブルーもグラン・パと一緒にいる。一緒に、幸せに───安らかに眠っている」
   あまりに甘ったるい絵空事にいらついて、タキオンはトォニィの胸倉を掴み上げた。
  「いい加減にしろよ。何でお前にそんな事が分るんだよ?」
  「分るんだ───。地球を目指した者は皆、あそこで眠っている」
   ジョミー、ブルー、ハーレイをはじめとする長老たち、リオ───……みんな、皆。
   険しいタキオンの視線を、トォニィは真っ直ぐ見返した。
   二人は睨み合ったまま、互いに口を噤んだ。
   しばらくそうしていた後、先に口を開いたのはタキオンの方だった。
  「……その中にはタージオンもいるのか」
   タキオンが口にしたのは弟の名前だった。
   地球を目指す道のりの途中で死んだ、タキオンのたった一人の弟。
  「…………ああ」
   トォニィは静かな声で答えた。
   彼生来の気性の激しさが嘘のような、落ち着いた声だった。
  「タージオンも、コブも───……アルテラもだ」
   ナスカで生まれたトォニィとタキオンの仲間たち。
   同じ血を、力を持った本当の意味での仲間。
   そして、想いを寄せてくれた少女───。
   彼ら自身は地球に焦がれていた訳ではなかったけれど、それでも───皆の魂も一緒に地球に辿り着
  き、そのまま眠りについていた。
  「ふん───」
   タキオンはトォニィから手を離すと、扉へと足を向けた。
  「タキオン!」
   呼び止めるトォニィを振り返ろうともしない。          テレパシー
   けれど扉が閉まりタキオンの姿が見えなくなった瞬間、その思念波はトォニィに届いた。
  『……信じてやるよ』
   ひねくれ者のタキオンがたった一言、珍しく素直につぶやいた───。


  トォニィの脳裏に記憶装置から、ブルーの───そしてジョミーの記憶が流れ込んでくる。
  地球を望んだその想い。約束を果たそうとしたその願い。
  そして、トォニィたちを愛すまいとしながら、それでも心の奥底では大切に想っていてくれたジョミーの心
  を──。
  それを知ったから、トォニィは歩いて行ける。タキオンをはじめとする多くの仲間もいてくれる。
  行く道は険しい。ブルーやジョミーが歩んできたものとはまた別の道だ。
  けれど決して希望を捨てはしない。
  地球がいつの日か再生し、豊かな緑に包まれ───その緑を蒼い風が揺らすその日まで。





                                                〈END〉








DVDの発売を待とうと思ってたのに、我慢できずに書いてしまいました。
最終回の後の二次的創作なりの補完。
基本はもちろんジョミ×ブルですが、ちょっと違った角度から書いてみました。

トォニィについてちょっと。
実は私はトォニィが長いこと苦手でした。小さい頃に原作を読んで、ママ(カリナ)が死んだ事を「そんな事より」
と言ってしまうとこが怖くて。
それは彼の気持ちが純粋にジョミーだけに真っ直ぐ向かっているからだとは思うんですが、この子は怖い子だ
なとずっと思ってました。嫌いじゃなくて、怖い。
で、アニメで登場して…かなり可愛い。
でもキースを殺しにいくとことかあって、やっぱりこの子は怖いわと警戒?していました。
その印象がちょっと変わってきたのは、二度目にキースを殺しに行った時。
「ママもブルーも優しい人だった」ってセリフを聞いた時。
あれあれ、ちょっとどうしたのトォニィって思いました。

とはいえアニメのトォニィもジョミーのために生きているのは変わりない。
私はジョミ×ブルなので、私の書くジョミーは120%ブルーしか見ていないので、逆にトォニィは出せないと思っ
てました。
だってあて馬みたいになっちゃったら何だし、書かないのが私なりの愛情…なのですが。
どうしても書きたくて書いてしまいました(^^;)
最終回を見て、トォニィ変わったなあ、成長したなあと思いました。

それにしても何より驚いたのは、まさかタキオンを書くとは思ってもいませんでした!
自分でもびっくりです!(^^;)


2007.10.03




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