The name is love・1
その日もやはり、ジョミーは青の間を訪ねていた。
一日の終わりの静かな時間。
ブルーは珍しく目覚めており、ベッドの上で上半身を起こしていた。
ジョミーはベッドの横に椅子を持ってきてそこに座り、ブルーと話をしていた。
「思念波のコントロールが相変わらず上手くいかなくて……」
「でもジョミーは精一杯頑張っているんだろう?」
「そりゃあもちろん! でもゼルには『お前のコントロールはナキネズミ以下じゃ!』って怒鳴られました」
「それは手厳しいな」
ゼルの口ぶりを真似て言うジョミーに、ブルーは苦笑した。
「君の力は他のミュウよりも───僕よりも強い。だからコントロールするのもより難しいだろう」
「そんな……」
「だがきっかけさえ掴めれば、コントロールなど造作もないだろう。焦る事はないよ」
ブルーはジョミーの頭に手を伸ばすと、その金色の髪をそっと梳いた。
「君ならできると、僕は信じているよ」
「ブルー……」
ブルーの真紅の瞳は真っ直ぐにジョミーを見つめていた。
ブルーにこれ以上はないくらい褒められて、ジョミーはその頬を微かに染めた。
手放しで褒められ、励まされ、くすぐったく恥ずかしく、でも嬉しい気持ちもあった。
ソルジャーと次代のソルジャー候補として報告すべき事。相談事。
そして他愛もない話。
二人は話せなかった時間を埋めるように、様々な話をした。
ジョミーはブルーの体調を気遣って何度か席を立とうとしたが、他ならぬブルーがジョミーを引き留めた
ので、二人はもう一時間以上も話をしていた。
「……よかった。貴方と今日話せて」
満足そうな溜息とともに、ジョミーはつぶやいた。
「?」
「この間、貴方と話をしたのは一週間前です。いつ起きてくれるのかなって、ずっと待っていた」
「それは……すまなかった」
ブルーの眠りの周期は自分でも分らない。
一度眠りにつけば次にいつ目覚めるのか。ジョミーの思念波ではないが、それこそコントロールできるも
のではなかった。
すまなそうに表情を曇らせるブルーに、ジョミーは慌てて続けた。
「でもいい事もあります」
「いい事?」
「ええ。貴方とこうして話をする度に、その事がとても嬉しく感じられるから」
翡翠色の瞳にブルーを映しながらジョミーは笑った。屈託ない、明るい笑顔だった。見ているだけで胸が
温かくなるようだった。
それに微笑み返そうとして、ブルーはふと表情を強張らせた。
「ブルー?」
「…………」
ジョミーが呼びかけても、ブルーから返事はなかった。
ブルーは視線を落として、何かに気を取られているのか、身動き一つしなかった。
「ブルー、どこか具合が悪いんですか?」
「いや……、何でもない」
慌ててブルーは返事をしたが、その手は無意識なのか胸を押さえていた。
ジョミーがよくよく見ればブルーの頬は、ほのかに赤らんでいた。
まさか熱があるのだろうか。
それにジョミーは不安になった。
話をしすぎて疲れさせてしまったのだろうか。体調を悪くしてしまったのか。
「ブルー、ドクターを呼びます!」
「待てジョミー、大丈夫───」
「ドクター、すぐに青の間に来てくれ!!」
大丈夫だから呼ばなくていい、と続ける前に、ジョミーの思念波がシャングリラ船内に響き渡った。
ジョミーの思念波で青の間にやって来たのは、ドクター・ノルディーだけではなかった。
ブルーに何事があったのかと心配したフィシス、そしてハーレイを始めとする長老たちまでもが慌てて
やってきた。
といってもドクターの診察の間、皆は青の間には入れなかった。
ジョミーも出なさいと言われたが、ブルーが心配なのかここにいると必死で訴えた。
その真剣な様子に、ドクターも仕方がないとジョミーが青の間に残る許可を出した。
実際ジョミーはブルーの具合が悪くなったところを見ていたので、話を聞こうかとドクターは思ったのだ。
「いつもより血圧が少し高めですが……。ソルジャー・ブルーは元々低血圧ですから、ちょうどいいくらいで
すな」
簡単な診察を終えて、異常はないようだとドクターは判断した。
「だから何ともないと言っただろう。ジョミーが勘違いして慌てただけだ」
「だって、貴方が赤い顔をして胸を押さえていたから……!」
本当に驚いたのだと訴えるジョミーの言葉に、ドクターは改めてブルーに聞いた。
「本当ですか、ソルジャー・ブルー」
「それは……」
ブルーは珍しく言葉を濁した。
「ソルジャー、正直におっしゃってください」
「……確かに一瞬、動悸がした」
再度問われて、ブルーは言いづらそうに答えた。
その言葉にドクターもジョミーも表情を険しくした。
ブルーの体調が優れないのはいつもの事ではあったが、今まで動悸がするなどの症状はなかったから
だ。
「だが一瞬だけだ。すぐに何ともなくなった」
「その時、貴方は何をしていたのですか?」
「ジョミーと話をしていただけだ」
「何の話を?」
「別に……他愛無い話だったと思うが……」
そう言うブルーの様子に嘘はないように思えた。
念のためジョミーにも聞いてみたが、ジョミーも同じ事を言った。
首を傾げる二人に、ドクターはこれは本当そうだと感じた。
問診とその時の状況、そしてブルーの今の体調を照らし合わせて、ドクターは思いつく限りのあらゆる病
名を頭の中に並べたが、どうもどれもしっくりとこない。
「……たぶん話をしすぎて、疲れが出たのでしょう」
ドクターの言葉に、ジョミーは微かに項垂れた。
ブルーはそれは違うと否定した。
「僕は疲れてなどいないよ。ジョミーと話をするのは楽しいし」
「楽しくても疲れは溜まるものです。とりあえず今後、話をするのは一日30分にして下さい」
ドクターがそう告げると、同時に二人から抗議の声が上がった。
「ええ〜! 何で!?」
「ドクター、何を根拠にそんな───」
「念のためです。それとも10分の方がよろしいですかな?」
その言葉に、ジョミーもブルーも慌てて押し黙り、悲しそうにお互いを見やった。
「ブルー……」
「……仕方ない。だがドクター、僕が何ともないと分かれば、その時間制限はすぐに解除してくれるんだろ
うね」
「もちろんですよ」
とりあえず1週間は様子を見ましょうと言うドクターに、ブルーはもちろん、ジョミーも渋々ながら頷いた。
その様子に安心したドクターは、青の間の外に居並ぶ面々に説明すべく、青の間を後にした。
もちろん涙目のジョミーの腕を掴み、青の間から引きずり出す事も忘れなかった。
「ブルー!」
「ジョミー……」
悲しげな二人の様子に、まるで恋人同士を引き裂く悪人のようだと、ドクターは胸の内でこっそりため息
をついた。
実はブルーの症状は、ドクターがまさかと思って真っ先に除外したものであった。
病気ではない。
けれど治す薬も何もない、ある意味病気より厄介なもの。
そしてそれは症状こそ表に出てはいないが、実はジョミーも同じだった。
コメディなんですけど、ちょっとブルーが……でしょうか(^^;)
こないだ300年前を現在に置き換えると江戸時代と聞いて、分ってたつもりだけど改めてブルーすごいなあと
思いまして。
じゃあいろんな症状があるんじゃないかとか、ジョミ×ブル妄想をからめたら、なんだか妙な話になってしまい
ました。
ちなみにブルーは生存方向で!
身体が弱くても何でも、ジョミーが傍にいてくれればきっと大丈夫だから!
2008.02.03
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