The name is love・2
ジョミーは毎日、青の間を訪ねる事をやめなかった。
そんな時に限ってブルーの体調も良く、訪ねれば目覚めていてジョミーを笑顔で迎えてくれるのだから
嬉しいやら悲しいやら。
それでもドクターの指示を守って、必ず30分で青の間を後にしていた。
そしてドクターが期限をつけた一週間目が今日だった。
ブルーの体調は悪くなってはおらず、今日さえ我慢すれば30分の時間制限も解かれようとしていた。
ブルーのベッドの傍らで、ジョミーは感慨深げにつぶやいた。
「長かったなあ、この一週間……」
「そうだね、僕もそう感じたよ」
「ブルーも?」
改めてベッドに身を起こしているブルーを見れば、ブルーは苦く微笑んでいた。
紅い瞳がジョミーを見ながら話を続けた。
「でも君と話す30分は、その時間だけはとても短く感じたよ」
「……僕もです、ブルー!」
ブルーも自分と同じ気持ちでいてくれたのだと知って、ジョミーは嬉しかった。
嬉しさのあまり、上掛けの上に置かれていたブルーの手を取り、両手でギュッと握りしめた。
しかしどうした事かブルーは微笑むのをやめ、それどころか眉を顰めて表情を曇らせた。
「ブルー?」
「……何でもないよ」
そう言うブルーだったが、頬は微かに赤く染まり、常にはない様子だった。
それがジョミーを不安にさせた。
「もしかしてまた具合が───」
「大丈夫だから、ドクターは呼ばないでくれ」
「でも……!」
しかしタイミング悪く、青の間の外からブルーに向けて呼びかけてくる思念波があった。。
『ソルジャー・ブルー、失礼します。ノルディーですが、よろしいでしょうか』
ジョミーとブルーの二人は、困ったように互いを見やった。
「また血圧も上がってます。……このところ安定していたのに」
ドクターが苦々しくつぶやいた。
結局、ドクターを部屋に入れない理由も思い当たらず、ブルーはドクターの診察を受けていた。
ジョミーはドクターの後ろに一歩身を引き、それを心配そうに見つめていた。
「お二人はいったい何をされていたのですか」
ドクターは振り返ってジョミーに尋ねた。
「何って別に……」
「話をしていただけだよ、ドクター」
どうやらドクターはジョミーに原因があると考えているらしい。
ブルーがそれとなく助け舟を出したが、ドクターは納得してはくれなかった。
「本当ですか?」
「……そういえばちょっと手を握ったけど、でもそれだけだし」
「手?」
思い出したという風につぶやいたジョミーの言葉に、ドクターは険しい視線を向けた。
「ソルジャー・ブルー、少しの間すみません。……ジョミーだけちょっと来てくれ」
「僕?」
ドクターは青の間の隅にジョミーを引っ張って行った。
何だろうと思いつつ、ブルーはそれを黙って見つめていた。
後ろ姿の二人は、何やらこそこそと話をしていた。
「……たら、そうしてくれ」
「なっ、なんでそんな事を───」
「いいから、とにかく指示通りに。いいね」
「いいね、って……」
何事か話を終えたドクターとジョミーは、ブルーの元へと戻ってきた。
「いったい何なんだい?」
「いえ、つまらない事です。それよりソルジャー、もう一度脈を測らせてもらってよろしいですか」
「? ああ……」
訝しげな表情をしながら、ブルーは片手をドクターに差し出した。
ブルーの脈拍は平常で、何の異常もなかった。
その時、ドクターが横に立っていたジョミーに目配せをした。
ジョミーは一瞬怯んだが、ドクターに厳しい視線で見つめられ、ええいと言われた通りに動いた。
ジョミーは身体を屈めると、静かな動作で───けれどいきなり無言でブルーを抱き締めた。
「ジョミー……!?」
驚いたのはブルーだった。
突然の抱擁に顔を真っ赤にし、身動きするのも忘れて固まってしまっていた。
けれどドクターが触れているブルーの手首、そこで感じられる脈拍は明らかに早まっていた。
『やはりこれは……!』
まさかとは思っていたが、しかしようやく───その症状に確信がいったドクターだった。
さっぱり訳が分からないと訴えるブルーをひとまず残したまま、ドクターはジョミーを青の間から連れ
出すと、なぜか瞑想室へと連れてきた。
理由は簡単、ここは思念波が完全に遮断できる部屋だからだ。
しかしジョミーも何がなんだか分からないようで、不安からくる不機嫌さをありありと顔にのせて聞い
てきた。
「いったい何なんですか、ドクター。ブルーは何の病気なんですか?」
「君の協力で、先ほどようやく分ったよ」」
「ええっ!」
内心、この人もしかしたらヤブ医者なんじゃないかと疑い始めていたジョミーは、ドクターの返答に驚
いた。
「何の病気ですか? すぐ治る病気?」
「いや、これは私には治療不可能だ」
「そんな……! いったい何て病気なんですか!?」
ますます表情を暗くさせるジョミーにドクターは重々しく告げた。
「……恋の病だ」
「……は?」
「恋の病、と言ったんだよ」
「恋……ですか?」
ジョミーは耳を疑った。ドクターの言葉を聞き間違えたのかと思った。
しかしドクターはひどく真面目に話を続けた。
「どうやらソルジャーは君を好きらしい」
「は?」
「君を好きらしいと言ったんだよ」
「ええ〜!?」
ようやくドクターの言っている意味を理解して、でもやはりジョミーは驚いた。
ドクターの説明では、脈拍が早くなったのも血圧が上がったのもすべてはジョミーに恋しているせい
だろうとの事だった。
ただ本人はこれっぽっちも、恋だとは意識も自覚もしていないので、胸がときめいても恋とは思わず
動悸だと錯覚してしまったのだろうと言う事。
どうにも信じ難かったが、説明を聞いているうちにジョミーは真っ赤になった。
驚いたけれど、でも嬉しいと、頬が緩むのを抑えられなかった。
実はジョミーもブルーが好きだったのだ。
気がついたのは一週間前。ドクターがブルーとの面会に時間制限をつけた後だった。
そんなジョミーの様子を見て、ドクターは顔色を変えた。
「ジョミー、まさか君も……?」
「え、えっと───まあ、その」
「なんてこった……!」
ドクターは文字通り頭を抱えた。
しかしすぐに気を取り直すと、改めてジョミーに向き合った。
「いいか、ジョミー。よく聞いてくれ」
「はい」
「ソルジャー・ブルーはああ見えて大変なお年だ」
「知ってます」
全然そうは見えないけれど、優に300歳は超えているのは周知していた。
「君が笑いかけただけで、動悸がすると思うくらいなんだ。そんな人に激しい感情の起こるような恋愛な
ど、まずいとは思わないか」
「……何が言いたいんですか」
嫌な予感を感じながら、ジョミーは尋ねた。
そしてドクターの返事は、まさにその通りのものだった。
「告白禁止。触るのも禁止」
「そ、そんなぁ〜!!」
ドクターの更なる禁止事項に、ジョミーは抗議の声を上げた。
好きなのに、両想いなのに、なぜ止められなければいけないのか。
「君が告白でもして、ソルジャーが驚きのあまり心臓発作でも起こしたらどうするのかね?」
「まさか、そんな事は……」
「起こらないと君に断言ができるか!?」
「───……」
断言したい。断言したいが、医者でもないジョミーには言えなかった。
ジョミーを黙らせたドクターは、気の毒そうに話を続けた。
「ソルジャー・ブルーにはそうだな……。貴方は『男性アレルギー』か『ジョミーアレルギー』だとでも言っ
ておこう」
「そんなアレルギーがあるもんか!」
僕は猫か! ナキネズミと一緒か!? と心の中で叫んだジョミーの言葉は、しっかりドクターへ伝
わった。
ドクターはジョミーの両肩をその手でがっしりと掴むと、真正面から視線を合わせて言った。
「そう、君はナキネズミとは違うんだから、しっかり理性を持って行動してくれるだろうね」
「うっ……!」
結局、ドクターはブルーに、貴方は「ジョミーアレルギー」だと説明した。
そんな事ブルーが信じるもんかと思っていたジョミーだったが、その予想は反した。
ドクターに全幅の信頼をおいているブルーは、あっさりとそれを信じた。齢300歳以上とは思えない
ほどの素直さだった。
ブルーへの恋心を自覚した時から、前途多難だろうとは覚悟していたけれど、まさかドクターストップ
がかかるとは夢にも思っていなかったジョミーだった。
<END>
コメディってある意味、キャラを壊す事かなと思うんです。
今回の目的はほんのりラブコメディ、かつ勇気をもってちょっとだけブルーを壊してみよう! …だったのですが。
挫折しました〜!(−−;)
なんか中途半端というか。やはり好きなキャラを壊すのって難しすぎます。
機会があったら再チャレンジという事で、今回はこれにてチャレンジ終了で〜す。
ちなみにジョミーよりもナキネズミの方が、理性はありそうだなあと思うのは私だけでしょうか…(^^;)
2008.02.14
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