なつのよる よいまつり
〜シン×ブル編・2〜



   祭りから帰って来たシンとブルーだったが、シンは自宅に帰るでなく、隣のブルーの家に上がりこんだ。
   小さな頃から家族ぐるみの付き合いをしているため、ブルーの母親はそれを何の不思議にも思わなかった。
   シンの事はもう一人の息子か、自分の息子と仲良くしてくれている、隣家の幼馴染みという認識しかなかった。
   もちろん、それがすべて間違いではないのだけれど───。
   二人は母親にも内緒の、秘密の時間を持っていた。


  「ブルー、足を見せて」
  「え?」
   二階のブルーの部屋へ二人で入るなり、シンは突然そう言い出した。
  「さっき踏まれたでしょう。怪我でもしてたら大変だ」
   シンは時に、過保護なほどにブルーの身を案じてくれる。それは嬉しくもあったけれど、ブルーは首を横に振った。
  「怪我なんてしていない。僕が普通に歩いているのを君も見ただろう?」
  「大丈夫ならそれでいいけど、確かめておきたいから」
   シンはブルーの部屋のベッドにブルーを座らせると、自らは床に片膝をついて跪き、ブルーの左の足を手で持ち上
  げた。
  「ジョミー……!」
   部屋の中に小さく、けれどはっきりとしたブルーの声が響いた。
   けれどシンはそれに構わず、ブルーの足首ごと捕らえたまま、じっと視線を落としていた。
  「……痣にもなってないですね」
  「だから言っただろう、大丈夫だって」
  「綺麗な足だね……。ブルーは、爪の形まで綺麗だ───」
  「ジョミー!」
   褒められているのだろうが、ブルーは気恥ずかしくて、シンの手から自らの足を取り戻そうとした。
   しかし引き寄せようとした足は、強い力で留められた。
   そしてシンが不意に前かがみになったかと思うと───……。
  「っ……!!」
   ブルーは息をのんだ。
   シンが突然、ブルーの足の甲に口づけたのだ。 
  「ジョミー!」
   驚いたブルーがその名を呼ぶと、シンは翠の視線だけ上げてブルーを見た。
   その視線に、ブルーは我知らず頬が赤くなるのを感じていた。
   シンはブルーの足から唇を離すと、微笑んだ。
  「約束したでしょう? 帰ったら続きをしようって」
  「約束って……君が勝手に言っただけだろう」
  「じゃあどうしてあの時に否定しなかったの?」
  「それは───」
   暗闇が怖かったから。
   一人になりたくなかったから。                                               つまさき
   子供じみたそんな理由をブルーが口にするのをためらううちに、シンはその指先をブルーの着ている浴衣の褄先の
  間にそっと忍ばせた。
  「ジョミー……!?」
  「動かないで」
   ブルーの声は制止の色を滲ませていたけれど、シンはそれに構わなかった。
   さらに裾よけの下に伸ばされた手は、ブルーの脚を確かめるように上へ添って動いたかと思うと、裾よけごと浴衣の
  上前を肌蹴させた。
  「ジョミー……ッ!!」
   深い紺色の浴衣の下から現れたのは、雪のような白い肌。
   もう幾度となく目にして、触れていたけれど、その度にシンの心を奪う───。
   その滑らかさを味わう様に再び指を這わせると、ブルーがひくりと身を震わせた。
  「だめだジョミー、下に母さんが───」
   階下には母親がいた。それがどうしても気になるブルーは、どうにかしてシンを止めようとした。
   シンはブルーに触れている手はそのままで、身体を起こした。
  「最後まではしないから」
   シンはブルーの顔にそっと顔を近づけて、その真紅の瞳を見つめながら囁いた。
  「だから……ね?」
  「───……」
   シンの強引だけれど真摯な瞳に、ブルーは見入ったまま、返事が出来なかった。


   互いの身体を寄せて、腰を深くあわせる───。
   ベッドにはシンが横になり、その腰を跨ぐようにしてブルーが上に乗った。シンの強い腕で引き寄せられた。
   ブルーはその体勢に頬を赤らめたが、ブルーの髪が崩れないようにというシンの配慮だった。
   今やブルーの浴衣の帯から下は乱され、白い両足が見え隠れしていた。
   そして散々愛撫された末、ブルー自身はシンの手の中に捉えられていた。
   けれどブルーに触れるのはシンの掌と指だけではない。
   シン自身もブルーに触れていた。
   シンは自らとブルーを一緒に掌に収めていた。
  「ブルー……」
  「……ジョ……ミ……」
   シンに熱く名を呼ばれても、荒くなった息では満足に返事も返せない。
   シンの手が与えてくれるのは、間違いなく快感だった。
   指先が動かされる度に、熱い蜜が零れた。でもそれがどちらのものであるのかわからない。
   どちらのものでもあるのかもしれない。
   何よりシン自身の熱を、ブルー自身で感じている。
   ブルーの熱もシンに触れている。知られている。
   シンに触れられると、いつもおかしくなる。
   今も、今すぐにでもおかしくなってしまいそうだった。
  「ジョ、ミぃ、あ……ッ!」
  「……く!」
   二人は微かに声をもらし、身を震わせたのはほぼ同時だった。
   それぞれの白蜜が、シンの手の中に溢れ、混ざり合う───。
   脱力したブルーが、シンの身体に身体を預けてきた。
   常から細いブルーに体重をかけられても、シンにとって何の苦もない。むしろ温もりを感じられるその心地よさを、ずっ
  と感じていたいくらいだった。
   シンは片腕をブルーの背に回し、しっかりと抱き締めた。
  「ブルー……?」
   乱れた息を静めて腕の中のブルーを呼んでも、返事はなかった。
   様子を伺えば、ブルーは微かに柳眉を寄せたまま、未だその瞳を閉じていた。
   まだ夢うつつの状態で、髪の色と同じ銀色の睫毛がよく見て取れた。
   髪の一本から足のつま先まで、ブルーのすべてが愛おしかった。
   シンはほんのりと色づいたままのブルーのうなじに唇を寄せると一度だけ、熱情のまま口づけた。
   しばらくしてブルーの母親が、階下から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
   それまで、二人は身体を重ねたまま抱き合っていた。


   ブルーの母親の声に何度か呼ばれた末に、シンとブルーの二人はようやく二階から降りてきた。
   乱れた浴衣は、シンが直した。
   そして二人はブルーの家の居間で夜風に涼みながら、母親が切ってくれた冷えた西瓜を食べた。
   キッチンにいた母親が用を済ませて居間に行くと、息子のブルーの様子がおかしかった。
  「あら……? ブルー食べないの?」
   ブルーは西瓜に手を出していなかった。おまけに心なしか元気がないようだった。
  「西瓜好きでしょう? どうかしたの?」
  「なんだか食欲がなくて……」
  「体調でも悪いの?」
  「ううん、そんな事ないよ」
   心配してくれる母親に、慌ててブルーは笑顔を向けた。
   西瓜は好きだ。大好物だ。
   でもさっきの今で、ブルーはとても食欲が湧いてこなかった。
   ただでさえ身体はまだ火照っているというのに。
   対するシンといえば、先ほどまでの行為をきれいさっぱり忘れたように、ブルーの隣でシャクシャクと西瓜を平らげて
  いた。
   その平然とした様子に、ブルーはなんだか段々と腹が立ってきた。
   熱に浮かされているのも翻弄されているのも自分一人のようで。
   そんな事を考えていると、母親がブルーを見て首を傾げた。
  「……あら? ブルー、虫に刺されたの?」
  「え?」
  「首筋、赤くなってるわよ」
  「首……?」
   ブルーは母親に言われても、まったく身に覚えがなかった。
  「ええ。ほらここよ」
   左の耳の少し下の首筋を、母親が指先でちょんと触れた。
   それでもブルーにはそんなところを虫に刺された記憶はなかった。
  「蚊にでも刺されたのかな……。でも別に痒くなんかな───」
   ないと言いかけて、ブルーは思い出した。
   そんなところが赤くなっている理由を。
   ブルーのうなじにそんな跡を残した原因を睨みつければ、シンは無言で、でも目を細めてブルーを見ていた。
   その楽しげな様子に、ブルーの頭に血が上った。
   次の瞬間、ブルーはシンの頬を叩いていた。
  「ブルー!!」
   驚いたのは叩かれたシン当人ではなく、ブルーの母親だった。
   当のシンはといえば、ブルーの平手を避けるでなく、受け止めた上でなお平静だった。
  「急に何をするの!?」
  「ジ……ジョミーの顔に蚊がいたから、取っただけだよ!」
   そう叫んだブルーは居間を飛び出し、階段を上り二階の自室に上がってしまった。
   残されたシンに、ブルーの母親は慌てて謝った。
  「あの子ったら乱暴ねえ……。ごめんなさいね、ジョミー」
  「いいえ」
   シンは怒る様子もなく、にっこりと微笑んだ。
   それどころか嬉しそうな表情で、叩かれた自分の頬を撫でていた。
   と、その時いきなり電話が鳴った。
  「もしもし……あら、マリア?」
   ブルーの母親が受話器を取った。どうやら相手はシンの母親のようだった。
  「今から? そうね……」
   チラリと視線を投げられたシンは、了承の意味を込めて頷いた。
   それを確認したブルーの母は、すぐに行くからと返事をして電話を切った。
   シンの母親マリアとブルーの母親は仲が良く、よくお互いの家を行き来して、おしゃべりを楽しむ仲だった。
   昼間はもちろん、時には夜にもそんな時間を設けるほど、何を話す事があるのかと常から息子たちは思っていたが。
   古今東西、女性はおしゃべりが大好きな生き物らしい。
  「本当にいいの?」
  「どうぞゆっくりして下さい。母も喜びますし、ブルーには僕がついてますから」 
  「ありがとうジョミー。あなたがしっかりしててくれて助かるわ。じゃあ後をよろしくね」
  「はい」
   シンに促され、ブルーの母は嬉しそうにシンの家へと出かけて行った。
  「さて……と」
   それを見送ったシンは一人、ブルーの部屋へと向かうべく、ゆっくりと階段を上がっていった。


   遠くから風に乗って、微かに祭囃子が聞こえてきた───。




拍手を押して下さった皆さん、そして悪い虫のシンが読みたいとおっしゃって下さった皆さん、ありがとうございますm(__)m
嬉しかったので書いてみました。(ああ、時間が……)
ワルイムシン、いかがでしたでしょうか。
最後までは書いてませんので、期待はずれだったらごめんなさい。
できるだけ直接的でない、最後までしてなくても色っぽいシーンを書けたらいいなと目指したのですが。
裏ページでも作らないと、どうも私には最後までは書けそうもありませぬ〜(><)

途中までで我慢したのはシンだからです。
これがジョミーだったら絶対我慢なんかできないと思いますが、まあシンなら少しはできるかな〜と思いまして。
ブルーのお母さんはシンを全面的に信頼していますが、本当は一番の危険人物なのにね。
お母さ〜ん、隣の息子さんはあなたの息子さんにあんな事もこんな事もしてますよ〜!
でも、とりあえず1時間半くらいは帰ってこないでねv
それにしても幼馴染みシンブル設定って、意外と書きやすかったです。

実はブルーの浴衣を男物にしなかった理由は、大きく二つあるのです。
一つは前回書いたとおり、うなじを見せたかったから。
もう一つは、浴衣妄想がマジでぶっ壊れそうな理由なので、敢えて伏せますね(^^;)

次に書くのはシン子ブルの予定です。



2008.07.21





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