なつのよる よいまつり
〜子ジョミ×ブルー編〜



   毎年近所で開かれる夏祭りに、ブルーは隣の家に住むジョミーを連れて出かけた。
   ジョミーは今年、5歳になったばかり。
   母親に着せてもらったジョミーの浴衣は涼しげな水色だった。兵児帯は黄色で、ジョミーの髪の髪とよく合っていた。
   いつも走りまわりやんちゃなジョミーだが、履き慣れぬ下駄のせいか今は少しだけ大人しかった。
   そんな様子も可愛らしいことこの上ない。
   ブルーと手を繋いだジョミーは、隣を歩くブルーを見上げた。
   ブルーはさわやかな白地に青い濃淡を滲ませた浴衣を着ていた。
   帯は淡いグレーで、そちらもブルーの持つ清涼な雰囲気をいっそう引き立てていた。
  「ブルー、きれいだね」
   浴衣姿のブルーに見惚れながらジョミーが言った。
   ブルーは紅い瞳を困ったように瞬かせた。
  「そういうのは男には言わないんだよ、ジョミー」
  「でもきれいだもん」
   やんわりと注意しても、ジョミーは譲らなかった。
   道の両脇には、数日前から提灯が吊るされ、ぼんやりと暗くなり始めた道を照らしていた。
   賑やかな太鼓の音や人の気配のする方に、ジョミーとブルーは手を繋いで歩いた。
   カラコロと二人の下駄の音が夜道に響いた。
   ジョミーは綺麗で優しい、隣に住むブルーが大好きだった。
   今春、高校に入学したブルーは忙しいだろうに、ほぼ毎日ジョミーと遊んでくれていた。
   ジョミーは一人っ子だし、ブルーにも同じく兄弟はいなかった。
   ブルーも懐いてくるジョミーを可愛がり、二人はまるで本当の兄弟のように過ごしていた。
   そしてようやくやって来た夏休み。
   ジョミーは自分の家を飛び出したまま、毎日ブルーの家で一日を過ごしていた。
   ご迷惑だから帰ってきなさいと母親が迎えに来ても、ブルーに抱きついて帰らないこともしばしばだった。
   そして一週間前に夏祭りの事を知ったジョミーは、とても行きたがった。
   けれどちょうどジョミーの両親は出かける用があって、お祭りには行けないと言われた。
   来年になったら必ず連れて行くから、我慢してちょうだいねと母親に言われ、ジョミーは項垂れた。
   それを見かねて、ブルーが僕が一緒に行きますと申し出た。
   ジョミー本人はもちろん、ジョミーの母親も喜んだ。
   その日からずっとジョミーは祭りの日を楽しみにしていた。
   焼きそばが食べたい、かき氷も食べたい。
   何よりブルーと一緒に行けるというのが、一番嬉しかった。


   夏祭りの会場は賑やかだった。
   広場にたくさんの屋台が店を出し、そしてたくさんの人が楽しそうに過ごしていた。
   お祭りを楽しみにしていたジョミーだったが、いざやって来るとある屋台の前で足を止めて動かなくなってしまっ
  た。
   それは射的の屋台だった。
   屋台の屋根の下には何列かの棚が作られ、その棚の上には数多くの景品が並べられている。
   その前を通りかかったジョミーは、それに釘づけになってしまった。
  「ぼく、これがしたい!」
  「射的か……。ジョミーにはまだ難しいかもしれないよ」
  「でもやりたい! ママがくれたお金ちょうだい」
   ジョミーは生来勝ち気で、一度言い出したらきかないところがあった。
   仕方なくブルーは、ジョミーの母親から預かったお金をジョミーに渡した。
   射的は300円で5回撃てる。
   屋台の店主に300円を払い、おもちゃの銃を一丁とコルク栓を5つ受け取ったジョミーは、銃の先端にコルクを詰
  めようとした。
   しかし上手く詰められず、代わりにブルーがそれを詰めた。
  「はい、ジョミー」
  「ありがと」
   ジョミーは手前に作られた台座に肘をついて、銃を構えた。
   しかしおもちゃといえども5歳児にはやはりそれは重く、ジョミーは小さな身体をぐらつかせた。
  「ジョミー、大丈夫かい」
  「へ……平気!」
   驚いてジョミーを支えようとしたブルーだったが、ジョミーはそれに頼らず頑張って一人で立った。


  「おじさん、もう一回!」
  「はいよ」
   ジョミーは顔を真っ赤にして、屋台の店主にまたも300円を差し出した。
  「ジョミー……」
   ブルーはそれを困ったように見つめていた。
   もう600円分、10回撃ったが、ジョミーの放ったコルクは全然景品に当たらなかった。
   ジョミーが狙っていたのは、指輪だった。
   長細い筒に嵌められた、小さな指輪。
   筒自体は長いが何しろ細いものなので、なかなか当たらなかった。大人でもそう簡単には当たらないだろう。
   その隣にもっと大きな景品───車のプラモデルの箱があった。
   どちらかといえばそちらの方がジョミーが好きそうだと思ったから、ブルーはそれを狙えばいいと薦めた。
   が、ジョミーは頑として指輪だけを狙った。
   ジョミーの母親から預かったお金は1000円。すでに支払ったのは900円。
   この5発がもう最後だった。
   しかし、小さな身体で必死に銃を支えて撃ったジョミーだったが、4発のコルクは無情に指輪の横を通り過ぎた。
  「ジョミー、次が最後だよ」
  「う〜……」
   横からブルーが声をかけると、ジョミーは半分涙目になりながら、銃の先端にコルクを詰めた。
   14発も撃つうちに、自分でできるようになっていた。
   そして、目標の指輪と向きあった。
   しかし最後の一発だという緊張感からか、なかなか引き金をひかなかった。
   それまで黙ってジョミーを見つめていたブルーが、そっとジョミーに寄り添った。
  「ブルー?」
  「肩の力を抜いて……真っ直ぐ前を見て」
   ブルーはジョミーの肩にそっと手をやった。
   ジョミーは言われた通りにした。
  「目標だけを見て。銃を動かさないで撃つんだ」
  「……うん」
  「いいよ、ジョミー」
   促され、ジョミーは引き金を引いた。
   放たれたコルクは真っ直ぐ飛び、指輪が嵌ったままの筒に見事に命中し、その筒は棚から地面に落下した。
  「やったあ!!」
   ジョミーは喜んでブルーに飛びついた。
   すかさず屋台の店主がそれを拾い、苦笑しながら筒から指輪を外した。
   小さな子供がむきになっている様子が気になっていたようだった。
  「よかったなあ坊主。ほらよ」
  「ありがとおじさん!」
   無骨な手が、ジョミーに指輪を差し出した。
   ジョミーは大喜びでそれを受け取った。
   嬉しそうにそれを見つめると、小さな指輪はジョミーの掌の中でキラキラと輝いた。
  「よかったね、ジョミー」
   ブルーがジョミーに声をかけると、ジョミーはブルーを見上げた。
  「はい!」
  「え……?」
  「ブルーにあげる!」
   ジョミーはブルーに指輪を差し出していた。
  「僕に……?」
  「うん」
   やっと手に入れた指輪をどうして手放してしまうのか。
   ブルーは面くらったが、ジョミーの手は引っ込められず、そのままそれを受け取った。
   それはおもちゃの指輪だった。
   真っ赤なガラス玉が宝石に似せてカッティングされ、銀メッキされた台座にはめこまれていた。
  「ブルーの目とおんなじ色してて、きれいだったから」
   だからあげると、ジョミーは笑った。
  「ジョミー……」
   ブルーは驚いた。そんな理由でジョミーが指輪にこだわっていたなんて、まったく気づかなかった。
   言葉もなく指輪を見つめるブルーの浴衣の袖を、ジョミーがつんつんと引っ張った。
  「ねえブルー、指輪してみて」
   無邪気なおねだりに、ブルーは微笑んだ。
  「いいよ。どの指にしよう?」
  「ママは左手のくすりゆびにしてたよ」 
   ジョミーは指輪をする指によっていろんな意味がある事をまだ知らず、唯一知っているそれを口にした。
   ブルーは苦笑した。
  「……それはまるで婚約指輪みたいだね」
  「こんやくゆびわ、ってなに?」
   きょとんとしながらジョミーは聞き返した。
  「いずれ結婚しましょう、って約束をする時に相手に贈る指輪だよ。受け取ってもらえたら、将来結婚できるんだ」
  「けっこん……」
  「ジョミーのパパとママみたいに、ずっと一緒にいましょうねって事だよ」
  「じゃあぼく、ブルーとけっこんしたい!」
   ジョミーは笑顔で、大きな声で言った。
   射的の屋台の店主や、周囲にいた人が何事かと振り向いたが、ジョミーはまったく構わなかった。
   ブルーはジョミーの金色の髪を、愛おしそうに撫でた。膝を折って、ジョミーと視線を合わせた。
  「……いいよ。じゃあ、僕の指に嵌めてくれる?」
  「うん」
   ジョミーはブルーから指輪を手に取ると、おぼつかない手でそれをブルーの左手の薬指に嵌めた。
   細身のブルーは指もほっそりとして、はたして指輪は無事ブルーの指におさまった。
  「……ありがとう、ジョミー」
  「うん!」
   指輪をしたブルーにそれは綺麗に微笑まれて、ジョミーも嬉しそうに笑った。


   お小遣いをほぼ使い果たしたジョミーのために、ブルーは焼きそばとかき氷を買った。
   すっかりお腹が減っていたのか、ジョミーは喜んでそれを美味しそうに食べた。
   ひとしきり夏祭りを楽しんだ帰り道、ジョミーははしゃぎ疲れたのか眠ってしまった。
   ブルーはジョミーを背中におぶって、家路を辿った。
  「ん……ブルぅ……」
   ブルーの背中で、眠り込んだジョミーがつぶやいた。
  「ジョミー?」
   ブルーが声をかけても、ジョミーからの返事はなかった。
   どうやら寝言だったようだ。
   いったいどんな夢をみているのか───。
   ブルーは背中のぬくもりを背負い直した。
   その左手には赤い指輪。
   ルビーよりもガーネットよりも美しく、それはブルーの指で輝いていた───。




                                                             <END>




ジョミーもシンも大好きですが、子ジョミを書くのもけっこう好きです。
下剋上カップルとか年下攻とか大好きなので、どんなに幼くとも子ジョミは将来は攻です。

ブルーはもちろん学校で超人気者です。
同級生はもちろん、先輩後輩からも告白されまくり。
しかしその相手にブルーは笑顔で「僕には婚約者がいるから」とあっさりお断り。
その婚約者はまだ5歳なんですけどね〜v

今回のブルーの浴衣は、普通に男物でもいいかなーと思ってます。
というか、脱がす事を考えなければ男物でもいいんです。
ブルーならそれだってもちろん色気はあるだろうし。
でも脱がすとなると、やっぱり……ね(^^;)
将来がんばれ子ジョミ!
11歳差なんて……たぶん大丈夫。300歳に比べたら大したことないない!
…とゆうか、かわいい話を目指したのに、私のコメントが不穏ですよね〜(^^;)


次は子ジョミ子ブルの予定です。



2008.08.02





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