なつのよる よいまつり
〜ジョミー×ブルー編〜
高校一年生になったジョミーとブルーは、今年も近所の夏祭りに一緒に遊びに来ていた。
家が隣同士なため、幼馴染みである二人は毎年このお祭りを楽しみにしていた。
けれど同じ高校に進学した数ヶ月前、二人はただの幼馴染みではなくなっていた。
そんな二人は今年、互いの母親に着付けをお願いして、浴衣で祭りにやってきた。
ジョミーはブルーの浴衣を着た涼やかな姿に見惚れ、ブルーもジョミーの浴衣姿を新鮮な気持ちで見た。
二人は夕方から出かけていたが、夜になっても賑やかな祭り会場で遊び、楽しんでいた。
しかし夜になり、まだまだ祭りも中盤という時刻に、遠くから雷の音が響いてきた。
夏の空模様は変わりやすいのが常だ。
それはしばらくしてひどく近くで鳴り出し、同時に祭り会場に大粒の雨が落ちてきた。
突然土砂降りの雨に慌てて引き上げるたくさんの人々。ジョミーとブルーも同じく会場を後にしたが、まだ家までは距離
があるというのに雨足は一向におさまらず、慌てて途中にある神社の軒先に避難した。
「うわあ、びしょ濡れだね」
「だから早く帰ろうと言ったのに……」
軒先で空を見上げながら、ジョミーとブルーは困り果てていた。
夜空でも空模様は怪しく、ブルーはジョミーに早く帰ろうと何度も促した。
けれど型抜きの屋台に夢中になっていたジョミーは、もうちょっと、あと一枚だけと帰る時間を延ばしたのだ。
あまりの雨の勢いに傘も持っていなかったジョミーとブルーにはどうしようもなく、通りかかった神社へ逃げ込むしかな
かった。
「しばらく止みそうにないなあ」
ジョミーが見上げる空からは、雨が音を立てて降ってきていた。
その勢いは少しも衰えず、当分足止めをくらってしまいそうだった。
袖を絞れば水が滴るぐらい、頭からつま先まで全身濡れ鼠だ。
しじら織りの濃いグレーの浴衣、生成の帯を結んだ姿は、まだ高校生とはいえ充分凛々しかった。
水気を払いつつ、ジョミーはふと隣に立つブルーに目をやった。
『…………!』
ブルーもジョミーと同じように、全身雨に濡れていた。
結い上げた銀色の髪、白い肌───白いうなじにはみだれ髪がしっとりと張り付き、この上なく艶めかしい。
すっきりと爽やかな白地に濃淡をつけた水色で牡丹と格子が描かれた浴衣。薄紫の帯もブルーにはとてもよく似合って
いた。
それらがしっとりと雨に濡れ、涼やかな色香が匂い立つようだ。
『ヤバい。目の毒かも……』
ジョミーは意識して、隣に立つブルーを見ないようにしようと心掛けた。
しかし恋する男心の悲しさか、ついチラチラと視線を向けてしまう。
雨足はますます激しく、一向に止む様子はなかった。
困り果てたブルーがため息とともにつぶやいた。
「これは困ったね、ジョミー」
ジョミーからの返事はない。
「ジョミー?」
返事がないのを訝しんだブルーが隣に目をやれば、ジョミーと視線があった。
しかし真っ赤になったジョミーに不自然に視線を外された。
ジョミーの内心を知らないブルーは、我が身を見下ろした。
『……そんなにみっともないかな』
確かに雨に打たれて髪は乱れてしまったし、浴衣は濡れて無残なものだ。
仕方がないとはいえ、ジョミーの前でみっともない姿を晒しているのは気が引けて、せめてと思いブルーは片手を上げ
て後れ毛を直した。
しかし突然、その手をジョミーにがっしりと掴まれた。
「ジ、ジョミー……?」
驚いて隣を見れば、ひどく怖い顔をしたジョミーと目が合った。
「ちょっとこっちに来て」
「……?」
訳が分からないまま、ブルーはジョミーに神社の裏に連れて行かれた。
「ジョミー、どうかしたのかい?」
「……ブルー」
ジョミーは足を止め、振り返ったかと思うと突然、ブルーを抱き締めてきた。
「ジョ…………ん」
同時に唇に口づけられ、ブルーは驚きながら、何も問えなくなった。
雨に濡れた身体に、ジョミーのぬくもりはひどく心地よかった。
しかし背中に回されたジョミーの手がブルーの帯を解こうと動いて、さらにブルーは驚いた。
『…………!?』
ジョミーとブルーは既にそういった関係ではあった。
身体だってもう何度も重ねていた。大雨のせいで他に人影はない。
とはいえこんな外で、おまけに神社の裏でなんて、この状況はブルーの許容範囲を超えていた。
ジョミーの胸に手をつき、キスを解いて、ブルーは血相を変えて怒った。
「何を考えているんだ君は!」
「ごめんなさい」
「謝るよりまずこの手を……っ!」
ブルーの苦情などどこへやら、そう言う間にもジョミーの手は帯を解こうと動き続け、同時にブルーの身体を引き寄せた。
浴衣越しに触れ合ったジョミー自身は既に熱く、ブルーの太腿に押しつけられた。
「き、君はまさか本気でこんな所で……!?」
「ごめん、ブルー。でもブルーがあんまり色っぽいから───」
「自分の節操無さを人のせいにするのか!? ……って、もうやめ───……っ、ふ……」
言い争いを続ける間もジョミーの手は止まらなかった。
ブルーの抗議が途切れがちになったのは、悔しいがそう時間が経った頃ではなかった───。
小一時間も過ぎた頃、激しかった雨もようやく上がり、空には雨雲が早足で流れていく様が見えた。
しかしジョミーとブルーの二人は、今だ神社で足止めをくったままだった。
「……それで?」
「それでって……」
「まさか君は、浴衣の着付けも知らないまま、僕の浴衣を脱がせたんじゃないだろうね……?」
「──────」
そのまさか、である。
ブルーの帯を解いて、浴衣を脱がせて、抱きあったまではよかった。
雨もきれいに止み、いざ帰ろうという時になって大問題が発生した。
それぞれ母親に浴衣を着せてもらっていたジョミーもブルーも、着付けというものを知らなかったのだ。
ジョミーの方は浴衣を脱がないままだったが、ブルーはジョミーに帯も浴衣もはだけられ……といった状態だった。
それから神社の裏で、また一騒動が始まった。
「確かここをこうやって……」
「えーと、こうでいいのかな」
四苦八苦しながら、数時間前に目にした着付けの手順を思い出しながら、二人がかりでもう一度ブルーの浴衣を整え
た。
しかし最後の帯がまた難問だった。
後ろで結ぶため、ブルーは仕方なくジョミーに任せたのだが、はっきりいってジョミーは帯の結び方などさっぱりわから
なかった。
「……よし、と。出来たー!!」
10分ほど四苦八苦した末に、ジョミーは帯を結び終えた。
「出来たよブルー。これで帰れるね」
「ちょっと待ってくれ……」
後ろ手に帯を触って確認していたブルーの眉が、険しく寄せられた。
「ジョミー……これはもしかして、リボン結びじゃないのか……?」
「うん、そうだよ」
ブルーの腰で結ばれていたのは、先ほどまでの優雅な角出し結びではなく、かなり強引に結ばれたリボン結びだった。
「子供の兵児帯じゃあるまいし、帯をリボン結びにするなんてそんな着方があるもんか!」
「だって僕、それしか結べないし───」
あっけらかんとジョミーは言った。
「大丈夫。おばさんに見つかる前に脱いじゃえば、絶対大丈夫!」
天真爛漫にそう言いきるジョミーに、ブルーの怒りはまたも上昇した。
「……もうジョミーとは一緒にお祭りなんか来ないからな」
「えええっ! そんな……酷いよブルー!」
ジョミーがあまりに嘆き悲しむので、ちょっとだけほだされたブルーは妥協案を出した。
「じゃあお祭りには一緒に来てもいいけど、浴衣はもう着ないから」
「えええーっ!! それこそ酷いよ、ブルー!」
「酷いのは君だろう!」
二人の言い争いは、それからもしばらく続いた。
まったくもって一番の迷惑をこうむったのは、雨宿りをされた神社の神様だった───。
<END>
本家本元、基本のジョミブルです。
しかし私の妄想がシンやら子ジョミに飛び火したせいか、なかなかジョミーで思いつかなくて…。
そしたら妄想仲間のA様が、「突然の雨に濡れて張り付く浴衣ブルーの色香にパニクるジョミは如何でしょう?」と素晴らしい妄想を下さいました。
雨に濡れた浴衣なんて、なんて素敵…!(*^^*)
A様、それで書く事をオッケーして下さってありがとうございますv
ちなみにA様の名誉のためにも追記しておきますが、A様の妄想はもうちょっと健全でした…(^^;)
やはりジョミーは一生懸命なのがジョミーらしいと思います。
まだまだシンのようなしたたかさはなく、かといって子ジョミほど純粋という訳でもなく。
そして我慢できないのがやはりジョミーのいいところでしょう。(ホントか…?)
ちなみにジョミ子ブルもちらっと考えたのですが、屋台のハシゴしまくりで妄想が健全なまま終わってしまいました…。
でも子ブル的にはシンよりもジョミーや子ジョミの方が、身の危険は少ないかと思います(^^;)
本当はこのジョミブルで、夏祭り小説はおしまいの予定でした。
でも妄想の種は尽きず…。
次はラストのシンブル3です。
ワルイムシン、リターンズです。
2008.08.14
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