exceeding thousand nights ・ 6



   その日もいつも通り、ブルーはリオに伴われ、午前中のヒルマンの講義を終えてから昼食をとった。
   午後のサイオンの訓練が始まるまでの時間、いつも一緒にいるリオは何か用があるらしく、すぐに戻りますと言って席を外
  していた。
   珍しく一人になったブルーは、シャングリラ船内の広場で休息をとっていた。
   緑の芝生が一面に植えられたそこは、見上げる視線の先にシャングリラの壁面さえなければ、船の中だという事を忘れて
  しまいそうだった。
   宇宙船の中とはいえ充分な広さのあるそこには、他にも十数人の人がいたが、みなそれぞれに寛ぎ、ブルーの周囲には
  誰もいなかった。
   芝生に直接座り込んでいたブルーは、ふと、すぐ目の前の芝の上に木の葉が一枚落ちているのに目をとめた。
   この広場には芝生だけでなく、様々な樹木も植えられていた。
   そこから舞い落ちたのだろうまだ緑色をしたそれは、青々とした芝生の上に落ちていた。
   ブルーは思いついて、目の前のそれを凝視した。
   サイオンの訓練は毎日続けてはいたけれど、相変わらずブルーのそれは目覚めなかった。
   けれどシンの言葉だけを拠り所にして、ブルーは諦めず、努力を続けていた。
  『……動け』
   ブルーはサイオンで木の葉を動かしてみようと念じた。
  『動け───!』
   けれどどれだけ念じても、木の葉は一ミリたりとも動いてくれなかった。
   目の前の木の葉に意識を集中させていたブルーは、だから自らに近づいてくる気配に気づかなかった。
  「わ……っ!?」
   突然身体を後ろに引き寄せられて、ブルーは驚きに声を上げてしまった。
   ブルーの胸と腰に回された二本の腕は、強い力でブルーを芝生から引き剥がした。
   いったい誰なのか、振り向いて確認しようとしたブルーの耳元に、聞き覚えのある低い声が響いた。
  「何をしているんだい?」
  「ソルジャー!?」
   身体を捻って無理やり後ろを振り向くと、ブルーを抱きしめていたのはソルジャー・シンだった。
   すぐ至近距離にシンの整った面ざしがあった。
  「ソルジャーこそ、どうしてここに……」
  「君が一度も訪ねてきてくれないから、どうしているかと思ってね」
  「そんな……」
   シンの声は笑いを帯びていたが、ブルーはどう返事をしていいか分からず恐縮してしまった。
   ブルーがリオとともに青の間を訪れてから、既に一週間が経っていた。
   避けていた訳ではない。シンにはいつでも顔を出してくれと言われはしたけれど、それでもやはりブルーにとって青の間の
  敷居は高かった。
  「それで、君は何をしていたの? 随分集中していたけど」
  「サイオンの、訓練……です」
  「ああ……」
   ブルーの言葉に、シンも芝の上の木の葉に気づいた。
  「頑張っているようだね」
  「でも、まだ全然ダメです。木の葉一枚、動かせなくて」
  「そうか……」
   心なしか声を沈ませてブルーはつぶやいた。
   そんなブルーの様子に、シンは抱きしめていた腕の力を強めた。
  「見ていてごらん、ブルー」
   シンはブルーを抱いた片手はそのまま、もう片手をブルーの目の前に差し出した。
   その指先が───身体が青い光に包まれたかと思うと、木の葉がふわりと宙に浮きあがった。
  「わぁ……!!」
   あれほどブルーが苦労していたのが嘘のように、それは簡単に、ブルーの目の前でくるくるとその身を踊らせた。
   まるでブルーに挨拶をしているようだった。
   その木の葉が更に上空に舞い上がったと同時に、広場内の木々がざわめき、風もないのに幾多の木の葉が舞い上
  がった。
   驚きに目を見張るブルーを腕に抱いたまま、シンの身体から青い光が消えた。 
   そして頭上からひらひらと───数多の木の葉が二人の上に舞い降りてきた。
   それはまるで、雪のようにも見えた。
   立ち尽くしたまま、ブルーはそれに感嘆した。
  「すごい……!」
   以前、成人検査から助けられた時にも、シンのその力を目の当たりにはしていた。
   けれどまだブルーにはサイオンが魔法のようにも思えて、舞い落ちてくる木の葉を陶然と見つめた。
  「今はこうしてサイオンを自由に操れるけれど、僕も最初はてんでダメだったよ」
  「ソルジャーが……ですか?」
   もう驚く事などないと思っていたのに、シンの言葉にブルーは振り返った。
   再び至近距離でシンの翡翠色の瞳と視線が合って、ブルーの鼓動はどうした事か高鳴った。
  「そう。もう100年以上前になる。僕が初めてこの船に来た時、まだミュウとして完全に目覚めてはいなかった」
   シンは昔を思いだしたのか、楽しそうにブルーに話した。
  「サイオンのパワーだけは誰よりも強かったが、コントロールというものが苦手でね。おまけにまったく思念波も防壁できな
  くて……。僕の思念も心も何もかも、この船の全員に筒抜けだった」
   ブルーはおかしくなって笑った。
   ソルジャー・シンにもそんな頃があったなんて、意外だった。
  「君とは正反対だ」
  「!」
   シンが腕の力を強めて、ブルーの小さな身体を背後から抱き締めなおした。
  「君はサイオンこそまだ使えないが、君の心は遮断されている。こうしていても、君の心の声は少しも聞こえない」
  「そう……なんですか」
   リオからもそう言われていたけれど、その事にブルーは心底安堵した。
   そして、今さらだったがシンのぬくもりやその身体の逞しさにブルーは気づいた。
   生きてきた年月が違うのだから仕方ないのかもしれないけれど、同性なのにまったく及びもつかない自分の小ささを感じ
  るとともに、なぜか戸惑いと気恥ずかしさを感じた。ブルーはどうしていいか分からず、シンから視線を外した。
   それがシンに伝わっていないならよかったと、心底思った。
  「あの……ソルジャー」
  「何? ブルー」
  「ソルジャーはどうやってこのシャングリラへやって来たんですか?」
  「……!」
   何気ない質問だった。
   居たたまれなさを少しでも消したくて、ふと浮かんだ疑問をブルーは口にしただけだった。
   けれどシンの返事はなかった。
  「ソルジャー?」
   返事がない事を訝しんだブルーは、もう一度振り向いてシンを見ようとした。
   けれどギュッと、さらに強い力で抱きしめられて、そうする事はかなわなかった。
   代わりにようやく返事があった。
  「……君と、同じだよ」
  「同じ?」
  「僕も君のように───先代の長に成人検査を助けられて、ここにやって来たんだ」
  「先代の、長……」
   それはブルーが初めて知る事実だった。
   ミュウの長は、ソルジャー・シン一人だと思っていた。
   思い返せばヒルマンから教えられたミュウの歴史は400年以上あった。
   シンの年齢を考えれば、確かに過去に他のソルジャーがいても不思議ではなかった。 
  「どんな人ですか? 今はどうしているの?」
   ミュウは人間の3倍ほどの寿命があるというから、生きているかもしれない。けれど亡くなっている可能性もあった。
   それはブルーにとって純粋な疑問だった。
  「……彼は、生きているよ」
   ブルーの問いに、シンはどこか苦しげにつぶやいた。
   そして、抱きしめていたブルーのプラチナブロンドの髪に、そっと口づけた。
  「ソルジャー……?」
   ついさっきまで楽しそうに話をしていたのに、どことなく様子を変えたシンが、ブルーは不思議だった。
   もしかして何か、聞いてはいけない事を聞いてしまったのだろうか。
  「あの───」
  『ブルー!』
   シンに問おうとしたブルーの声は、唐突な思念波に遮られた。
   視線を前に向けると、そこにはこちらに歩いてくるリオの姿があった。
  「リオ……」
  『お待たせしました、ブルー』
   リオは二人のすぐ側まで近付くと、その歩みを止めた。
  『ソルジャーもいらしていたんですか。もうすぐ午後の訓練が始まるので、ブルーをお借りしてもよろしいでしょうか』
  「ああ」
   リオに促されて、ようやくシンはブルーを抱きしめている腕を離した。
   ブルーも慌ててシンから一歩離れた。
  「邪魔をしてしまったね、ブルー」
  「いえ、そんな事ないです。ソルジャーのサイオンを見せてもらえて、嬉しかったです」
   シンのせいで休憩どころではなかったけれど、ブルーは首を横に振った。
  「では行きたまえ。無理だけはしないように」
   シンはブルーの髪を一撫ですると、微笑んで立ち去った。
   その様子は、いつものシンだった。
   遠ざかっていくシンの金色の髪と、緋色のマント。鮮やかなその姿だけでなく、シンの持つ強さそのものにブルーは憧れ
  た。
  『行きましょう、ブルー』
  「あ、はい……」
   その後ろ姿を憧憬のまなざしで見ていたブルーは、リオに呼ばれてその視線を外した。
   浮かんだ様々な想いを胸の片隅に押しやり、サイオンの訓練室に向かった。




なんか予定とちょっと違う…。
プロットを読み直すと、この6は「ブルーが来ないのでシンから訪ねる。休憩中、サイオンを使おうとするブルー。上手くいかな
い。サイオンの訓練を見せるシン。シン、昔の自分話す。いろいろたずねられて答えないシン。行っちゃう」とありました。
なのに書き上がったのは、お膝抱っこ……あれえ〜?(−−;)>

えー、実は告白いたしますと、私はブルーファンですがソルジャー・シンも好きです。
いやまあそれは日記にも何度も書いてるし今更ではあるのですが。
シンの顔とか性格とかの他に、なんだか妙にふ……太股が好きです(−−;)
攻の太腿に目が行ってどーすんの。普通受でしょと思いはしますが、シンに関してはなんだか〜……。
だから、シンが子ブルーを膝に抱っこなんかしてると、うふふvと思います。
思いついでに書いてみました。

なんというかテラというジャンルは、女性化といいショタといい、私が今まで敢えて近寄らなかった壁をいくつも越えさせてくれま
した。
でも14歳じゃあもうショタとはいえないかな?
今まで縁がなかったからよく分かりませんが、いえない方がいいなあ(^^;)


2008.04.05



抱っこは修正しました。別にヤバいシーンだった訳ではないのですが(^^;)
ある意味では素っ気なくなってしまったでしょうか。
書いた時は萌えに任せて楽しく書けたのですが、やっぱりちょっと違うかな〜とだんだん思っちゃって。
萌えや妄想は二次創作の原動力ですが、だからといっていきなり何を書いてもいい訳ではないし。
上記の2つの他に、文章力とか冷静さもちゃんと持たないといけないんでしょうけど、萌えが激しいと、それを忘れてしまったりして
いけませんね〜(^^;)
精進します!


2008.06.15





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