exceeding thousand nights ・64



   テラズ・ナンバー5を破壊してから約1ヶ月後、シンはついにシャングリラで旅立つ事を決意した。
   惑星アルテメシアの平定や物資の補給などに多少の時間は費やしたが、ミュウ全員がその目的のために率先して働いた。
   アルテメシアを離れる事に寂しさを感じる者もあったが、それよりもようやく憧れ続けた地球へ旅立てる喜びの方がはるかに大き
  かった。
   そしていよいよ出発するというその日、旅立つ前にシンは皆に呼びかけた。
  「ミュウの仲間たちよ……長い時を待たせてすまなかった」
   シャングリラのブリッジの中央に立ち、すべてのミュウに対して語りかけた。
  「地の底で100年という長い時間を君たちに強いた。その間に多くの者が地球に焦がれながら死んで行った。無念に思った者もい
  るだろう。ミュウに生まれた事に涙した者もいるだろう。……心からすまないと思っている」
   シンやフィシスがソルジャー・ブルーを、トォニィやユウイがカリナを想うように、その言葉に誰もが大切な者たちを思い出していた。
  「けれど、僕らは決して地球へ向かう事を諦めない。皆の……そしてソルジャー・ブルーの願いを忘れはしない」
   シンの言葉にシャングリラ中のミュウが耳を傾けていた。
   ブリッジでも、ブリッジ勤務の者たち以外にも静かに聞き入る面々があった。
   ブルー、トォニィ、アルテラ、タキオン、タージオン、フィシス、リオ、ハーレイを始めとする長老たち。
   すっかり身体の弱ったゼルも、今日だけはと自室から出てきていた。
   エラに支えられ、よろめきながらも立つゼルは子供のように泣いていた。
  「ついに地球へ旅立てるとは……。どんなにこの日を待った事か……!」
  「ゼル、しっかりして下さいな」
  「無用な心配じゃ、エラ。わしはまだまだ死にはせん!」
   頑固な老人の涙は、けれど周囲に微笑みをもたらした。
  「ソルジャー……」
   肩にレインを乗せたブルーは、真っ直ぐシンを見つめていた。
   するとレインがブルーに話しかけてきた。
  「ヨカッタネ、ぶるー。ボクタチ、てらニイクンダネ」
  「そうだよ、レイン」
   レインに弾む声で答えたブルーは再びシンを見た。
   ブリッジに立つシンは堂々と、ミュウの長として立っていた。
   ブルーはシンを「ソルジャー」からは解放できなかった。
   けれど今のシンは本心からミュウの皆を導き、そして共に歩もうとしていた。そうブルーには感じられた。
   だからきっとこれでいいのだと、誇らしい気持ちでブルーはシンを見つめた。
   そんなブルーの視線に気がついたシンが、振り返ってブルーに手を差し出した。
  「ブルー、おいで」
  「えっ?」
   戸惑うブルーの腕を引き、シンはブルーをブリッジの中央───自らの隣へと引き寄せた。
   スクリーンでブリッジの様子を見ていた者たちすべての前に、シンの隣に立つブルーの姿が映し出された。
  「ソルジャー、僕は……」
   戸惑うブルーに、シンは優しく言った。
  「僕の隣にいてくれ、ブルー」
  「はい……!」 
   シンの言葉に、ブルーは嬉しそうに返事をした。
   二人は並んでシャングリラのブリッジに立った。
  「新たな仲間を迎え入れ、時は満ちた。我々は今日、地球へ出発する───」
   ブルーの背に片手を回したまま、シンは再びミュウの仲間たちに向かって語りかけた。
  「地球への道のりはまだ遠い。アルテメシアを制圧したとはいえ、いや……だからこそ人類、そしてグランド・マザーは簡単には我々
  を地球へ辿り着かせはしないだろう」
   シンは力強い声で語り続けた。
  「けれどもだからこそ我々は強い意志を持って臨まねばならない。すべての者の力を合わせれば、必ず道は開かれるだろう」
   ブルーも、そしてすべてのミュウがその声に聞き入った。
  「すべてのミュウの力を貸してほしい。そして我らが故郷……それがどれだけ遠くとも、困難な道のりであろうとも、我々は地球を目指
  すのだ」
   シンは、ブルーに触れてはいないもう片手を高々と突き上げた。
  「共に行こう───地球へ!」
   シンは高らかに宣言した。
   それに呼応するように、シャングリラ中から喜びの声が上がった。
   ブルーはすべてのミュウの歓喜の声を聞きながら、自らの胸の内からも喜びが湧き上がって来るのを感じていた。
   それはきっと、シンの隣に立っているから───。
   ただ連れて行かれるのではなく、シンと共に歩めるから───きっとソルジャー・ブルーもそれこそを望んでいた筈だった。
   自分に注がれるシンの深い翡翠色の瞳を見つめながら、ブルーは心からの笑顔を返した。


   そしてこの日、ついにシャングリラは惑星アルテメシアを旅立ち、歩み出した。
   遥か遠い───けれども確かな地球への道を。



                                                            <END>



長らくのお付き合い、ありがとうございました!
時間はかかりましたが、おかげさまでこうして完結させる事ができました。
この後、シンが率いるミュウは地球をめざし、もちろん地球にたどり着き、グランド・マザーを倒しS・D体制を打破し、ミュウと人間が共存する世界を築いていきます。
私が書きたかったのはシンの決意でアルテメシアを出発するまでだったので、この話はここでおしまいです。
もしお気が向かれましたら、一言でも感想など聞かせていただけたら嬉しいです。

お恥ずかしいですが、長い話をきちんと書き終えたのってこれが初めてかもしれません。
重ね重ね、読んで下さった方には感謝いたします。
ありがとうございました〜!m(__)m



2010.8.23





                          小説のページに戻る