ドラテラ・3
ジョミーはこの土曜日もテレビ局を訪れた。
何度も通う内に、最近は緊張する事もなくなっていた。
ドラマ撮影用の衣装が完成したので、衣装合わせに来てくれという連絡を受けたからだった。
ジョミーだけでなく他の出演者も集まるとの事。
もしかしてまたブルーと会えるだろうかと、ジョミーは密かに期待しながらテレビ局に向かった。
「わっ!」
「痛っ!」
テレビ局内の指定された部屋の出入り口で、ジョミーは一人の少年とぶつかった。
お互いの肩と肩がぶつかったのだが、反射的にジョミーは謝った。
「ごめん! あれ、君……?」
謝りながらジョミーは相手の顔を見つめた。
ぶつかったのはジョミーより何歳か年下らしい、一人の黒髪の少年だった。
気の強そうな瞳をした少年は、ジョミーを見て驚いたような顔をしていた。
先日の顔合わせでたくさんの出演者が集まっていたが、そこで目の前の少年の顔を見たような記憶が薄らとだがあった。
ジョミーの席からは遠かったが、名前は確か───とジョミーは記憶を辿った。
「……もしかして、シロエ君だっけ?」
少年からの返事はない。
それどころか酷くキツい眼差しで睨まれた。
結局少年はジョミーに何の返事もしないまま、プイと顔を逸らしてその場を立ち去った。
「何だよあいつ……ちゃんと謝ったのに」
大変印象の悪いその後ろ姿を見送った後、ジョミーは気分を切り替えて室内に歩を進めた。
一時間ほど後、衣装合わせの大部屋から大声が上がった。
「なっ……なんですかこれは!?」
「何って見て分からない? マントよ」
慌てるジョミーに冷静に返事をしてくれるのは、採寸の時にも会った美術スタッフの女性だった。
「そんなのは分かります! そうじゃなくて、これ赤マントじゃないですか!」
「そうよ。主人公なんだから、ある意味当然でしょ?」
ミュウ率いるソルジャー・シンが着るソルジャー服。
どんなデザインなのかと思いきや、原作のコミックスで主人公が着ていた服とは全然違った。
まずは黒のインナーを上下に着て、その上に金糸をふんだんにあしらった曲線のフォルムが美しい衣装。デザインは少しチュニックに似ていた。
そして手には手袋、足にはロングブーツ。
ここまではジョミーも許容範囲だった。
しかし最後に背中にマントを羽織らされて絶句した。
そのマントは床まで付く長さで、おまけに色が赤。
赤も赤、真赤だった。
「ホントにこれ? これで撮影するんですか?」
「何よ、私たちが作った衣装に文句があるって言うの?」
「そうじゃなくて……」
文句があるのではなく、ただただ恥ずかしいのだ。
SF作品であるのだから、多少は変な───もとい特徴のある服を着せられる事になるのかなとは思っていた。
けれどまさか赤マントを着る事になるとは思っていなかった。
それはジョミーの想像の範疇を超えていた。
「今から変えられませんか?」
「そんなの無理に決まってるじゃないの」
「せめてこのマントの色だけでも……!」
「何の騒ぎですの?」
ジョミーが女性スタッフに泣きついていると、衝立の向こうから声がかかった。
返事をする前に、衝立をずらして一人の女性が顔を出した。
衣装合わせに使っているこの大部屋はたくさんの衝立で完全に個室化していた。
人のざわめきで部屋の中にはたくさんの人がいるだろうとは思っていたが、隣が誰なのかまでは分かっていなかった。
顔を見せたのはフィシスだった。
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