ドラテラ・5



 

 監督のこだわりのせいだけでなく、今日もジョミーはNGの連発だった。ぶっちぎりの多さだった。
 相変わらず台詞は覚えてきてはいるのだけれど、いざ本番になるとそれがすんなりと出て来ない事が多かった。
「はい、スタート」
 もう何度目かの監督の撮影開始の声。
 そしてもう何度も演じたシーンを、ジョミーとブルーの二人はまた演じ始めた。
「おかえり、ジョミー」
 ジョミーの背中にブルーが手を回し、まるで抱き寄せられているような至近距離でブルーが台詞を口にした。
『うわあぁ、近い近い!』
 今日もう何度も至近距離からブルーの整った顔を拝んでいるが、接近する度にジョミーはドキドキした。
 男だけれど美形は迫力があった。
 それでも何とかジョミーは次の台詞を繋げた。
「ソルジャー、今のは一体……?」
「あれは僕の記憶だ。君にミュウがどんな扱いを受けてきたのか、見せておきたかったんだ」
「どうしてあんなひどい事が……」
「僕はもうすぐ燃え尽きる」
 そう言うブルーは疲れ切った様子で、どこか苦しそうだった。
「この先は君が彼らを導き───地球ののどもとに歩み寄り、僕の思いを伝えてくれ」
「無茶だ……! 僕にあなたの代わりなんて」
 シリアスなシーンだが、ジョミーとブルーは今、スタジオの壁一面にかけられた青い布の前で演技をしていた。
 後で背景には宇宙を合成するのだろう。
 またブルーが着ているソルジャー服のマントがひるがえるように、少し距離を置いた所で大型の扇風機が稼働して二人に風を送っていた。
 ジョミーは笑い出したくなるような、おかしな気分だったが、ブルーの演技はさすがだった。
「周りを見たまえ。君は自分でここまで昇った」
 そう言って手を広げるブルー。
 その周囲にはまるで宇宙空間が感じられるようだった。
「君はどんなミュウより強い力がある」
『さすがブルーさん……!』
「……ジョミー?」
「あっ!」
 しかしブルーに見とれてしまったおかげで、次の台詞を言うのをまた忘れてしまったジョミーだった。
 そんな撮影現場の様子を、プロデューサーはスタジオの隅からじっと見ていた。



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