おにいちゃんといっしょ・おまけ 2
〜雷様の好物〜

   

   夏ももう終わりだというのに、このところの空模様は不安定な日が続いていた。
   今日はフレイアは残業で帰宅が遅いという連絡があり、ブルーはシンの家で夕食を一緒にとった後も、自宅には戻らな
  かった。

   けれどフレイアの残業がなくとも、きっとブルーはそのままシン家に居座っていた事だろう。
   その理由は……
  「きゃあ!!」
   カーテンを閉めていても、その隙間から空に稲妻が走る様子が分かった。
   と、同時に小さな身体がシンにしがみついてきた。
   数秒おいてどこか遠くから、落雷したのだろう大きな音が響いてきた。
  「大丈夫だよ、ブルー」
  「うん……
   シンの言葉に頷きはするが、ブルーは決して離れようとはしない。
   ブルーは雷が大嫌いだった。
   夕食が終わって最初は寛いでいたのに、遠雷の音が聞こえてきただけでそわそわとしだした。
   そして雷が光るに至ってからはシンに抱きついたまま、決して離れようとはしなかった。
   シンはブルーの小さな身体を膝に乗せたまま、シンの胸にぎゅっとしがみついてくるブルーの温もりを堪能していた。
   シンの腕の中で、ブルーは涙目になって訴えた。
  「もう、雷なんてやだ……。なんで落ちてきたりするの?」
   雷が起こるのは積乱雲の活発な活動、寒冷前線の通過など様々な要因があるが、それには触れずにシンはブルーの頭
  を撫でながら答えた。

  「雷様は子供のお臍が欲しくて、あんな風に雷を落とすんだよ」
  「おへそ……?」
  「そう、 雷様は可愛い子のお臍が大好物なんだって」
  「た、食べちゃうの……!?」
   ブルーは真っ青になった。
   雷が起きると気温が急激に下がるため、子供がお腹を冷やさないよう服を着るのを促すために、昔の人はそんな話を作っ
  たのだと思われるが、シンはそこまでは話さなかった。

  「どこかに美味しそうなお臍はないかって、ああして探しているんだよ。だからブルー、しっかりお臍を隠しておかないとね」
   シンがそう言い終えた次の瞬間、また稲妻が光った。そして激しい落雷の音。
  「……!!」
   恐怖に声もなく叫んだブルーは、またもきゅうっとシンにしがみついた。
   雷に臍を取られないようにと、さらにシンに小さな身体を寄せてきた。
   そんな無邪気な素直さも、可愛いとシンは心から思った。
  「さっきより音が近いな……。こっちに近づいて来ているみたいだ」
   それは嘘ではなかった。外の雨音もますます激しさを増していた。
  シンの言葉に、ブルーは震えながら小さな腕をシンの背中に回して叫んだ。
  「もう、やだ……っ!  雷なんか大っ嫌い!!」
  「僕が一緒にいるから、ブルー」
   シンの胸で半泣きのブルーの髪に、シンは軽く唇で触れた。
   腕の中に軽くおさまってしまう小さなブルーをしっかりと抱きしめ返した。
   けれどシンは内心、一晩中でもいっそ毎日でも、落雷があればいいなあと不謹慎な事を考えていた。




拍手の再録です。
頻繁に発生する雷に、少しだけ妄想です。


2011.6.18(2008.8.31)




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