おにいちゃんといっしょ・19



   12月に入ったばかりの日曜日、シンとブルーは連れ立って近所のスーパーへとやって来た。
   いつものごとくマリアとフレイアに、夕食の食材の買い物を頼まれたからだ。
   今日の夕食は鍋の予定で、シン家で二家族一緒に食べる予定だった。
   最近流行っているというトマト鍋を作ろうと意気込む二人に頼まれて、足りない食材を買いに来たのだった。
   シンはカゴを手にして店内に入ると、ポケットに入れていたメモを取り出して読み上げた。
   それはフレイアが書いてよこした買い物メモだった。
  「ホールトマト缶1個、ウィンナー、ほうれん草、チーズ……」
  「はい、ほうれん草」
   どこのスーパーでも概ねそうだろうが、出入り口からまず青果売り場、鮮魚売り場、食肉売り場へと進むようになっている。
   そして店内の中央に、乾物やお菓子や生活用品などが置かれている。
   ブルーはまず手近な商品棚に並べられていたほうれん草を見つけ、新鮮そうな一束をカゴの中へ入れた。
  「それから……好きなきのこ、好きな魚介類、好きな野菜か」
   フレイアのメモは大層アバウトだった。
   シン家にやってきて料理をする時も「いい加減が良い加減」と言いながら作っている。
   それでも美味しい料理を作り上げてしまうのだから、それもあながち嘘ではないだろうと思われた。
  「ブルー、何がいい?」
  「僕、エノキダケとエリンギ入れたい」
   どちらも歯応えのある食感がブルーは大好きだった。
  「いいよ。魚介類は何がいい?」
  「うーんとね……エビとホタテ」
  「了解」
   シンとブルーはきのこ類の置かれている棚に歩み寄り、エノキダケとエリンギをカゴに入れた。
   鮮魚売り場に行く前に、シンはメモを見なおした。
  「あとは好きな野菜か……。ブルー、何か入れたいものがある?」
  「ジョミーは?」
   買うと決めたのはブルーの好物ばかりだった。
   シンは甘いもの以外ほとんど好き嫌いがないけれど、ブルーはシンの好物も買っていきたかった。
  「そうだなあ……僕は白菜がいいかな」
   鍋にはやはり白菜だろうとシンは思いついたまま口にしたが、言ってからしまったと思った。
   シンの言葉を聞くや否や、ブルーはタタタタッと棚に駆け寄ると、大きな白菜を丸ごと一個抱えて戻って来た。
  「白菜、重いよ? カゴに入れたらいい」
  「大丈夫! これ僕が持つね」
   ブルーは白菜を抱えたまま、歩き出した。
   シンもその後に続き、鮮魚売り場でエビとホタテを、そして缶詰売り場でホールトマト缶をカゴに入れた。
   ブルーは白菜で手が塞がってしまったので、その後もすっとシンが商品をカゴに入れていった。
   10分ほどで買う予定の商品はすべてカゴの中にそろった。
   そして二人がレジへと向かうと、その手前に先週来た時にはなかった特設コーナーが設けられていた。
   小さなクリスマスツリーが飾られ、その周囲にはお菓子が山ほど積まれていた。
   そういえば店内のあちらこちらにも、既にクリスマスを意識した飾り付けがされていた。
   ツリーの周囲の四面には、まるでツリーを守るようにクリスマスブーツが並べてあった。
   クリスマスブーツとはサンタの履いているだろうブーツを模した物で、中にお菓子がたくさん入っていた。
   それを眺めながらシンは言った。
  「へえ、最近は色んな色があるんだね」
   クリスマスブーツといえば赤だろうとシンは記憶していたが、目の前にあるのは様々な色をしていた。
   赤、ピンク、水色、緑、そして銀の五色もあった。
   けれど見慣れた赤はともかく、ピンク、水色、緑はちょっとおかしな感じがした。
   銀はツリーのオーメントが側で輝いているせいか、そんな違和感は感じられなかった。
  「行こうか、ブルー」
  「うん……」
   シンはブルーを促してレジへと向かった。
   ブルーはシンに返事こそして歩きだしたが、その視線はクリスマスブーツから離れなかった。
   どうやらクリスマスブーツ一杯に詰まったお菓子が気になるらしかった。
   シンは苦笑して、足を止めた。
  「ジョミー?」
   前を歩いていたシンが急に足を止めたので、ブルーは不思議そうにシンを見上げてきた。
   シンは微笑みながらブルーに言った。
  「クリスマスブーツ、買っていこうか?」
  「え、いいの?」
   驚いたのか、ぱちぱちとブルーは紅い瞳を瞬かせた。
  「いいよ。どれでもブルーが好きなのを買っていこう」
   シンは言いながら、ブルーの手から白菜をとってカゴに入れた。
  「ほら、早く持っておいで」
  「ありがとう、ジョミー!」
   ブルーは満面の笑顔を見せて、お菓子売り場に駆けて行った。
   フレイアからは時々、あまりブルーに甘いものを買い与えないでねと言われていた。
   けれどブルーの笑顔を見たいがために、ついついお菓子を買ってしまうシンだった。
   ブルーは迷わず一つのブーツを手に取ると、それを抱きしめてシンの元へと戻って来た。
  「僕、これがいい!」
   ブルーが持ってきたのは緑色のクリスマスブーツだった。
   ブルーの事だからまずピンクは選ばないだろう。カッコイイという理由で水色か銀色を選ぶかとシンは予想したのだが、緑色
  のブーツとはシンには意外な選択に思えた。
  「その色でいいの?」
   シンが聞くと、ブルーはにっこりと笑って言った。
  「うん。だって、ジョミーとおんなじ色だもん!」
   シンの瞳は深い翡翠色をしていた。
   その色と同じ色だからこれがいいとブルーは言うのだ。
  「ブルー……!」
   その理由があまりに嬉しくて、シンは思わずブルーを引き寄せた。
  「わあ、ジョミー!?」
   驚いてじたばたともがくブルーを、シンはクリスマスブーツごと抱きしめた。
   白菜が入ったカゴの重みなど、ちっとも気にならないくらい嬉しかった。


   結局シンも自分用にとクリスマスブーツを一つ買って帰った。
   選んだのはもちろん、ブルーの瞳と同じ色の赤いクリスマスブーツだった。
   シンは中身は全部ブルーにあげるつもりだったが、家に帰ってブーツを開けたら、中身はクッキーやチョコレート菓子の他に
  ポテトチップなどの甘くないスナックも入っていた。
   だからおやつの時間にブルーはクッキーを、シンはポテトチップを食べた。
   フレイアは少々物言いたげな顔をしていたが、ブルーもシンも二人揃って嬉しそうなので、結局は何も言わずに二人にコーヒ
  ーとホットミルクを淹れてくれた。
   その晩、ブルーがお手伝いをしてマリアとフレイアが作ったトマト鍋もとても美味しかった。
   クリスマスまでにはまだ間があったが、皆であたたかな楽しい一時を過ごした。




四ヶ月ぶりにこちらの話を書きました。
妄想だけは毎日毎日してるんですけどね。
最近はクリスマスの飾りつけを見るたびに、「赤はブルーの色、緑はシン(ジョミー)の色〜v」とにやけていますv
萌えのタネはどこにでも転がっていますからねv


2009.12.13



                      小説のページに戻る                次に進む