おにいちゃんといっしょ・20



   クリスマスを来週に控えた土曜の午後、いつものごとくフレイアは隣のシン家を訪ねていた。
   シン家の主婦マリアは10年以上の友達で、休みの日にはお茶を飲みながらおしゃべりをしたり、一緒に料理をする仲だった。
   いつも朗らかなフレイアだったが、今日は少し様子が違っていた。
   マリアと話す口調はいつも通り饒舌なのだが、時折ため息をつくのだ。
  「どうしたの? フレイア」
   気になったマリアはフレイアに尋ねた。
   するとフレイアは、少し考えた後にため息の原因を教えてくれた。
   実はフレイアは悩んでいたのだ。
  「今年のクリスマスプレゼント、どうしようかと思って……」
  「ブルーちゃん、今年も教えてくれなかったの?」
   去年のクリスマス前、サンタクロースの存在を今でも信じているブルーはクリスマスプレゼントに何が欲しいかフレイアに教え
  てくれなかった。
   また今年もなのかとマリアは思ったのだ。
   けれどフレイアは首を横に振った。
  「ううん、教えてくれたわよ。でも、どうやってプレゼントしたらいいものか……」
  「ブルーちゃん、何が欲しいって言ったの?」
   よほど高い物なのか、それとも手に入れ辛いものなのか。
   尋ねながらいろいろ想像したマリアだったが、フレイアの答えは確かに想像外のものだった。
  「ジョミー君が大学に合格しますように、ですって」
  「あら……!」
   シンはマリアの一人息子だ。
   8歳違いのシンとブルーは、それでもとても仲が良かった。
   シンはブルーを可愛がり、ブルーもまたシンを慕っているのはもちろん知っていた。
   けれどクリスマスプレゼントにそんな事を言い出すとは、マリアも思いもしなかった。
   フレイアの困惑がマリアにもようやく理解できた。
  「ブルーちゃんにそう言ってもらってとっても嬉しいけど、それは困ったわねえ……」
  「そうなのよ。そんなのどうやってプレゼントしたらいいの?」
   フレイアはまたため息をついた。
  「それは初詣で神様にお願いして、サンタには別のものを頼んだらどうって言ったの。そうしたら神様にもお願いするけど、サン
  タさんにもお願いするんだってきかないのよ、あの子」
   その願い事をブルーから聞いてから、フレイアは困り果てていた。
  「それにサンタに頼まなくても、ジョミー君なら合格間違いなしだろうし」
  「そうだといいんだけど」
   シンの成績は進学校の高校でもトップ。
   某有名私立大学を受験する予定だったが、担任からも太鼓判を押されていた。
   受験生のくせに余裕綽々で、今日もブルーと一緒に近所に買い物に出かけていた。
   ブルーも相変わらずシンのために、毎日夜食作りを頑張っていた。
   話をしていたマリアはふとひらめいた。
  「そうだわ、フレイア。いっそ来年になってジョミーが合格した時、サンタさんのプレゼントが届いたわね、ってブルーちゃんに言え
  ばいいんじゃない?」
  「それでブルーは喜ぶだろうけど、でもそれじゃあ……」
   やはり我が子には何かプレゼントしたいのが親心だ。
   フレイアとマリアはそれからあれこれと話し合い、シンとブルーが家に帰って来てからもひそひそと相談を続けた。


   24日の夜に二家族で楽しいクリスマス・パーティーを催し、そして迎えた25日の朝───。
   目を覚ましたブルーは枕元にそれを見つけた。
  「あれ……?」
   サンタクロースにブルーが頼んだものは、品物ではない。
   だから今年は枕元に何もないと思っていたブルーだったが、予想に反して靴下に入った白い紙袋を見つけた。
   不思議に思いながら袋の中身を見てみると、中から小さな布袋が転がり出てきた。
  「お守り……?」
   それは近所の神社のお守りだった。
   どうしてそんな物が枕元にあるのか、ブルーは首を傾げた。
   するとそこに、既に起きて朝食の支度をしていたフレイアが手を止めてやって来た。
  「おはよう、ブルー。あら、それサンタさんからのプレゼント?」
  「おはようママ。でも僕、お守りなんか頼んでないのに……」
   フレイアはブルーの隣に座ると、どれどれとブルーの手元を覗きこんだ。
  「それ、学業成就のお守りね」
  「学業じょうじゅ?」
  「ええ。よく受験生が買うお守りよ。学業成就には受験合格って意味も含まれるの。きっとサンタさんがブルーのお願いを聞いて届
  けてくれたのね」
   そう聞いたブルーは、お守りを手にすっくと立ち上がった。
  「僕、ジョミーに渡してくる!」
   パジャマのままで外に飛び出そうとするブルーを、フレイアは慌てて止めた。
  「外は冷えてるんだから、ちゃんと着替えて行きなさい」
  「え〜」
  「ブルー」
  「は〜い……」
   一刻も早くシンにお守りを渡したいブルーは不満顔をしたが、フレイアに重ねて言われて急いで着替えを終えた。
  「いってきます!」
   寒さをものともせず朝食も食べずに、ブルーはお守りを握りしめて家を飛び出して行った。
   その様子を見送りながら、フレイアはやれやれと肩をすくめた。
  「まったくあの子ったら……どこまでジョミー君が好きなのかしら」
   学業成就のお守りは、フレイアとマリアが散々相談した挙句、ようやく思いついたものだった。
   そして予想通り、ブルーにはそれをシンに渡しに行った。
   誰のためのプレゼントなのか疑問に思わなくもなかったが、ブルーの笑顔が見られたのでフレイアはよしとした。




今年もクリスマスネタだけはアップしたいと思ったんですが、ちょっと間に合いませんでした(−−;)
ちなみに24日の夜、ルキシュは秘書と一緒に子ブルの好きそうなケーキをやけ食いしたと思います。
そしてブルーからお守りを手渡されたシンは、とっても喜んだと思いますv


2009.12.26



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