おにいちゃんといっしょ・23



   今年はワールドカップの開催年だ。
   サッカーが大好きなシンには、ワールドカップが開催し、サッカーの番組が増えて嬉しい時期となった。
   日本チームに不安はあるが、やはり決勝リーグに進んでほしいと願っていた。
   遠い南米の地で日本チームが初戦を迎える日、シン家でも一騒動が持ち上がっていた。


  「ねえママ……」
  「ダメよ、ブルーはまだ小学生なんだから」
  「でも、僕もジョミーといっしょにサッカーが見たい」
  「ダメったらダメよ。そんな遅い時間まで起きているなんて……。それに明日だって学校があるでしょう?」
   シン家でいつものように二組の母子で夕食をとっている最中、その話は持ち上がった。
   今夜行われる日本VSカメルーン戦は、午後11過ぎの試合開始だ。
   それをシンが観ると聞いたブルーは、自分も一緒に観たいと言い出した。
   けれど試合を最後まで観ていたら、終了は日付をまたいで午前1時近くになってしまうだろう。
   小学五年生になったとはいえ、子供がそんな時間まで起きているなど、絶対にフレイアには許可できなかった。
   それでもブルーはどうしても諦めきれないらしく、フレイアに頼み続けた。
  「学校はちゃんと行くから」
  「無理よ。明日の朝、絶対に起きられなくなっちゃうわよ」
  「じゃあご飯の後、試合が始まるまで一度寝るから。それで起きて応援すればいいでしょう?」
  「ブルー……」
   なかなか諦めようとしないブルーに、フレイアも困ってしまった。
   ブルーはサッカーも大好きだが、何よりシンと一緒に日本チームを応援したいのだ。
   その気持ちは分かるのだが……フレイアは悩み始めた。
   そこへシンも口添えした。
  「おばさん、僕からもお願いします」
  「……仕方ないわねえ……」
   ブルーの熱意とシンの頼みに、とうとうフレイアの方が折れた。
  「ブルー、じゃあすぐに寝てね。試合が終わった後も早く寝るのよ?」
  「うん! ありがとう、ママ」
   フレイアの言葉に、ブルーは笑顔を綻ばせた。
   傍で聞いていたマリアも一安心した。
  「よかったわねえブルーちゃん」
  「うん!」
  「一緒に応援しようね、ブルー」
  「うんジョミー」
   マリアとシンに、ブルーは元気よく返事をした。
   フレイアだけは少々複雑な気持ちだった。


   そして、日本VSカメルーン戦は行われた。
   国民の半数以上が期待はしてなかったと思うが、日本はなんとか勝利を手にした。
   翌日からのテレビは、日本チームを褒め称える内容ばかりになった。
   リアルタイムでテレビ観戦していたシンも、内容に多少の不満はあれど、日本チームが勝った事は嬉しかった。
   けれどたった一人、ブルーはご機嫌斜めだった。
   昨夜は夕食を食べた後、すぐにシンの部屋のベッドでブルーは仮眠をとった。
   試合開始の直前になってシンが起こしに行ったのだが、ぐっすり眠ったブルーは起きなかったのだ。
   元々フレイアはブルーが深夜になっても起きている事には反対だったので、そのまま寝せておいてという話になった。
   試合はシンとフレイア、マリア、帰宅したウィリアムの4人だけで観たのだが、観ていた甲斐はあり、まさかの勝利を観る
  事が出来た。
   翌日の寝不足もなんのその、時にシンは口元が緩むのを抑えられなかった。
   けれどブルーのしょんぼりとした顔を見る度に、慌てて口元を引き締めた。
  「僕も応援したかったのに……」
   ニュースで日本チームの勝利が流れるたびに、ブルーは口をへの字に曲げた。
  「ごめんねブルー、起こしてあげればよかったね」
  「…………」
   そのあまりのがっくりした様子に、シンはどうしたものかと思案した。


   数日後の金曜日の夜、大学から帰宅したシンは見慣れない袋を持っていた。
   シンの帰りを待っていたブルーに、シンはそれを差し出した。
  「はいブルー」
  「これ、なあに?」
  「プレゼントだよ、開けてみて」
  「わあ……!」
   袋の中から出てきたのは───。
  「日本チームのユニフォームだ…!」
   “サムライブルー”と呼ばれている、鮮やかな青のユニフォームが出てきた。
   明日は日本チームの第二戦が行われる予定だった。
   試合開始時間は夕方なので、今度はブルーも一緒に見られるはずだが、シンは一日でも早くブルーを元気にしてあげた
  かった。
  「僕、着てみていい?」
  「もちろん」
   ブルーは大好きな青色のユニフォームを、早速着てみた。
  「わあ、日本チームと同じだあ。カッコイイ!」
  「うん、カッコいいよ、ブルー」
   本当は小柄なブルーは、青色のユニフォームを着ても可愛らしい印象なのだが、賢明なシンは黙っていた。
   もちろんサイズ違いの同じユニフォームを、シンも自分用に買ってきていた。
   それをブルーに見せながら、シンは言った。
  「明日、これを着て一緒に応援しよう」
  「ありがとうジョミー!!」
   ユニフォームを着たまま、ブルーは笑顔でシンに抱きついてきた。
   そんなブルーをシンはしっかりと抱きしめ返した。




先日からすずか様とワールドカップでシン子ブルの二人をあれこれ妄想しまして(^^)
我慢しようかと思ったのですが、やっぱり書きたくなって、約一時間で急遽書きあげました。
人間やればできるもんだ…。
これを書いてる時点では、まだ日本VSオランダ戦は始まってないのですが……。
子ブルの笑顔のためにも、頑張れニッポン!(^^)



2010.6.19




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