おにいちゃんといっしょ・28



   今年のブルーのクリスマスプレゼントは実にあっさりと決まった。
   先日シンとプラネタリウムに行ったせいか、ブルーはプラネタリウムを欲しがった。
   幸いにも家庭用の小型プラネタリウムが市販されているので、フレイアはこっそりとそれを買ってきた。
   去年のような苦労もなく、後は24日の深夜にブルーの枕元にプレゼントを置くだけ───と思っていたのだが、今年も思わぬ難
  関が待っていた。


  「ジョミー、サンタさんの好物はクッキーなんだって!!」
   明日は終業式という日、小学校から帰宅したブルーは頬を紅潮させてシン家にやってきた。
   ちなみにシンの大学は、とっくの昔に休みになっていた。
  「クッキー?」
  「うん! 友達に聞いたんだ。サンタさんはプレゼントを配るのに忙しくてお腹が減ってるから、クッキーと牛乳を枕元に置いておくと
  食べてくれるんだって」
   シンが子供の頃は、そんな話は聞いた事はなかった。
   ブルーの歳になるとサンタを信じてない子供もたくさんいるだろうが、まだ信じ続けている子供もいるらしかった。
   ブルーはシンのいる炬燵には入らず、着る毛布を着込んでから、キッチンにいたマリアの元に行った。
   マリアの元にも、ブルーのはしゃいだ声はとっくに届いていた。
  「僕、サンタさんにクッキー作りたい! マリアおばさん、教えてくれる?」
  「いいわよ。じゃあ材料は用意しておくから、明日ブルーちゃんが学校から帰ってきたら一緒に作りましょうね」
  「ありがとう、おばさん!」
   にっこりと笑顔になったブルーは、満足そうにそれからシンの隣に座った。


   翌日、終業式を終えて半日で帰宅したブルーは、早速マリアとともにシン家でクッキー作りを始めた。
   薄力粉をふるいにかけ、バターをボウルに入れて泡立て器ですり混ぜ───マリアに教わりながら、ブルーは頑張った。
   シンは2階の自室にいたのだが、2時間ほど経った頃、階下から香ばしい匂いが漂ってきた。
  「ブルー、どう?」
  「あ、ジョミー!」
   シンがキッチンに顔を出すと、キッチンのテーブルの網の上には、最初に焼き上がったクッキーがずらりと並べられ、冷まされて
  いた。
   甘いものは苦手なシンだったが、ブルーの作ったものならやはり食べたかった。
  「ブルー、一枚もらっていい?」
  「うん。ジョミーならいいよ」
   許しを得たシンは、クッキーを一枚つまむとパクリと口にした。
   ほのかに甘いクッキーは、シンにも美味しかった。
  「美味しいよ、ブルー」
  「よかったあ。じゃあサンタさんのためにたくさん焼くね」
   喜ぶブルーの言葉に、しかしシンはひっかかるものがあった。
  「たくさんって……10枚くらいでいいんじゃないの?」
  「だってサンタさん、お腹ペコペコかもしれないでしょ? だからたくさん食べてもらえるように、たくさんクッキー焼くんだ」
  「ブルーちゃん、クッキーたくさん用意するんだって言ってきかないのよ……」
   勇ましく話すブルーの背後では、マリアが苦笑していた。
   それからシンも手伝い、ブルーはクッキー作りに勤しみ続けた


   そして24日の深夜、シン家の扉を叩く者があった。
  「マリア、助けて……!」
  「待ってたわよ、フレイア」
   ブルーの枕元にプレゼントを置いた後、クッキーと牛乳を携えたフレイアがこっそりと訪ねてきた。
  「こんな量、私一人じゃとっても食べきれないのよ……!」
   見れば、ブルーがサンタクロースのために用意したクッキーは80枚はあった。そして牛乳は1000mlのものが1パック。
   とてもフレイア一人で食べきれる量ではなかった。
   もしもクッキーや牛乳が残っていたら、ブルーはひどく残念がるだろう。
   ブルーのためにを合言葉に、フレイアとシン家の3人はそれから真夜中のティータイムを開いた。


   翌朝、枕元にプレゼントを見つけ、クッキーと牛乳がすべてなくなっているのを見たブルーは大喜びだった。
   プレゼントの小型プラネタリウムを抱えて、早々にシン家にやってきた。
  「ジョミー、おはよう!」
  「おはよう、ブルー」
  「見て見て、サンタさんからのプレゼントだよ! クッキーも牛乳も、サンタさん全部食べてくれたんだよ!」
  「それはよかったね。ブルーが頑張って作ったクッキー、美味しかったんだろうね」
   喜んでプレゼントを見せるブルーにシンは笑顔で応えたが、不意にブルーが首を傾げた。
  「あれ? ジョミー、朝ご飯は?」
   大体朝のこの時間、シン家は朝食中なのだが、ブルーは待ち切れずにやって来てしまったのだ。
   けれどもシンも、マリアもウィリアムも、誰も朝食をとってはいなかった。
  「今朝はあんまりお腹が空いてなくてね……。皆で朝食はいいかって事にしたんだ」
  「どこか具合悪いの……?」
  「いや、元気だよ」
   シンの様子にいつもと違った様子はなく、すぐにブルーは安心した。
  「ママも今朝はダイエットするから、朝ご飯はいいって言うんだよ」
  「そう」
   それはそうだろうなあとシンは思った。
   自分達がそうであるように、フレイアもまだ昨夜食べた大量のクッキーを消化しきってないのだろう。
   しみじみと考え込んだシンに、ブルーは言った。
  「ねえ、ジョミー。このプラネタリウム、今夜ジョミーの部屋で見てもいい?」
  「ああ、いいよ。僕も一緒に見てもいい?」
  「うん!」
   シンに笑顔で応えたブルーは、それから箱を開けて小型のプラネタリウムを嬉しそうに見つめた。
   そして次に説明書を開き、歓声を上げた。
  「これ、部屋だけじゃなくてお風呂でも使えるんだって! ジョミー、お風呂も一緒に入ろう!」
  「…………」
   無邪気なブルーに、返事に詰まったシンだった。




うわああん、クリスマスはとっくに終わってしまった!
でも書きたかったので、アップしちゃいました〜。
皆さま、よいお年を!


2010.12.31




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