exceeding thousand nights ・16
シンの補佐をする事になったブルーだったが、まずはリオに付いて様々な事柄を教わる事となった。
ここ数ヶ月、ブルーに付き添っていたリオだが、もう長い間シンの補佐をしていた。
もっともブルーのサイオン啓発の訓練は続けられる事が既に決定されていたので、ブルーは午前中はサイオンの訓練、
午後はリオに付いて仕事を覚える事になった。
「よろしくお願いします」
『こちらこそよろしく、ブルー』
律儀に頭を下げるブルーに苦笑しつつ、リオも優しく答えた。
ブルーはリオから、まずは改めてシャングリラ内の組織や指揮系統について説明を受けた。
思念波が使えれば情報の伝達など一瞬で済むが、ブルーはまだ思念波を使いこなせないため、それは出来なかった。
それでもリオは嫌な顔もせずに、丁寧にブルーに様々な事柄を教えてくれた。
しかし説明を受けるうちに、ブルーは段々とその表情を曇らせた。
その様子にリオも気づいた。
『ブルー?』
「シャングリラには、2000人のミュウがいるんですよね」
『そうですが……それが何か?』
リオから説明されたシャングリラの組織は、ブルーの想像以上の規模と数だった。
例えばブリッジだけでも、航行、索敵、防御、攻撃の各セクションを統括していた。
そしてシャングリラ内にあるのはブリッジだけではない。
他にも生活、教育、医療、技術等。その下のセクションの数は、挙げていけばきりがないほどだ。
そのすべてをシンが統率しているという。
シンの下には長老たちがおり、そしてその下に各セクションの責任者がいた。実際の管理はそれらの者に任されていた
けれど、重要な決定は、必ずシンによってなされているとの事だった。
分かってはいたけれど、今までブルーが知っていたのはシャングリラのほんの一部だったのだと改めて思い知った。
シンの補佐をするのなら、シャングリラのすべてのセクションとミュウを知っていてもまだ足りないかもしれなかった。
「リオはもう、全員知っているんですよね」
『ええ。でも僕はもうずっとこの船にいるのですから。広いとはいえこの船の中で過ごすだけですから、皆も知らぬ者などいない
でしょう』
このシャングリラの乗員で、一番の新顔がブルーだった。
ブルーは不意に、不安に駆られた。
シャングリラを統べるシンの助けになどなれるのだろうか。
それどころか足手まといになりはしないかと、心配になった。
それも無理もない。
ブルーはまだ14歳。利発ではあるが今までは勉強だけで、就労経験などまったくないのだ。
知らない世界に飛び込む事に、不安を感じても当たり前だった。
ブルーの不安を和らげるべく、リオは微笑んだ。
『大丈夫ですよ、ブルーなら』
「リオ……」
『きっと僕以上に素晴らしい働きをしてくれるでしょう』
「そんな───」
リオの励ましにブルーは何事か口を開きかけたが、次いで言われた言葉にようやく表情を明るいものにさせた。
『それに、ソルジャーの力になりたいんでしょう?』
「……うん!」
『だったら僕も協力は惜しみませんから、頑張りましょうブルー』
「はい」
リオの言葉にブルーは気を引き締めた。
そしていつも助けてくれるリオの期待に応えたいと思った。
渡された資料───小型コンピュータの端末の画面に映し出されるシャングリラの組織図と配置人員。
それに目を通したブルーは、ある事に気づいた。
「これは……」
ブルーが驚いたのは、防御セクションと攻撃セクションの人数の多さだった。
他のセクションに比べて、一際人数の多さが際立っていた。
「これって、人間と戦う準備なんですか……?」
『……そうです。10年ほど前から、徐々に戦闘員を増やすようにしてきました』
「そう……」」
やはりミュウは人間と戦うのだと、ブルーは改めて思い知った。
けれどそれ以上は何も言わなかった。
そんなブルーを見つめながら、リオはふと昔を思い出していた。
戦闘員を増やした理由───それは14年前にブルーが誕生したからだとは告げなかった。告げられなかった。
『ブルー……』
「はい?」
呼ばれて、真っ直ぐ青い瞳を向けてくるブルーを前にして、けれどリオは押し黙った。
リオの杞憂をブルーに話しておくべきか、否か。
ブルーが生まれるまで───そして生まれてからの、シンのその思い入れは恐ろしいほど深く激しいものだった。
執着と言っても過言ではないだろう。
けれどブルーが14歳になり、このシャングリラへ迎えたと同時に、シンは当初は自らの近辺にブルーを置かなかった。
監視をリオに任せて、敢えて距離を取っていた。
そして今回は、その真逆の事を決めた。
引き寄せたいのか、遠ざけたいのか。
リオはシンの真意を掴みかねていた。
ただ一つ分かっているのは、シンが欲しているのは目の前の14歳の少年ではないという事。
シンが本当に望んでいるのは、ここにこうして存在しているブルーではなく、かつての───……。
「リオ?」
『いえ……、何でもありません』
珍しく口籠ったリオだったが、ブルーは特に不審にも思わずに、何も問いはしなかった。
ブルーはそのまま、手もとの映像資料に視線を戻した。
真剣なその様子に、リオはその表情を微かに沈ませた。
リオが気になっていたのは、シンが耳に付けている補聴器だった。
補聴器であり、先代のソルジャーの記憶装置でもあったもの。
あの補聴器には触らないように、ブルーに注意しておこうかとリオは考えたのだが、やめた。
シンは補聴器を肌身離さなかった。
注意などしなくとも、ブルーが触れる機会もない筈だった。
そう考えたのは、ブルーの身を案じたため。
ここ数ヶ月、ブルーと過ごす内に、リオはいっそこのままでもよいのではないかと思い始めていた───。
シンの補佐、といってもすぐに一人前な訳じゃない。でも子ブルなら仕事の覚えも早いと思いますけどもね。
ただ今後、シンと子ブルが一緒にいる時間は確実に増えると思います。
まあ、それってどっちかというと子ブルには危険が増すような気がしますが……。
しかし今回はシンが出てこなくて残念です。
私はブルーファンではありますが、どうやらシン様ファンにもなってしまったよう、です。
長い同人歴の中で、攻に入れ込むなんて初めてですよ〜<(−−;)>
2008.07.06
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