exceeding thousand nights ・23
ブルーが青の間のシンの腕の中で眠りこんでしまった翌朝。
目を覚ますとシンの姿はどこにもなかった。
「ソルジャー……!?」
シンのベッドを一人で使っていた事に気づいて、ブルーは慌てて青の間を後にした。
しばらくブルーはシンを捜したが見つけられなかった。
こんな時に思念波が使えたら、と思った。
訓練の時間が迫ってきたので、ブルーは仕方なく自室に一度戻り身支度を整えようと考えた。
部屋に戻るとレインが待っていた。
レインはブルーの姿を見つけて、嬉しそうに肩に乗って来た。
『ぶるー、オハヨウ』
「おはよう、レイン」
『ユウベハドコニイタノ?』
「べ、別に……」
まさか青の間で眠りこけてしまっただなんて恥ずかしくて、レインにも言えなかった。
ブルーはそのまま食堂で朝食をとった後、サイオンの訓練へと向かった。
午後、訓練を終えたブルーはすぐさまリオと連絡をとり、ブリッジに上がった。
そこにはハーレイたちブリッジ勤務の者たちと、リオと───そしてシンがいた。
ハーレイは入って来たブルーを一瞥したが、特に何も言わなかった。
シンの補佐を命じられてから、ブルーはブリッジへの立ち入りを許可されるようになっていた。
『ブルー、早かったですね』
「うん」
声をかけてくれるリオへの返事もそこそこに、ブルーはシンの元へと走り寄った。
ブリッジの各クルーに何事かを指示していたシンは、それを止めてブルーを見た。
シンの翡翠色の眼差しは、怒っている風ではないがどこか冷たかった。
ブルーを見ているのに、どこか遠くを見ているような感じがした。
「あの……ソルジャー」
恐る恐る、ブルーは口を開いた。
「昨日はすみませんでした」
謝りながら頭を下げた。
リオや皆が何事かとブルーを見たが、とても理由など話せなかった。
改めて昨夜の自分を思い出して、シンのベッドで眠り込んでしまうなんてなんて失態だろうと、ブルーは頬が熱くなるの
を感じた。
しばらくそのままでいると、ふわりと髪に触れてくる手があった。
それはシンの掌だった。
昨夜と同じその手は髪から頬に伸ばされ、そっとブルーの顔を上げさせた。
再び目にしたシンは微笑んでいた。
「君が謝ることはない」
「でも……」
シンは微笑んでくれてはいたけれど、ブルーにはそれがどこか苦しそうに、憂えているように見えた。
それはやはりブルーのせいなのだろうか。
「ソルジャー、あの───」
ブルーがシンに問おうとしたその時、突然シャングリラ船内に警報音が鳴り響いた。
それは敵襲を告げるものだ。
レーダー管制担当の女性が声を荒げた。
「アタラクシアより爆撃機接近中! 距離二千、5機です!」
「またか……!」
ブリッジ内の一人のミュウが、吐き捨てるようにつぶやいた。
ミュウに対する人類からの攻撃は、散発的にだが絶えることなく続けられていた。
即座にシンの厳しい声が飛んだ。
「ハーレイ、ステルス・デバイス最大出力! 迎撃には僕が出る。万一のため戦闘班にも戦闘準備をさせろ」
「分かりました」
シンの命令を受け、ハーレイが各セクションに指示を出した。
ブルーは何も言えず、ただその様子を見つめていた。
と、シンの視線がブルーに向けられた。
「君はここにいるんだ、いいね」
「ソルジャー……!」
気をつけてと言いたかった。無事に帰って来て下さいと。
けれどブルーがそう伝える前に、シンが青い光を纏った次の瞬間、その姿はブリッジから消えていた。
ブリッジの中央に浮かぶメイン・スクリーン。
そこに、人類の爆撃機と戦うシンの姿が映し出されていた。
積み込んだ爆弾ごと次々に破壊される爆撃機。シャングリラに攻撃が及ぶ前に、それらは次々にシンの力によって撃
墜されていた。
爆撃機の火力も相当なものである筈だが、それよりもシンの攻撃が圧倒していた。
それでも、ブルーは不安そうにスクリーンを見つめていた。
そんなブルーにリオがそっと声をかけた。
『ブルー、ソルジャーなら大丈夫です』
「リオ」
『あの方は強い。なまじな攻撃では、ソルジャーの敵ではないでしょう』
「うん……」
そうは言われてもやはりブルーの不安は消えなかった。
そして、スクリーンを見つめながらぽつりとつぶやいた。
「いつも……ソルジャーが一人で戦うんだね」
答えを求めていた訳ではなかったが、ブルーのそれにリオが返事をした。
『はい。シャングリラの位置を人類に気づかれる事だけは避けなければいけませんし、何より戦う事の出来るタイプ・ブル
ーはソルジャー・シンしかいらっしゃいませんから』
「トォニィたちは……?」
『彼らもタイプ・ブルーですが、まだ幼い。そして四人しかいない。いつか人類と戦う時のために、彼らを温存しておきたい
とソルジャーはお考えです』
「人類と、戦う……」
人類とミュウに戦ってほしくはない。できるなら戦いは避けられたらと思う。
でも、現実に人類はミュウを敵視している。
もしもその時が来たら、自分はどうするのだろうか。
シンの助けになれる事があるのだろうか。
「もしも僕に力があったら……」
けれど現実にはブルーにはそんな力はなく、こうしてシンに守られるばかりだ。
『ソルジャー・シン。……ジョミー・マーキス・シン』
シンが爆撃機をすべて破壊しシャングリラに帰還するまで、ブルーは祈るように胸の内でその名前を呼び続けていた。
ミュウが人類からの攻撃を退けてから数時間後───。
育英都市アタラクシアのユニヴァーサル・コントロールにて、ある会議が開かれていた。
「まだミュウの居所は突き止められないのか」
いらついた、腹立たしげな声が室内に響いた。
集まったのはアタラクシア市長、ユニヴァーサル・コントロールの所長、警備隊責任者、その他にも各方面の研究者など、
この星で重要なポストに就く者たちばかりだった。
彼らは顔を突き合わせ、たった一つの事を延々と話し合っていた。
「なんとしても奴らを炙り出さなければなりません」
「不適格者は処分しなければ……!」
ミュウも人類から派生した───確かに同じ人間であるというのに。
まったく別種の生き物のように、彼らは疑いもなくミュウを殲滅する方法を論じていた。
身支度といってもシャワーと着替えくらいかなとは思うのですが。
ミュウの皆さんはきっと、同じデザインの服を何着も持っているのではないかと。
(パタリ○みたいだなあ…)
アニテラを見ていつも不思議だったんですが、なぜシャングリラのブリッジにはソルジャーの席がなかったのか。
ブルーが寝たきりになっちゃったからなくしちゃったのかな?
ジョミーは自分の席がなかったから、なかなかブリッジに上がってこなかった…とかね(^^)
2008.09.24
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