exceeding thousand nights ・28



   シンはブリッジにて、ハーレイと話をしていた。
   シャングリラ船内の整備状況について、細かな説明をハーレイから聞いていた。
   それに耳を傾けながらふとシンが視線を下げれば、広場にブルーの姿があった。
   ブルーは今日一日非番で、どうしているのかと思っていたが、どうやらトォニィたちの空き時間にあわせて遊んで
  いるようだった。
   レインは少し離れた場所の木の下で、身体を丸めて眠っていた。
   5人は大きな円陣を作り、手を使わずに一つのボールを足で蹴って回していた。
  「ほら、タージオン!」
  「よっ……あ!」
   ブルーからボールを回されたタージオンは、上手く受け止められずに足先でボールを弾いてしまった。
   コロコロと広場の芝生の上を転がっていくボール。
   それがふわりと宙に浮き、タージオンの手に戻った。
   タージオンがサイオンで引き寄せたのだ。
  「ずるいぞ、タージオン!」
  「そうよ、今はサイオンはなしなんだから」
  「分かってるよ! ……つい使っちゃっただけじゃないか」
   トォニィやアルテラに口々に言われて、タージオンはふて腐れた。
   実際ミュウである者には、サイオンを使うというのは呼吸をするようにごく当たり前の事であったから、咄嗟の場合な
 どは使わないように意識する方が難しかった。
  「それっ!」
  「おい、どこに蹴ってるんだよ!」
   タージオンの蹴ったボールは、タキオンの頭上を越えて行った。
  「兄さん、サイオン使っちゃダメだからね。早く拾いに行きなよ」
  「こいつ……!」
  「うわぁ!」
   タキオンはボールではなく、タージオンを追いかけ始めた。
   慌てて逃げるタージオン、追いかけるタキオン。そんな二人の姿に、ブルーもトォニィもアルテラも笑った。
   ブリッジからシンは、その光景を見つめていた。 
   無邪気に遊ぶそんな姿を見ていると、成人しているとはいえブルーはまだまだ子供のようだった。
   と、そこへ2人の大人たちが近づいて行くのに、シンは気づいた。
  「アルテラ!」
  「あ、パパ、ママ!」
   アルテラは一組の男女に駆け寄った。
   やって来たのはアルテラの両親だった。
  「どうしたの?」
  「ちょっと時間が空いたんでね。お前の顔を見に来たんだ」
  「わざわざ変なの」
   そう言いながら、アルテラは嬉しそうだった。
   ブルーは初めて会ったが、こうしてみると肌の色も髪の色も、アルテラは両親のどこかしらによく似ていた。
   一目で親子だと分かった。
  『本当のパパと、ママか……』
   ブルーはそれを、不思議な気持ちで見つめていた。
   S・D体制下の人工受精で生まれたブルーには、本当の両親などいない。
   けれど14年間育ててくれた養父母が、本当の───あの二人以外に両親だと思える人はいなかった。
   今頃はどうしているのだろうか。
   ブルーがミュウの船にいるとは夢にも思わずに、きっと元気でいるだろうけれど。
   物思いにふけるブルーだったが、突然視界が遮られた。
  「!」
   目の前にあるのは、緋色のマント。それを身に纏う者はこの船には一人しかいなかった。
   ブルーは慌てて振り返り、視線を上げた。
  「ソルジャー……!」
   ブルーの背後にいたのはシンだった。
   おそらくはテレポートしてきたのだろう。
  「どうかしたんですか?」
  「すまないが僕と来てほしい」
   そうつぶやくシンの表情はどこか苛立っているようであった。
   一見いつも通りの冷静なシンではあったが、ブルーにはそう感じられた。
  「あ、グラン・パ!」
   シンに気づいたトォニィが、喜びの声を上げた。
  『グラン・パ?』
   しかしブルーがその疑問を口にする前に、シンはその腕でブルーを引き寄せた。  
  「急用ができたんでね、ブルーを連れて行くよ」
  「あ、グラン───」
   トォニィが駆け寄る前に、シンとブルーの姿は広場から消えてしまった。


   シンがブルーを連れてテレポートした先は、ブリッジだった。
   すっかり見慣れたブリッジで、ブルーはシンの腕の中から解放された。
   苦々しい表情をしたハーレイがそこにはいた。
   ブルーがブリッジから広場を見れば、残されて呆気にとられたままのトォニィたちの姿が見えた。
   すまないとは思ったが、何かあったのなら仕方ないと思い直し、ブルーはシンに振り返った。
  「ソルジャー、急用っていったい何が……」
  「ないよ」
  「え?」
  「用なんてない」
   シンの言っている事が、ブルーにはよく分からなかった。
   眉を寄せるブルーに、シンは言った。
  「ただ、君が寂しそうな顔をしていたから」
  「え……」
   ブルーは以前、展望室で両親を想っていた時とそっくり同じ眼差しで、アルテラとその両親を見ていた。
   あの場にいるのが、辛いのではないかと思われたのだ。
   だから攫うようにして、シンは強引に連れて来てしまった。
   シンにそう言われたブルーは、図星だったのか微かに頬を赤らめた。けれどしっかりと首を横に振った。
  「僕はそんな……もう子供じゃないですから」
  「僕からすれば、同じようなものだけどね」
   シンにそう言われて、ブルーは言葉に詰まってしまった。
   それはそうだろう。100年以上生きているシンにとっては、成人したとはいえ14歳のブルーなど子供と同じだ。
   口ごもるブルーに重ねてシンは言った。
  「君が優しいのは認めるが、もう少し自分に素直になってもいい」
  「素直……?」
  「そこに居るのが辛い時に、無理をして居なくてもいい」
   そう言われて初めて、ブルーはシンが自分のためにあの場から連れ出してくれた事に気づいた。
   きっと、それ以上ブルーが辛い思いをしないようにと。
   ブルーはどうしてかシンを直視できず、俯いてしまった。
   俯くブルーにシンは諭すように言った。
  「君はもっと甘えてもいいんだ。寂しい時は寂しいと───」
  「寂しく……ないです」
   珍しくシンの言葉をブルーが遮った。
   ブルーは顔を上げた。
   青い瞳がシンを真っ直ぐに見つめてきた。
  「だって、僕にはソルジャーがいてくれるから」
   それは本心からの言葉だった。
   ソルジャーとしてミュウを束ねているシンに、プライベートな時間はほとんどない事をブルーは知っていた。
   そのシンがブルーを気にかけてくれた。
   それだけでブルーは嬉しかった。
   胸の奥がほんのりと温かくなるようだった。
  「ブルー……」
   素直にそう口にするブルーに、今度はシンの方が押し黙った。
   しばらく二人は見つめあった。
   そんな二人の後ろに控えていたハーレイが、咳払いをした。
  「……ソルジャー、そろそろよろしいでしょうか」
  「ああ、ハーレイ」
   呼ばれて、シンはハーレイに振り向いた。
  「すまない。話が途中だったな」
   ハーレイから報告を受けている最中に、シンはブルーの元へテレポートしてしまったのだ。
  「すみませんでした。僕のせいで……」
  「いや……貴方のせいではありませんから」
   頭を下げて詫びるブルーだったが、ハーレイはそれを否定した。
  「じゃあ、僕はこれで───」
   ブルーはブリッジを退室しようとした。
   その時、ブリッジ内に緊迫した声が響いた。
  「ソルジャー、索敵班から緊急連絡です!」




ハーレイはお邪魔虫ですね〜(^^;)
二人は少しずつ少しずつ、惹かれあっている……かな?
しかし私は最初この設定でよくもまあ、シン子ブルのいちゃいちゃを書こうと思っていたものです…。

タキオンとタージオンの両親も健在で、ちゃんとシャングリラ内にいます。
自然出産児の両親で亡くなっているのはカリナだけです。


2008.10.25





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