exceeding thousand nights ・31
アタラクシア市内の外れにある研究施設。
小規模な施設だったが、当然のように警備システムは敷かれていた。
深夜、リオと戦闘班から選抜されたミュウたちがまずそこへ潜入し、端末から警備システムに侵入し、無力化した。
その隙に、多少時間を要しはしたが、捕えられていたミュウの子供たちを発見した。
子供たちは全部で12人いた。年齢は様々で、4〜12歳ほどと思われる少年少女たちだった。
施設の奥深く、広い独房の一室に、皆一緒に閉じ込められていた。
身を寄せ合って独房の片隅にうずくまっていた子供たちに、一見して暴行の跡はなかった。
けれど子供たちは皆どこか無気力な様子だった。
独房に踏み込んだリオが、子供たちを励ますように声をかけた。
『皆、もう大丈夫です。助けに来ました』
「……助け……?」
差し出された手を取る気力もなく、それでも子供の一人がゆっくりと顔を上げて、昏い瞳でリオを見上げた。
ミュウと判明してから、きっと訳も分からぬままに両親から引き離され、処分を免れた代わりに実験材料にされたのだ
ろう。
子供たちには生気というものが一様になかった。
たまらず、リオは子供の一人を抱き締めた。
保護した子供たちを連れてリオたちは、輸送艇に乗り込みシャングリラを目指した。
しかし乗り込むまでに予定よりも時間を要し、人類側に発見された。
やはり人類はそのまま見逃してはくれなかった。
数機の戦闘機がアタラクシアから輸送艇を追って発進した。
追撃に追ってくる戦闘機にはシンが応戦し、そのすべてをサイオンで撃破した。
次々と戦闘機を破壊しながら、しかしシンは別の事を考えていた。
『この程度か……?』
普段の、シャングリラを探して闇雲になされる攻撃ではない。
追うべき目標がはっきりしているのに、それにしては人類の追撃が手ぬるい様にも感じた。
それでもその間に、輸送艇はシャングリラに無事帰還した。
ステルス・デバイスに守られ、人類のレーダー網には探知されなかった。
格納庫に到着した輸送艇から降り立ったリオたちと、救出された子供たちを出迎えたのは30名ほどのミュウだった。
ハーレイやゼルを始めとする長老たち、ドクター・ノルディや看護士たちなど、顔ぶれは様々だった。
けれど皆、一様に喜びを露わにしていた。
もちろんブルーもレインとともにそこにいた。
「ようこそ、シャングリラへ。我々は君たちを心から歓迎する───」
突然の状況の激変に戸惑い、おどおどと辺りを見回す子供たちを、ハーレイが力強い声で迎えた。
「辛かったでしょうに、よくぞ生き抜いて……!」
「よかったのう。本当によかったのう……!」
「もう大丈夫、何も心配する事はないよ」
エラが、ゼルが、そしてブラウが、口々に喜びの声を発した。
出迎えたミュウたちも口々に、子供たちに優しい声をかけていた。
けれどそれをブルーは不思議に思った。
『……?』
ブルーがシンに助けられて初めてこのシャングリラへやって来た時、出迎えてくれたミュウたちは口々に「お帰りなさ
い」と言ってくれた。
それは同じミュウの仲間として言われたものだと思っていた。
けれど救出された子供たちに、そう声をかける者は誰もいなかった。
ただそれをどうしてと考えるよりも、ブルーには気になる事があった。
シンの姿がどこにもないのだ。
人類の追撃を防ぐ役目をシンが担っている事は、ブルーも分かっていた。
それがシンにしかできない事も、シンの力が比類なく強い事も。
それでもやはりブルーの胸は不安で押しつぶされそうだった。
喜びで沸く格納庫に、シンが帰還したのはそれからしばらくしてからだった。
傷一つ負ってはいない緋色の姿に、皆が群がった。
一際高い歓声がシンを包んだ。
「ソルジャー、ご無事で……!」
真っ先にシンに声をかけたのはハーレイだった。
「僕は大丈夫だ。皆は?」
「負傷者はおりません。子供たちも全員救出できました」
「そうか……」
ハーレイの報告をシンは冷静に受け止めていた。
予想よりも脱出に手間取り、作戦を完遂できたとは言い難いが、戦闘に向かないミュウの性質を思えば、そして
子供たちを救出できたのだから上出来ではあった。
「ハーレイ、子供たちを頼む。救出にあたった者たちも休ませろ」
「了解しました」
肉声で命じながら、同時にシンは思念波で命じた。
『子供たちの身体検査は厳重にしろ』
『……分かりました』
ステルス・デバイスがある限り大丈夫ではあったが、シャングリラを万が一もの危険には晒したくはなかった。
シンの命令に、ハーレイは多少戸惑いながらも思念波で応じた。
ブルーは皆から少し離れた場所で、シンを見つめていた。
シンが帰還してから、ブルーの視線はその姿にだけ注がれていた。
皆を置いて一人歩きだしたシンが、ようやくそれに気がついた。
「ブルー」
ブルーを見つめるシンの瞳は優しい。
その声も、ブルーがよく知るシンだった。
「ソルジャー……!!」
たまらずブルーはシンに駆け寄った。
驚いたレインはブルーの肩からぴょんと逃げた。
ブルーはシンに駆け寄り、その胸に縋った。
シンの胸に顔を埋めながら、ブルーはただひたすら詫びていた。
「ごめんなさい、ソルジャー。ごめんなさい……!」
「どうして君が謝るんだい?」
「───」
シンの言葉に、ブルーは押し黙った。
もしもシンに何かあったら。
ブルーが戦いに追いやった事で、シンが傷つき死んでしまったら。
想像するだけでも恐ろしい事だった。
けれどまったく皆無ではなかったその可能性に、ブルーはただひたすら怯えていた。
こうしてシンの無事を確認し、そのぬくもりを感じていてさえ、その恐怖はすぐには消え去ってはくれなかった。
泣き出さないようにするだけで、精一杯だった。
それが何に因るものなのかさえ分からないまま───。
シンはそんなブルーに驚いた。
何がブルーをそんなにも不安にさせるのか理解できなかった。
それでも怯えるブルーを、そのままにしておく事は躊躇われた。
少しでも安心させるように、震え続ける肩にそっと手で触れた。
「……心配をかけたね、ブルー」
縋りついてくるブルーを───その華奢な身体を、シンは抱き締めた。
戦闘シーンは書いてもあんまり楽しくないので、端折れるだけ端折りました(^^;)
シンと子ブルのシーンならいくらでも頑張って書いちゃうんですけどv
ゆっくりゆっくり、少しずつ……シンと子ブルもここまで近付きました。
2008.11.13
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