exceeding thousand nights ・33



   倒れたブルーはまたもメディカル・ルームに運ばれ、緊急に検査を受けた。
   身体的には何の異常もなく、そしてその脳波にも異常は見られなかった。
   そして目覚めたブルーには、青の間での記憶も、ソルジャー・ブルーとしての記憶もなかった。
   ドクターからそう報告を受けてから、シンはブルーの元へと出向いた。
   シンがメディカル・ルームへ入ると、目覚めていたブルーは嬉しそうな顔をした。
  「ソルジャー」
  「……ああ、ブルー……」
   シンはブルーに「ソルジャー」と呼ばれて、一瞬苦い想いを味わったが、それを表面には出さなかった。
   ベッドから身を起こそうとするブルーを、やんわりと制した。
  「いいから寝ていなさい」
  「でも」
  「寝てなさい」
  「はい……」
   繰り返しシンに言われて、ブルーは気まずそうに、けれど大人しくベッドに横たわった。
   いつも傍にいるレインの姿はない。
   おそらくブルーの部屋でブルーの帰りを待っているか、フィシスの元にでも行っているのだろう。
  「君の身体に異常はないそうだ。きっと疲れていたんだろう。今日は念のためここでゆっくり休んで、調子がよくなってから
  ここを出るといい」
  「僕、もう大丈夫です。今すぐにでも───」
  「今日ここで休みなさい。いいね」
  「……はい」
   ブルーはすぐにでもメディカル・ルームを出たかったが、シンの言葉に素直に頷いた。
   そんなブルーに、シンは切り出した。
  「聞いてもいいかい?」
  「はい……?」
  「君が倒れた時、青の間で何があったか覚えているかい?」
  「……僕は、あの時……」
   シンに問われて、ブルーは記憶を探った。
  「ソルジャーの補聴器があったから、どんな風なのかなって思って、ついつけてみたくなって───」
   そうつぶやいたブルーは、ハッとしてシンに頭を下げた。
  「勝手に触ってしまって、ごめんなさい」
  「いや……それで?」
   促されて、ブルーは再び記憶を探った。
  「補聴器をつけて───……そしたらなんだか……」
   口籠りつつ、ブルーは記憶を辿った。
  「なんだか頭がいっぱいになって……」
  「……何が見えた?」
   シンの問いにブルーはしばらく考え込んでいたが、やがてやんわりと首を横に振った。
  「……覚えてません」
   青の間で補聴器を付けてからの記憶は、ブルーにはほとんどない。
   メディカル・ルームで目覚めて、ドクターから教えられて、ようやく自分が倒れた事を知ったくらいだった。
   補聴器をつけた瞬間、確かに何がが見えた。
   けれどそれはたった一瞬で、そしてあまりにも膨大な量で、ブルーにはそれが何だか理解できなかった。
  「すみません……」
  「いや……」
   すまなそうに再び頭を下げるブルーを、シンは何も責めなかった。
   そのシンの両耳には、いつもの通りに補聴器がつけられていた。
   ふとブルーは気になった。
   シンはいつもあれをみているのだろうか。
   恐ろしいとさえ思えるような───膨大な何かを。
  「もういいから、君はゆっくり休むといい」
  「ソルジャー……」
   ブルーの声に応えるように、シンがその手を伸ばし、ブルーの頬に触れた。
   その手に、ブルーはドキリとした。
   シンに触れられた瞬間、一つだけ思いだした事があった。
   けれどそれをブルーは口にできなかった。
   ただシンから視線を外して、俯いた。


   退室したシンと入れ替わるように、トォニィたち4人が見舞いに来てくれた。
  「どうしたんだよ、ブルー」
  「倒れたって、大丈夫なの?」
   トォニィやアルテラ、そしてタキオン、タージオンの訪れに、メディカル・ルームは途端に賑やかになった。
  「ごめん、何でもないんだ。明日には部屋に戻るから、わざわざ来てくれなくてもよかったのに」
  「それならいいけど……。お前が倒れたって聞いて、びっくりしたんだぞ」
   トォニィはブルーが元気そうなのを確認して、ようやく安心したのか、まるで怒ったような口調でつぶやいた。
  「ごめん」
   心配をかけた事を詫びながら、ブルーはトォニィたちが来てくれた事が嬉しかった。
   もちろんシンが来てくれた事も───。
   シンの事を思い出して、ブルーは触れられた頬が勝手に熱くなっていくのを感じていた。
  「……ブルー、顔が赤いわよ?」
  「え……っ」
   目ざとくそれに気づいたアルテラに指摘されて、ますますブルーは頬が赤くなっていくのを自ら感じていた。
  「熱、あるんじゃない?」
  「ドクター呼ぼうか?」
  「いいよ。本当に何でもないから───」
   ブルーを案じるタージオンとタキオンの言葉に、ブルーは慌てて返事をした。
   ブルーがたった一つ、思いだしたもの。
   朧げだが脳裏に残った───夢。
   夢の中で───シンに愛しているとつぶやかれながら、何度もキスをされた。
   シンに触れられた瞬間、ブルーはその夢を思い出していた。
  『僕、なんであんな夢を……』
   恥ずかしくて、そして居たたまれなくて、ブルーはそれからシンの顔を直視できなかった。
  「……それより、みんな戻らなくていいの?」
   脳裏に蘇った夢を打ち消すように、ブルーが話を変えた。
  「せっかくだから、ここで少しサボっていこうよ」
  「それもいいな」
  「訓練も飽きたしなあ……」
   タージオンの提案に、 トォニィとタキオンはすぐに同意した。
   けれどアルテラだけは違っていた。
  「こら、何言ってるのよ! それにここにいたらブルーの迷惑でしょ」
  「僕は別に───」
  「ブルーは黙ってて!」
  「はい……」
   アルテラの剣幕に、ブルーは肩をすくめた。
   ブルーを案じるあまりブルーさえも叱るその様子に、とても反論できなかった。
   けれどすぐにおかしさがこみ上げて来て、ブルーは笑った。
   トォニィたちも同じく笑い、最後にアルテラも恥ずかしそうに笑った。


   メディカル・ルームを後にしたシンは、無邪気なブルーの様子を思念波で感じていた。
   ソルジャー・ブルーとしての記憶を取り戻したかと思いきや、意識を失ったブルーが目覚めた時、その意識は14歳の少
  年のままだった。
   それはシンを深く落胆させ、そしてなぜか少しだけ安堵させもした。
   けれどシンには確信があった。
  『もうすぐ彼は目覚めてくれる』
   一瞬だけでも、ソルジャー・ブルーとしての記憶を取り戻したのだ。
   もう少しだけ、その日を待てばいい。
   今まで、100年待ったのだ。
   その長い年月に比べたら、きっとあともう少し、瞬きほどの時間だろう。
   もう少しだけ───。




それにしても自分でも書いていてなんですが、ミュウは気が長いなあ〜と思います。
シンはもちろん、長老たちも、ミュウ全員が気が長すぎる…。
アニメのジョミーも長い間、引きこもりだったっけ。
いろんな状況や人間の3倍もの寿命があるからこそなんでしょうけど、私だったらさっさと地球へ行きましょう!とキレてるかも(^^;)
999の機械化人のように、永遠の命じゃなくてよかったですね。
もっとも〜っと気が長くなりそうです。


2008.11.30





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