exceeding thousand nights ・49
シャングリラからブルーとトォニィ、そしてアルテラの三人がいなくなって半日以上が過ぎていたが、まだ表だった騒ぎは
起こっていなかった。
知っているのはシンとリオのみで、長老たちもいまだブルーの失踪に気づいていない。
いつも通りシンがブリッジにいると、しばらくしてリオが遅れてやってきた。
「ユウイたちはどうした?」
『とりあえず納得してくれたようで帰って行きましたが……トォニィたちがアタラクシアへいるとは気づいていません』
「知らせる必要はない。放っておけ」
『はい……』
冷徹なシンの言葉に、それでもリオは従った。
先刻、トォニィの父親であるユウイとアルテラの両親が、いつになっても帰ってこない我が子を心配してリオに所在を尋
ねてきたのだ。
リオが二人はシンの命令でブルーと一緒にいると伝えると、三人は安心してすんなりと引き下がった。
トォニィはシンに呼ばれていたままであったし、それはアルテラの両親も知っていた。
アルテラはトォニィを慕っていたし、きっと何らかの理由があって、ブルーの部屋に一緒にいるのだろうと思い込んだ。
まさか自分の子供たちがアタラクシアにいるとは夢にも思わずに。
それを知っていたらいかな温厚な性格のミュウであろうとも、激昂していただろう。
シャングリラでは表面上は何事もなく、いつも通りの日常生活が営まれていた。
ミュウたちは各自与えられた仕事をこなし、子供たちは勉学につとめ、そして幼児たちは母親代わりの保育士たちと遊
んでいた。
シンの側に仕えるリオだけは、時折物言いたげな視線をシンに向けていたが、結局は何も言いはしなかった。
シンもいつも通り、ソルジャーとしての役割を果たし続けていた。
けれどシャングリラに居ながら、シンの意識はブルーを追っていた。
ブルーがトォニィたちの力を借りてシャングリラを出て行った時、もちろんシンはそれに気づいていた。
ブルーはソルジャー・ブルーの生まれ変わりだ。
長い時を待ち続け、ようやくこの手に迎えた、シンにとって絶対に失えない存在だ。
そのブルーをシャングリラから出すのには、もちろん抵抗も不安もあった。
けれどシンはブルーを止める術を持たなかった。
ブルーがシャングリラを出て行こうと思ったのは、紛れもなくシンが原因だ。
シンが関わることは、ブルーをますます追い詰めるだけだった。
だから敢えて干渉せずに、ブルーの好きなようにさせた。
その代わりに思念波でトォニィにブルーを守れと命令していた。
何があってもブルーが傷つく事のないよう、守れと伝えていた。
それでもシンの不安は消えず、ブルーの行動を思念波で追っていた。
アタラクシアのかつて住んでいた家に辿り着き、両親の姿を見たブルーは、深いショックを受けたようだった。
頭では分かっていた───分かり切っていた現実だったろうが、いざそれを目にしたショックは大きいだろう。
すべてを知ったブルーは行く先をなくし、途方に暮れていた。
『可哀想に……』
不意に自分の心に湧きあがったその想いに、シンは驚いた。
それは純粋にブルーに対しての憐憫なのか。
それとも彼がソルジャー・ブルーの生まれ変わりだからなのか。
どちらなのかはシン自身にも分かりかねた。
ただ、できる事なら今すぐブルーを抱きしめたかった。
きっとブルーに拒まれると分かってはいても───。
沈んだ眼差しのままシンがブリッジから下の広場に目をやると、何十人ものミュウの姿がそこにあった。
ある者は笑い、今日一日が無事に終わったことに安堵していた。
ある者は悩み、またある者は惑い───それぞれの今日を終えようとしていた。
もう長い間、変わることのない風景がそこにはあった。
そして、異変は突然起こった───。
久しぶりのシンの登場ですが、いざ書いたら短くなってしまいました。
余裕な顔をしていますが、内心は子ブルが気になって仕方がないシンです。
子ブルがシャングリラを家出してから、「早くシンが子ブルを迎えに行ってくれますように」とのお言葉を幾人かの方からいただきました。
ありがとうございますv
……が、迎えに行く予定がないって言ったら…………お、怒られちゃうでしょうか(ーー;)
2009.6.14
小説のページに戻る 次に進む