exceeding thousand nights ・ 5
リオの後をついて歩きながら、ブルーは青の間に向かっていた。
広いシャングリラの船内には、移動のためにあちこちにリニアが設けられていた。それを乗り継ぎ、それでも長い距離の
通路を歩いた。
通路を進むにつれ段々と人の気配が薄れていき、ブルーは微かな不安を覚えた。
「リオ、本当にソルジャーの部屋に向かっているの?」
前を歩くリオについて行きながら、ブルーはその背中に問うた。
ブルーの声に、リオは足を止めて振り向いた。
『そうですよ。どうかしましたか?』
「だってソルジャーってミュウの長なんでしょう? なんでこんな船の外れに……」
『我々はミュウですから、サイオンを使えば距離は関係ありませんよ』
「それはそうかもしれないけど……」
リオはブルーが追いつくと、再び歩き出し、二人は並んで歩いた。
『でも確かにここは少し寂しい感じがします。だからソルジャー・シンに、お部屋を移られてはどうかと話した事もありました
が───』
「ソルジャーはどうしたの?」
『聞き入れてもらえませんでした』
リオはその当時の事を思い出し、寂しそうに微笑んだ。
ここでいいとシンは言った。
ここがいいのだと。
リオを含めその理由を知るミュウたちは皆、それ以上なにも言えなかった。
そしてまたしばらく歩いて、リオとブルーはある通路の奥───大きな扉の前にやってきた。
「ここが、青の間……?」
『そうです』
青の間はシャングリラの下層部にあった。人の気配もなく静かな、とても寂しい場所だった。
『失礼します、ソルジャー・シン。ブルーをお連れしました』
『入れ』
リオが思念波で呼びかけると、中からやはり思念波で返答があった。
『どうぞ、ブルー』
「あ、はい……」
リオに促され、目の前で開いた扉を通ってブルーは青の間に足を踏み入れた。
「……!」
そこはブルーの想像以上に広い部屋だった。
照明は少なく光量が絞られ、暗く静まり返っていた。床一面には水が満たされ、その中央に細い通路が伸びていた。
そしてその通路の先に、天蓋付きの大きなベッドがあった。
その他に目につく物といえば椅子くらいで、個人の私室とは思えないくらい殺風景な部屋だった。
けれどブルーにはそれだけではない、不思議な感じがした。
初めて訪れた場所なのに、どこか懐かしいような気もした。
そんな事がある訳はないのに。
すぐにその考えを打ち消したブルーに、部屋の中央から声がかけられた。
「よく来てくれたね、ブルー」
「ソルジャー・シン……!」
まだ距離はあるがベッドの前に、この部屋の主が佇んでいるのがブルーの瞳に映った。
「おいで、ブルー」
シンに呼ばれて、ブルーは歩を進めたが、背後にリオの気配を感じられなくなって振り返った。
リオは青の間の中に一緒に入りはしたが、扉の横に佇んだままそこから動こうとはしなかった。
「リオは……?」
『私はここで待っています』
「え……」
『ソルジャーはあなたを呼ばれたのですから』
「……うん」
リオが側にいないのは心細い気がしたが、ブルーは一人細い通路を歩んだ。
ソルジャー・シンは静かに、ブルーが目の前まで来るのを待っていた。
「お久しぶりです、ソルジャー」
「会いたかったよ、ブルー」
礼儀正しく挨拶をするブルーの頬に、シンはその手を伸ばして一撫でした。
ブルーは10日ぶりに会ったシンのその姿をまじまじと見つめた。
凛々しく力強く、ミュウの長として超然としていて、健康そのものにしか見えないその姿。
そうだと教えられていても、とても100年以上生きているとは信じられない、若々しい姿だった。
シンもブルーの姿に目を細めた。
ミュウの服に着替えたブルーは、年齢よりも幼く見えた。
同年齢の平均よりもブルーの体躯は小さい。ミュウの服はブルーの細身を明らかにさせていた。
けれど画一的な服は、かえって一層ブルーの容姿の秀麗さを際立たせていた。
もっとも直接会いはしなかっただけで、シンはいつでもブルーを視ていたのだけれど───。
シンはベッドに腰を下ろし、ブルーにも座るよう勧めたが、ブルーは首を横に振った。
ソルジャーの私室を初めて訪れたのに、まだよく知らない人なのに、それは失礼だと思ったのだ。
そんなブルーの様子にシンは苦笑したが、それ以上は何も言わなかった。
立っているよりも近くなった目線で、シンはそのまま自らの前に立つブルーに話しかけた。
「シャングリラの居心地はどう? もう慣れたかい?」
「慣れるまではいきませんけど……。皆さんにすごく良くしてもらっています」
「そうか。それは良かった」
シンがその翡翠色の瞳を和ませた。
その瞳の色を優しいと感じると同時に、ブルーは少しだけ怖く感じた。まるで観察されているようだとも思った。
ふとブルーの視線は、シンの耳元に釘づけになった。
初めて会った時もヘッドホンのようなものを付けていたけれど、今日もそうだった。
もしかしたらソルジャーは聴力に支障があるのだろうかと、ブルーは思った。けれどそれを問うのはやめた。
聞いたら気を悪くするかもしれないし、傷つけてしまうかもしれない。
何より、訊ねたい事がブルーにはあった。
「あの……聞きたい事があるんです」
「何?」
ブルーはわずかに緊張したが、それでも意を決して口を開いた。
「ソルジャーはどうして、僕をこの船に連れてきたんですか?」
「君は大切なミュウの仲間だ。その君を助けない理由が逆にあるのかい?」
シンの答えは明瞭だった。
けれどそれでは、ブルーは納得できなかった。
「でも僕は、まだミュウとしては……」
「サイオンが目覚めないそうだね」
「どうして知って……?」
「君のことで僕が知らない事はないよ。それに、リオからも報告は受けている」
シンの言葉にブルーは、リオを振り返った。
リオは扉の横に立ったまま、にこりとブルーに微笑みを返した。
「ブルー」
「あ、はい」
シンに呼ばれて、ブルーは再びシンと向き合った。
シンはまた手を伸ばし、ブルーの頬から肩に触れると、その腕で自らに引き寄せた。
「ソルジャー……?」
引かれるままブルーは足を一歩踏み出し、少しだけシンに近づく形となった。
「君をこの船に連れてきた理由は、簡潔に言えば───僕にとって君が必要だからだよ」
「え……」
シンに真っ直ぐ見詰められて、ブルーの胸は微かに鼓動を早めた。
「どうして……?」
その言葉を飲み込めないブルーに、シンは心の内を推し量らせないような笑顔を見せた。
「それに、君の事はフィシスの占いにも表れていた」
「占い……?」
まるで予想もしていなかった答えだった。
「ソルジャーは、その占いを信じたんですか? その人はどうして───」
確かに同じクラスの女子たちも占いは好んでいた。
けれどまさかミュウの長から、そんな言葉を聞くとは思ってもいなかった。
そんな思いが口調に滲み出てしまったのか、シンはわずかに苦笑した。
ソーシャラー
「フィシスは占い師だ。もっとも彼女の占いは、タロットの形を借りた“予知”だ」
「予知……」
「彼女の占いは、ミュウの誰の予知能力よりも確かだ。いずれ君をフィシスにも会わせよう」
「はい……」
それでも納得しかねる表情をしたブルーに、シンは問うた。
「それでも信じられない?」
「…………」
ブルーの返事はなかった。
返事の代わりのように、ブルーの青い瞳がシンから外された。
「自分が信じられない?」
「自信は、ないです……」
シンの言葉を否定するのは躊躇われたが、頷くにはブルーには何もなかった。
「だったら僕を信じて」
シンは触れていた手をブルーの背に回すと、強い力でさらに引き寄せた。
「ソルジャー?」
「焦る必要は何もない」
ブルーの小さな身体は、シンの片腕の中に簡単におさまった。
「君はここにいる。時がくればいずれ目覚めるだろう。今はまだその時ではないというだけで───」
言いながら、シンはブルーの胸元にその顔をそっと伏せた。
その唇が、服に隠されたブルーの左胸の微かな突起に───そっと触れた。
「僕はそう信じているよ」
「……っ?」
それは本当に一瞬の、触れるか触れないかの行為だった。
シンの唇はすぐに離れた。
ブルーは微かに身を震わせたが、たった一瞬の接触と己の幼さ故に、その意味も分からなかった。
「僕を信じて。いいね、ブルー」
「は、い……」
シンの強い言葉に、ブルーはただ素直に頷くしかできなかった。
「ブルー」
「はい?」
青の間から退室しようとしたブルーは、シンに呼び止められて足を止めた。
「これからは時々、ここへ顔を出してくれないか」
「どうして……ですか?」
まさかそんな事を言われるとは思っていなかったブルーは、きょとんとした顔をした。
「ここは特に立ち入り禁止にもしてないが、昔からあまり人が寄り付かない場所でね」
それはそうだろうとブルーは思った。
こんな船の外れの、暗く寂しい場所。ましてや長であるソルジャーの私室ともなれば、よほどの用がない限り訪れる者が
あるとは思えなかった。
「でも、理由もないのに……」
「僕が喜ぶ、それじゃ理由にならないかい?」
「…………」
戸惑うブルーに、シンはまるで子供のような理由を述べた。
「もしかして、ソルジャーも寂しい時なんてあるんですか」
「もちろんだよ」
「え? ソルジャーも?」
落ち着いた大人の顔をしながら、そんな事を言われて、ブルーは少しだけシンに対して感じていた緊張が解けていった。
「だからブルー、いつでもいい。君を待っているよ」
「……はい」
シンの低い声は、夢の中でいつも聞いていた声と同じだった。
どこか切なげで、寂しそうで───。
だからブルーはその頼みを、断る事ができなかった。
リオとともに立ち去るブルーの後ろ姿を見送りながら、シンは胸の内で一人つぶやいた。
───君が生まれるまで、ずっとずっと寂しかった。
───だからもう、手放さない。
───何を犠牲にしても必ず、取り戻してみせる。
自分でも不思議なんですが、本来は私、ショタの気はありません(^^;)
過去ハマったカップリングを思い返すと、ほとんど年下攻×年上受です。もしくは同年齢。
この世界に足を突っ込んでいてなんですが、受が年下で、特に年若だと、ものすご〜くいけない事をしているような気になっちゃって。
仮に年下攻だって年若なら、いけないのは同じなんですけどね。
で、シン×子ブルですが……そんないけない路線かもしれません〜。
我ながらなぜ? とは思うのですが……まあシンなら、子ブルーならいいかなという気持ちがなぜか湧いてくるんです。
シン×ブルも大好きですが、ブルー相手だとシンって好き放題しそうだし。
子ブルー相手なら少しは、少しだけは手加減してくれるかもという淡い希望が…(^^;)
せめてどうしてそうなるのか、それじゃあ仕方ないかと思ってもらえるようには、書いていけたらいいなあと思います。
でもそんな事ばかり考えているとシリアス部分が多くなって、なかなか萌えシーンが書けない……。
あくまでもこの話は、私の頭の中では「萌えシリアス」なんですけどね(^^;)
今回はちょこっとだけ書けましたv
2008.03.30
そしてそして、素敵なイラストをいただいきました〜v
こちらのページからもリンクをはりました ⇒ ★
ぜひぜひどうぞご覧になってください!
2008.07.01
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