exceeding thousand nights ・51
いくつもの雷が同時に落ちたような激しい音とともに、空がまるで昼間のように明るくなり、ブルーたちは驚いた。
「なに……!?」
「何なの!?」
すぐに辺りは暗くなったが、三人は慌てて家の外に出て爆発のした方角を見た。
アタラクシア郊外の空の一部だけが、まるで一足先に夜明けが訪れたかのように明るかった。
そしてそれを見つめる三人の頭上で、数多の機体が飛来していった。
どこか禍々しい印象のそれらが向かうのは、光が爆発した方角だった。
「あの方角は……」
ブルーが青ざめた表情でつぶやいた。
爆発のした方角は、ブルーたちがやって来た───シャングリラのある方角だった。
「帰ろう……!」
「シャングリラへ帰ろう!」
トォニィとアルテラも顔色を変えていた。
帰ろうという二人に、ブルーももちろん反対などしなかった。
立て続けにテレポートを繰り返し、トォニィとアルテラは疲れ切っていた。
ブルーを連れている分、その負担は大きかったが、二人とも休もうとは口にしなかった。
ブルーも何も言えなかった。
二人が感じている胸騒ぎを、ブルーも感じていたからだ。
そして何の力もなく、二人の負担にしかなっていない自分を、あらためて不甲斐なく思った。
テレポートを繰り返して移動する途中、荒野のあちこちに見慣れない機器が設置されていた。
シャングリラからアタラクシアに向かった時には、どこにも見られなかった物だった。
三人がテレポートした間近の地面にたまたま設置されていたその一つは、何に反応しているのか一部が赤く点滅してい
た。
「何だよこれ……?」
「トォニィ、いいから早く!」
「う、うん……」
訝しんで近づこうとするトォニィをアルテラが制し、三人は先を急いだ。
そして───テレポートを繰り返した末に、三人はシャングリラにたどり着いた。
いや、正確にはたどり着く前に異変に気づいた。
「あれは……!」
「もしかして、シャングリラ……!?」
トォニィとブルーが呆然とつぶやいた。
シャングリラが隠れていた地点の5キロほど手前でもう、それは肉眼で確認できた
ブルーたちが見上げるアルテメシアの空に、巨大な白い船が浮かんでいた。
それはブルーも、そしてずっとシャングリラで暮らしていたトォニィたちでさえ初めて目にしたシャングリラの船体だった。
白い船体は柔らかなフォルムで形作られており、優美で美しかった。
船首には紋章が、そして船体のあちこちにはまるで地上絵のような文様が刻まれていた。
その姿は、かつて地球で空想上の生き物といわれた白鯨を連想させた。
百年もの間、地中深くに隠れていたその船体は、どうした事か地上へと姿を現していた。
そしてシャングリラは、激しい攻撃に晒されていた。
先ほどブルーたちがアタラクシアで目にした、アルテメシア守備隊基地を発進した戦闘機、爆撃機が、シャングリラに一斉
に攻撃を仕掛けていた。
そのためにブルーたちは、それ以上シャングリラへと近づけなかった。
「どうしてシャングリラが地上へ……?」
「何があったんだ……!?」
目の前の信じがたい光景に、ブルーとトォニィは驚愕した。
どうしてシャングリラが地中から出てきたのか、人類からの攻撃に晒されているのか。
アルテラも、今にも泣きそうな顔でシャングリラを見つめていた。
「パパ、ママ……みんな……!」
三人はなす術なく、攻撃を受け続けているシャングリラを見つめていたが、不意にアルテラが悲鳴を上げた。
「───!!」
驚くブルーとトォニィの横で、アルテラは力が抜けたように地面に両膝をついた。
「アルテラ!?」
「どうしたんだアルテラ」
ブルーとトォニィが声をかけても、アルテラからの反応はない。
アルテラは両手で顔を覆っていたが、その瞳からは涙が流れ続けていた。
「そんな……」
「アルテラ!」
トォニィがアルテラの肩を抱きしめたが、アルテラは泣き続けるばかりだった。
けれどアルテラの思念にトォニィは触れた。
アルテラの思念はショックで混乱しきっていたが、一瞬でトォニィにすべてを伝えてきた。
「…………!!」
トォニィも瞬時に顔色を変えた。
「そんな事って……」
「トォニィ?」
ブルーはまだ思念波の扱いが不慣れなため、アルテラの思念を読めなかった。
そんなブルーのために、トォニィは自らもショックを受けたまま、それでも知った事実を伝えてくれた。
そしてすべての状況を知ったブルーも、二人と同じように声を詰まらせた。
超久しぶりの更新で申し訳ありません。
オフ原稿に取りかかっていたせいもありますが、ぼちぼち特に書きたいと思っていたシーンのひとつがあるので、逆に緊張しちゃってなかなか取りかかれなかったという…(^^;)
ちょっと気合を入れなおします!
2009.7.26
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