exceeding thousand nights ・52
惨事の引き金は、突然の爆発だった。
シャングリラの船体内部で、同時多発的に複数の爆発が起こったのだ。
爆発箇所の部屋は跡形もなく吹き飛んだ。
爆発したのは12人の子供たちだった。
アタラクシアの研究施設から救助された、子供たちの体内に仕掛けられていた爆弾が爆発したのだ。
まるで自爆したような惨状だったがそうではない。
それは本人たちの意思ではなく、ミュウ殲滅を目的とする人類の仕掛けたものだった。
爆発したのは船内の8ヶ所。
多くの子供たちは居住区セクションにいたが、中には保育室や食堂、たまたまブリッジ下の広場にいた者もいた。
前触れもなく訪れた突然のその爆発に、子供たちはもちろん、子供たちと一緒にいた者たちも巻き込まれた。
子供たちは全員死亡。他にも保育士の女性たちが死亡した。
即死を免れはしても、重傷者も数多く出た。
子供たちがいた場所の周辺に、たまたま居合わせていた者たちだった。
残されたのは無残に破壊された船内と、怪我を負って苦しむ者、そして命を落として横たわる者の───血飛沫、肉片。
その惨劇はミュウが思念波を持っているが故に、瞬く間に船内に伝わった。
いかな戦闘訓練を続けていたとはいえ、元々心優しいミュウたちは激しいショックを受けた。
数時間前まで話をしていた仲間たちの死体が転がる横で、精神を集中できる者は少なかった。
そして多くのミュウの思念波の乱れは、シャングリラの船体を人類から守っていたステルス・デバイスについに綻びを作っ
た。
それこそが人類の狙いだった。
荒野の各地に仕掛けられ、網の目のように張り巡らされていたサイオン・トレーサーが、地中深く潜んでいたシャングリラ
を感知したのだ。
すぐさまそれはアタラクシア守備隊に知られ、そして衛星軌道兵器による超高々度からのビーム攻撃が落とされた。
第一波のそれは、シャングリラを覆い隠していた大地をすべて吹き飛ばした。
そしてシャングリラの白い船体はついに、アルテメシアの空の下に晒される事となった。
衛星軌道兵器からの攻撃、そしてアタラクシア守備隊基地から飛来した戦闘機と爆撃機から打ちこまれる爆弾の雨。
まるで巨大な白鯨に、無数の鮫が襲いかかっているような光景だった。
シャングリラはなんとか船内の状態を整えようとしていた。
かろうじてブリッジは無事であり、ハーレイが必死で各セクションに指示を飛ばしていた。
けれど船内の爆発のショックの上に人類に発見され、攻撃を加えられ───多くのミュウたちは混乱しきっていた。
戦闘訓練を積んだとはいってもそれはあくまで「訓練」で、「実戦」ではないのだ。
そんなシャングリラの状態を、アルテラは思念波で感じ取ったのだ。
付近に設置されたサイオン・トレーサーはアルテラやトォニィも反応していたが、シャングリラを攻撃する事に専念しているの
か、三人には見向きもしなかった。
けれどだからこそ、今の状態のシャングリラにおいそれとは戻れなかった。
そして現状はただただ絶望的な方向へと向かっていた。
「タキオンとタージオンも怪我をしたって……」
「!」
二人は運悪く、最初の爆発に巻き込まれていた。
涙ぐみながらアルテラの告げる事実に、トォニィとブルーも青ざめた。
「どんな状態なんだ!? 怪我はひどいのか!?」
「命に別条はないけど、意識を失くしててまだ目覚めないって……」
気色ばむトォニィにアルテラが知ったままを告げた。
「アルテラ、僕にも見せて!」
ブルーも乞うて、敢えて接触テレパスで現状を映像として教えてもらった。
ブルーの脳裏に伝えられるシャングリラ船内の惨状。
無残に破壊された船内のあちこち。未だくすぶる炎と煙。
遺体ともいえないような、爆発で砕け散った者たち。
傷ついたミュウたちと、その救助に走りまわる者。
そこへさらに爆弾が撃ち込まれ、破壊と混乱が広がってゆく───。
救護班が必死で救助活動をしてはいるが、人類からの攻撃により死者も怪我人も増す一方だった。
「……僕のせいだ……」
真っ青になったブルーは、力なく地面に膝をついて俯いた。
「僕が、助けてって……言ったから……。シャングリラに迎え入れたから、あの子たちも───」
「違う!」
震えるブルーの言葉を、トォニィが即座に否定した。
「違うよ、悪いのはブルーじゃない!」
トォニィは忌々しげに、シャングリラに襲いかかり続ける戦闘機たちを睨んだ。
悪いのはミュウじゃなく、人類なのだというように。
───その時、それを裏付けるように新たな攻撃が加えられた。
雲が裂け、一条の光がシャングリラを襲った。
惑星アルテメシアの衛星軌道上にある攻撃衛星からの再びの攻撃だった。
「!!」
ブルーは声もなく、それを見つめるしかなかった。
トォニィもアルテラも同じく、身動き一つできなかった。
光は真っ直ぐにシャングリラを目指し、その船体を貫くかと思われたそれは、寸でのところで何かに阻まれ拡散した。
辺りの荒野を焼きはしたが、シャングリラには届かなかった。
トォニィとアルテラはシールドを張り、自分たちとブルーの身を咄嗟に守った。
大きな岩のかけらが飛び散ってきはしたが、幸いビームの直撃は免れた。
衝撃がおさまり空を見上げると、そこには変わらぬシャングリラの姿があった。
「シャングリラは無事だ……!!」
「よかった……!」
トォニィとアルテラの二人は喜んだ。
ブルーは無言で、シャングリラを見つめ続けていた。
青いサイオンがシャングリラの巨大な船体を守っていた。
見間違えるはずもない、それほどの力を持つミュウはたった一人しかいない。
「ソルジャー……」
苦々しくその名を口にするブルーからは見えなかったが、シャングリラの白い船体の上部にはシンの姿があった───。
もし私がミュウを殲滅する側の人類だったら、どういう手段を使うかなあ…と、ない頭であれこれ考えてまして。
ステルス・デバイスをどうにかしないと、人類にミュウは見つけられないよねと思い上記のようになりました。
しかしいろいろ考えて、いざ書き始めるためにアニテラを見直したら、ちょっとサイオン・トレーサーについて間違って覚えてました…(−−;)
ミュウじゃないので記憶力に優れていない私。
でももう考えたまま書いちゃいました〜(^^;)
亡くなる予定だったので、子供たちにも女性保育士さんたちにも、敢えて名前を考えたりはしませんでした。
あんまり救いにもなりませんが、子供たちは爆弾を埋め込まれた記憶を消されていたから、いつ爆発するか分からない恐怖というものだけは感じなかったはず…。
そしてお待たせ?いたしました(^^;)
ようやくシンの出番です。
2009.8.13
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