exceeding thousand nights ・53
衛星軌道兵器の攻撃から、シンはたった一人でシャングリラを守り続けていた。
『皆落ちつけ! 心を静めるんだ!』
戦闘を続けながらも、ミュウたちに呼びかけ続けた。
けれど一度混乱の極みに陥ったミュウたちは、そこから容易には脱せなかった。
ブリッジからはハーレイが、船内ではリオたちが必死で皆をまとめようとしていたが、平静を取り戻し思念波を集中できる
状態のミュウはごく一部のみ。
今のシャングリラの戦力は、通常時の三分の一以下だった。
攻撃セクションからのサイオン攻撃もかろうじてありがしたが、その数もパワーも微弱で、人類の戦闘機を撃ち落とすまで
には至らなかった。
ステルス・デバイスもシールドも、サイオンキャノンもすべて思念波を集中させなければ顕在化されない。
そのためにシンはシャングリラに縛られていた。
船体を守るシールドがなければ、シンはシャングリラから離れられない。
タイプ・ブルーの子供たちはいたが、トォニィとアルテラにはブルーを守らせていた。
残りの二人は運悪く負傷し、戦いには出られる状態ではない。
今シャングリラを守れるのは、シンしかいなかった。
せめてシールドだけでも機能させられれば、シャングリラを離れて、すぐにでも衛星軌道兵器を破壊しに行けるのに。
ブリッジのオペレーターが、悲鳴のような声を上げた。
『衛星軌道兵器、エネルギー増大! 攻撃来ます!』
その思念波とほぼ同時に、超高々度から放たれたビームがシャングリラを襲った。
眩い光、激しい衝撃。ミュウを殲滅せんとする膨大なエネルギー。
「……!!」
それらをすべてシンは自らのシールドで防ぎきった。
激しい攻撃を受けても、それでもシャングリラを包む青いサイオンは揺るがない。
シールドに弾かれ拡散したビームが、また辺りの荒野を焼いた。
『ブルー……!』
咄嗟にシンはブルーの姿を確認した。
ブルーたちがシャングリラの近くまで戻ってきている事は、シンも知っていた。
けれど今の状態ではおいそれとシャングリラに戻せない。
思念波で探れば、トォニィたちがサイオンで周囲の爆発からブルーを守っていた。
それを確認したシンは密かに安堵したが、同時に歯噛みもした。
迂闊だった。
人類がミュウ殲滅のためにはどんな手でも使うだろうと分かっていたのに、よもやアタラクシアから助け出した子供たちの体
内に爆弾が埋め込まれていたとは、シンも想像していなかった。
実際、入船時の身体検査では引っ掛からなかったのだから、よほど超小型であり、同時に強力な物だったのであろう。
記憶を消されていた子供たちからも、その情報は掴めなかった。
その事がここまでミュウを───ブルーを危機に晒してしまうとは。
どれほどの訓練を課しても、所詮ミュウはか弱い。
地の底に隠れ続けていた長い時間が、シンが一人でミュウを守り続けていた時間が、死というものからミュウを遠ざけ、弱い
ミュウをさらにか弱くしてしまったのかもしれなかった。
唯一の救いは、衛星軌道兵器はビームを連続発射しなかった。
太陽発電衛星から電力を転送されるのに、僅かだが時間を必要とするからだ。
ただその間もシャングリラに群がる爆撃機たちがバンカー爆弾を落とし続けていたため、シンはシールドを解けなかった。
人類は決してミュウへの攻撃の手を休めなかった。
エネルギーを充填した衛星軌道兵器が、またもやシャングリラに牙をむいた。
『攻撃来ます!』
シャングリラのブリッジで、そして地上ではブルーとトォニィたちが息を呑んだ。
「ソルジャー……!」
「また来る!」
真っ直ぐシャングリラに襲いかかる光。
「させるか……!」
それがシャングリラに届く前にシンが片手をかざし、空に向けてサイオンを放った。
シンの青いサイオンは衛星軌道兵器のビームとぶつかり、押し戻し───惑星の軌道上にある衛星本体を貫いた。
その力はシャングリラのミュウすべてが思念波を集中させて発射するサイオンキャノンよりも強力だった。
爆発し、砕け散った衛星軌道兵器。
その爆発は地上にいるブルーたちの目にも届いた。
「やったあ!」
トォニィが歓声を上げた。
『衛星軌道兵器、消失を確認しました!』
オペレーターが安堵の声をあげた。
それでもシャングリラはまだ戦いの渦中にあった。
攻撃している間、さすがにシンのシールドも消えこそはしなかったが強度が薄れた。
その間に何十発ものバンカー爆弾がシャングリラの船体に突き刺さり、爆発してまた新たな犠牲者を生みだした。
防御と攻撃を同時に行うのは至難の業だ。
相手がこちらを殲滅させようとしているから尚更だった。
けれど衛星軌道兵器を落とし、これ以上シャングリラに被害は及ばないかと思われた。
『新たな高エネルギー反応確認! エネルギー増大中……攻撃来ます!』
オペレーターの報告に、ハーレイを始めとするブリッジの皆、そしてシンも驚いた。
そしてまたもや、超高々度からのビームがシャングリラを襲った。
シンのシールドがそれを防いだ。
爆風に荒れる大地からシールドで身を守ったアルテラとトォニィは、呆然と空を見上げた。
「どうして……!?」
「一機だけじゃないのか…!」
ブルーも信じられない思いで空を見た。
肉眼では捉えられなかったが、惑星アルテメシアに配備された残りの攻撃衛星が、シャングリラを攻撃するために集められつ
つあった。
『衛星兵器、アタラクシア上空に集結中。1、2……4機です!!』
新たなその情報に、シャングリラのブリッジの誰もが驚愕した。
胸に込み上げてくるのは絶望だった。
もしも四機同時に攻撃を受けたら、いかなシンとはいえ守り切れるか分からない。
そんな状況の中、真っ先に立ち直ったのは子供たちだった。
『グラン・パ!』
地上からトォニィがシンに思念波で呼びかけた。
『グラン・パ、僕も戦う!』
実戦を経験した事はなかったが、トォニィは戦う決意を固めた。
今ここで戦わなければ、シャングリラにいる父親のユウイ、友達のタキオンとタージオン、皆死んでしまうかもしれないのだ。
タイプ・ブルーの力をいま使わなくてどこで使うというのか。
『私も戦う!』
アルテラもトォニィと気持ちを同じくした。
けれどそんな二人の決意は、シンに遮られた。
『駄目だ』
即座にかえって来たシンの返答は、迷いのないものだった。
『お前たちはブルーを守れ』
『でもこのままじゃあ……』
『命令だ!』
シンの思念波に、トォニィたちはその場に縛り付けられた。
『グラン・パ……』
確かに状況は、ミュウ側にとって圧倒的に不利だった。
シンはシャングリラを守りながら、その顔に冷たい笑みを滲ませた。
『あの時と、似ているな───』
100年前の人類との戦い。
ソルジャー・ブルーを失ったあの時と、状況はよく似ていた。
あの時はシンの力が足りずに、結果としてソルジャー・ブルーが命を落とした。
今シンが相対している人類側の戦力は、単純に計算してもあの時の4倍以上はあるだろう。
それでも今度こそ守りぬいてみせる。
もう二度と、何も失わないために───。
たったこれだけを書くのに、どれだけ時間をかけてんだか…(−−)
いろいろツッコミどころはあると思いますが、SF的な知識が皆無なのでどうぞご容赦ください。
できる事なら戦闘シーンは省略したいのですが、どうしても必要なので。
シンはすごいサイオンを持っていると思いますが、なにしろシャングリラとミュウ全員を抱えて戦うとなると、大変だろうなあと思います。
2009.9.4
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