exceeding thousand nights ・59
青の間から姿を現したシンは、人類に対し宣戦布告をし、まず惑星アルテメシアを制圧する事を告げた。
突然のシンの宣言に、長老たちを始めシャングリラのミュウたちは驚いたが、それに異を唱える者はいなかった。
ソルジャーはミュウを導く者。そしてミュウとはソルジャーに従うもの。
それが憧れ続けた地球への第一歩となるのならばと、反対する者はいなかった。
───たった一人を除いては。
「アタラクシアからミサイルの発射を確認!」
シャングリラのブリッジに、オペレーターの声が響いた。
「シャングリラ到達まであと一分! 第二、第三弾も発射されました!」
ブリッジの中央に立ち戦いを指揮するシンは、既に出撃していたトォニィたちに命じた。
「トォニィ、落とせ!」
「了解、グラン・パ!」
トォニィからの返答があったすぐ直後に、ミサイルはシャングリラに到達する前に、全弾が空中で爆発し飛散した。
それに安堵する間もなく、次なる人類からの攻撃の足音が確認された。
「アタラクシアから戦闘機が多数接近中!」
オペレーターからの報告に、シンは攻撃セクションに向かって命じた。
「サイオンキャノン用意!」
「了解!」
既に戦闘態勢をとっていた攻撃セクションのミュウたちは、威勢よく返事をした。
程なくして飛来した戦闘機群は容赦なくシャングリラを攻撃してきたが、攻撃セクションのサイオンキャノンとトォニィたちが着実に
一機一機を撃墜していった。
その間にもシャングリラは育英都市アタラクシアに近づきつつあった。
シンがステルス・デバイスを解き人類に向けて宣戦布告した直後に、人類からの攻撃が再び開始された。
人類にとってやはりミュウは、許されざる存在なのだ。
シャングリラのブリッジのスクリーンに映る光───爆発の数々。
スクリーンに映るそれらをシンは真っ直ぐ見つめていた。
先日の人類との戦闘での苦境が嘘のように、その姿に揺らぎはなかった。
それはシャングリラ全体も同じ事で、人類からの攻撃を受けても、ミュウたちに動揺はもうなかった。
ブリッジの片隅で、ブルーはそれを複雑な気持ちで見つめていた。
爆発の閃光と───そしてシンの後ろ姿を。
数日前、ブルーは天体の間で、青の間から出てきたシンと顔をあわせた。
「ようこそ、ソルジャー・シン」
フィシスがシンの来室を歓迎し、奥へと促した。
けれどシンはそれ以上、部屋に入ろうとはしなかった。
ブルーは驚きながら席を立ち、改めてシンを見た。
久しぶりに見るシンの様子に変わりはない。
ただどこか苦い表情で、ブルーを見つめてきた。
その視線の含むものが分からずブルーは戸惑った。
「ソル───」
意を決したブルーがシンに声をかけようとした瞬間、シンは踵を返した。
そして無言のまま、その場から立ち去ってしまった。
「ブルー……」
フィシスが気遣うようにブルーの名前をつぶやいた。
ブルーはそれに何も答えられずに、ただぎこちなく微笑むだけで精一杯だった。
シンが人類に対して宣戦布告をしたのは、その直後だった。
シンの命令でまずトォニィやアルテラ達、四人のタイプ・ブルーの子供たちが出撃していった。
心配するブルーに「心配するな」と明るく言って、トォニィたちは出撃していった。
戦いが開始される事を知ったブルーも、もちろん一緒に戦うつもりだった。
けれどそれはシンに止められた。
シンはトォニィたちには出撃を命じておきながら、ブルーにはシャングリラに留まるように命令した。
ブルーの戸惑い、そして反論にもシンは耳を貸さなかった。
それからブルーは、シンに近づけないままでいた。
ブルーがどう思おうと、現在のソルジャーはシンだった。
どれだけブルーがシンをもう戦わせたくないと思っても、当のシンが頷かないのならブルーに止める術はない。
ブルーの願いも、ソルジャー・ブルーの想いも、シンには届かなかったのだろうか。
今、ブルー以外のミュウは心を一つにして人類と戦っていた。
ブルーだけがたった一人、その場に立ち竦んでいた───。
2月中に完結させるつもりだったのに、仕事に忙殺されて2月はまったく書けませんでした……がっくり。
気がつけば3月ももう中旬…。
おまけに予定していたプロットよりも、またまたちょっと付け足したくなってしまいました。
ラストまでほんとにあとちょっとなんですけど……!
内容的にはここから最終章になります。
2010.3.14
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