exceeding thousand nights ・60
シンが宣戦布告した3日後、惑星アルテメシアはミュウの攻撃の前にあっけなく降伏した。
ユニヴァーサル・コントロール勤務の人間、そして軍の人間たちは当初激しく動揺し、混乱した。
どう対処すべきか機械に判断を仰いでも、その答えはミュウの排除を謳うばかりだった。
けれど機械の指示通りにミュウを攻撃しても、人類の攻撃は以前のようにミュウたちを苦しめはしなかった。
精神的に動揺している時ならともかく、シンの下で心を一つにし、決意を持って戦いに臨んだミュウたち。人間とミュウの能力差を
比べても、明らかにサイオンを持つミュウの方が有利だった。
また人間たちの攻撃も、先の戦いのような激しさはなかった。
アルテメシアの有する最大戦力は衛星軌道兵器だったが、それらは先の戦闘ですべて破壊されていた。
降伏まで3日の時間がかかったのは、アルテメシアの各都市の代表者たちが集まり、議論をし、結論を出すのにかかった時間とい
うだけだった。
シャングリラはその白く優美な船体をアタラクシアの上空に停泊させ、静かすぎる都市の街並みを見下ろしていた。
降伏直後の街には混乱が起こったが、数日が過ぎる頃には人々は驚くほど平穏な日常を取り戻していた。
機械に管理される事が当たり前の人間たちには、自分たちを支配するものが機械だろうとミュウだろうと差異はないのかもしれな
かった。
不可思議なほど平穏な街で、ミュウはあっけないほど簡単にユニヴァーサル・コントロールを掌握し、メインコンピュータから情報を
引き出した。
メイン・コンピュータからの情報は貴重ではあったが、その情報は半分がロックされたまま解除できなかった。
そして何よりもミュウが欲する、地球の座標が分からなかった。
それは人類にとってもミュウにとっても、最重要事項だった。
ミュウは確かに惑星アルテメシアを制圧したが、けれどまだテラズ・ナンバー5は健在だった。
テラズ・ナンバー5は単なる成人検査機という役割だけでなく、ユニヴァーサル・コンピュータさえも支配する立場にあり、云わば惑星
アルテメシアの頭脳であり、要でもあった。
ユニヴァーサル勤務の人間たちの誰も、また市長でさえもテラズ・ナンバー5の所在は知らなかった。
シンの指示で、ミュウは総力を挙げてテラズ・ナンバー5の居場所を再び探した───。
数日後、テラズ・ナンバー5の所在がついに突き止められた。
シンはそれらの報告を、シャングリラのブリッジで受けていた。
一通りの報告を聞いた後、シンは思いもかけない事を言い出した。
「僕が行こう」
シンのつぶやきに、ブリッジの誰もが驚いた。
まさか長であるシン自らが赴くとは思っていなかったからだ。
惑星アルテメシアを攻撃した時のように、タイプ・ブルーの子供たちを向かわせるものかと誰もが思っていた。
すぐに船長であるハーレイがシンを止めた。
「お止め下さい、ソルジャー!」
「いや、僕が一人で行く」
シンの言葉に、さらに皆が驚いた。ハーレイだけでなく、リオや皆が一斉にシンを引きとめた。
『お一人では危険です、ソルジャー!』
「別の者たちを…。そうでなければ誰かお連れ下さい!」
「考え直して下さい!」
「僕一人で充分だ」
ブリッジの誰もがシンを止めたが、シンはその言葉に頷きはしなかった。
「ですがソルジャー、危険すぎます!」
いつもはシンに反論などしないハーレイが珍しく食い下がった。
長であるシンの身にもしもの事があったらと思うと、引き止めるのは当然だった。
けれどそんな言葉に、シンは頑として頷こうとはしなかった。
「奴は僕一人で倒したいんだ」
そう言うとシンは踵を返し、一人で扉へと向かった。
『お待ちください、ソルジャー!』
「ソルジャー!!」
その緋色の背をリオやハーレイが必死で呼び止めたが、誰の引き止める声にもシンは振り向かなかった。
ブリッジを出るとそこにはトォニィたちと、そしてブルーがいた。
思念波でブリッジ内の会話を聞いていたらしい。シンの姿を見ると、トォニィは頬を紅潮させて駆け寄って来た。
「グラン・パ、僕も行くよ!」
「付いて来るな」
「でも……」
「来るなと言っている」
後に続こうとするトォニィを、シンは取り付く島もなく退けた。
その冷たさに、シンを慕うトォニィもさすがにそれ以上は何も言えなくなった。
トォニィの隣ではブルーが、物言いたげな瞳でシンを見つめていた。
一瞬だけ、シンとブルーの視線が交わった。
けれどブルーが言葉を発する前に、シンの姿はその場から消えてしまった。
「ソルジャー……」
シンのいない廊下に、ブルーのつぶやきが届かないまま空しく消えた───。
あとほんの少しで完結する予定なのに、何ヶ月保留にしているんだか!
できれば夏コミ前に完結を目指したい…です。(希望)
だ、ダメでも夏コミ直後ぐらいには…。(希望)
2010.7.25
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