exceeding thousand nights ・62
レインをシャングリラに残し、ブルーはシンが向かった鍾乳洞に転移した。
躊躇う気持ちはあったが、それよりも不安の方が強かった。
サイオンを使い転移した先───鍾乳洞では、思いもしなかった光景があった。
傷だらけで地面に片膝をついたシン。そしてそのシンと対峙するのは、ソルジャー・ブルーだった。
「ソルジャー……!」
シンの姿を目にしたブルーは声を上げた。
「ブルー……? どうしてここに」
呼ばれて振り返ったシンは、サイオンを使い銀髪と紅い瞳に変化したその姿に、そして何よりブルーがやって来た事に驚いてい
た。
シンは身体のあちこちに新たな怪我を負っていた。
着ている服はまるで刀で斬りつけられたように裂け、その下の裂傷からは血が流れ出していた。
幾筋も、幾筋も───。
駆け寄ろうとしたブルーを、シン自身が止めた。
「来るな!」
シンの声に、びくんとブルーは足を止めた。
「早く戻るんだ」
「でも……!」
近寄る事を拒絶され、けれどブルーにはシンを置いて立ち去る事はとてもできなかった。
そしてブルーはシンと対峙する、シンを攻撃したであろう人物を信じられない思いで見つめた。
「どうしてソルジャー・ブルーが……」
「……僕の思念を読まれた。彼はテラズ・ナンバー5が作り出したものだ」
シンの言葉に、ブルーの胸は微かに痛んだ。
それはシンの心の中に、今でもソルジャー・ブルーが存在するという証。
分かっていた事なのに、いざそれを目の当たりにするとブルーの心は揺れた。
ソルジャー・ブルーは年齢こそ違えどもブルーとよく似ていた。
いや、厳密にいえばブルーがソルジャー・ブルーに似ているのだ。
けれど───違う。
ブルーはやはりソルジャー・ブルーではなかった。
ソルジャー・ブルーはその整った顔を微塵も揺らしはせず、シンと新たに現れた侵入者───ブルーに向かってつぶやいた。
「この聖域には何人であろうとも近づく事はできない。ここから立ち去りたまえ」
機械が作り出しているとは思えない優しい声音で、冷たく機械の意思を代弁した。
「ジョミー・マーキス・シン、戻りたまえ」
「……!」
ソルジャー・ブルーの放つ衝撃波がまたシンに新たな傷を作った。
シンは無抵抗でそれを受けた。
攻撃を受けたシン本人よりも、それを見せつけられたブルーの方が息を呑んだ。
「ソルジャー、それは偽者です! ソルジャー・ブルーはもう───」
「分かっている」
ブルーはたまらず叫んだが、シンの答えは驚くほど理性的だった。
シンは目の前のソルジャー・ブルーが偽者だと分かっているのだ。
「だったらどうして……!?」
「…………」
どうして反撃しないのか。されるがままに攻撃を享受するのか。
シンは無言だった。今度はブルーの問いに何も答えはしなかった。
その様子に、ブルーは理解した。
シンはソルジャー・ブルーが偽者だと分かっていても、攻撃できない───したくないのだ。露ほども傷つけたくないほど、大切に想っ
ているのだ。
そんなシンの想いまでも読みとっているのか、ソルジャー・ブルーはその表情を悲しそうに沈ませた。
「君は、また僕の願いを叶えてはくれないんだね」
「っ……!!」
ただミュウの排除を繰り返す言葉とは違い、まるで本物のソルジャー・ブルーがつぶやいたかのような口調だった。
それはシンの心に深く残る悔い───傷を抉った。
ソルジャー・ブルーの攻撃が繰り返しシンを襲った。
「ソルジャー!」
無抵抗のシンの代わりのように、ブルーが悲鳴を上げた。
自らの血で服を、緋色のマントをさらに赤く染めたシンだったが、それでも抵抗をしようとはしなかった。
そんなシンを見て、ソルジャー・ブルーは目を細めた。
「君たちは存在してはならない。秩序を乱す者は処分される」
つぶやきながら、ソルジャー・ブルーがそれまでより大きなエネルギーをその掌に集めた。
「ソルジャー、逃げて下さい!」
ブルーが必死でシンに呼びかけた。
けれどシンはそれに応えるでなく、その場を動こうとする様子もなかった。
「消えるがいい……!」
止めを刺そうというのか、ソルジャー・ブルーがその力をシンに放った。
「!!」
シンに向けて放たれた、シンを抹殺しようとする衝撃波───それをシンはどこか他人事のような目で見つめた。
例え偽者でも、ソルジャー・ブルーの手にかかるのならという気持ちがシンから抵抗するという気力を失くさせていた。
けれどその衝撃波がシンを襲う前に、銀色の影が動いた。
そしてその影の作るシールドが衝撃波を弾いた。
行き場を失った衝撃波は散り散りに飛散し、鍾乳洞の壁を襲った。
粉々に砕け散った鍾乳石や石柱が、洞窟の床に激しい音を立てて崩れ落ちた。
シンの前に立ったのは、青いサイオンを纏ったブルーだった。
ブルーはソルジャー・ブルーの攻撃からシンを守るために、その間に立ち塞がった。
「ブルー!?」
「違う……」
驚くシンを振り返りはしなかったが、ブルーはたまらず叫んだ。
「ソルジャー・ブルーは……本物のソルジャー・ブルーだったら、絶対にソルジャーを攻撃なんかしない!!」
シンに、そして目の前のソルジャー・ブルーの偽者に向けて叫んだ。
そのままシンを守るべく、ブルーはサイオンをソルジャー・ブルーに放とうとした。
けれど誰あろうシンにそれを止められた。
「ブルー、やめるんだ!」
傷ついた身体で立ち上がったシンが、ブルーの手首を掴んだ。
「ソルジャー!?」
「やめてくれ」
「でも、このままじゃソルジャーが……!」
シンを守りたいブルーと、それでもソルジャー・ブルーを傷つけたくないシンの間で言い争いが起きた。
そんな二人に構わず、ソルジャー・ブルーはまたも攻撃してきた。
咄嗟に反応が遅れたブルーは、先ほどのようにシールドを張れなかった。
「ソル……!!」
「───!」
衝撃波に襲われた二人は、そのまま縺れるように床に倒れた。
「う……」
痛みを感じながら、先に動いたのはシンの方だった。
自らの傍らに倒れ伏すブルーに気づき、顔色を変えた。
「ブルー……!!」
シンは倒れたブルーを抱き起こした。
「……ソル……ジャ……」
腕の中のブルーの意識は朦朧とし、ぐったりとしたまま動かない。
ブルーの小さく細い身体を抱き起こすシンの手が、温かいものでぬるりと滑った。
自らの掌に目をやれば、それは血だった。
シンのものではない、ブルーが流した赤い血だった。驚き確かめれば、ブルーの左腕に裂傷があった。今の攻撃で怪我をしたのだ。
シンを守るために。シンを庇って。
シンはブルーをその腕で抱き締めた。強く───強く。
ソルジャー・ブルーが、無感動な表情でそれを見つめた。
「お前たちは存在してはならない」
変わらずにただ繰り返される、ミュウの排除を謳う言葉。
けれど、それに従う訳にはいかなかった。
「お前はソルジャー・ブルーじゃない……!」
ブルーを抱きしめたまま、シンは立ち上がった。
そして怒りに燃える目を真っ直ぐ前へと向けた。
「彼は死んだんだ……! 僕たちのために、命を懸けて」
だからこそもう誰も死なせない───失わない。
シンは片腕でブルーを抱いたまま、残る片手にサイオンを集約した。
それは先ほど受けた衝撃波を遥かに凌駕するほどの力だった。
その力に脅威を感じたのか、ソルジャー・ブルーが初めてたじろぐ様子を見せた。
「ジョミー・マーキス・シン、何を……!」
「お前こそ消え去れ!!」
例え偽者でも、ソルジャー・ブルーを攻撃するのは胸が痛んだ。
シンの瞳に涙が微かに滲んだ。
それでも、シンはそのサイオンを放った。
「ジョミー・マーキ───」
ソルジャー・ブルーの声に、テラズ・ナンバー5の声が重なった。
シンの放った青いサイオンの光の中で、ソルジャー・ブルーの姿はかき消えた。
そしてそのシンの力は、テラズ・ナンバー5本体までをも破壊した。
「不適……不適カクシャ、メ……!!」
機械音声がまるで人間のように悲鳴を上げた。
そして大爆発とともに、テラズ・ナンバー5は惑星アルテメシアから消滅した───。
ああ、これで苦手な戦闘シーンをようやく終えました〜。
人様のシン様がカッコよく戦っているのを読むのは大好きでも、自分で戦闘を書くと遅々として進まないだろう事は分かってたので、シンとテラズ・ナンバー5の対決は可能な限りさらっと流して書こうとずっと思っていました。
(さらっと流して書くのは得意です。胸を張る事じゃないですが(^^;)ゞ)
でも4月ごろだったかな? 書く前にふと思い出しちゃったんです。
そういや私、アニテラでえらくあっさりテラズ・ナンバー5が倒されて、ちょっと拍子抜けしたっけな〜…って。
そういったモヤモヤを解消するのが二次創作の醍醐味の一つ。
し、しかし戦闘シーンって超苦手〜! できれば書きたくないくらい苦手!
でもでもどうせなら…ってな理由で、取りかかるのにやけに間が開きました(^^;)
とはいえじっくりな内容になったかというと微妙なのですが、まあ当初予定してたものよりはちょこっとは…。
あとはどうか皆さまの脳内フィルターで、補完をお願いいたしますv
あと、戦闘についてあれこれつぶやいてますが、ここで書き表したかったのはもちろん別の事です〜(^^;)
2010.8.8
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